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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(14)


+ + + + + + + + + +
季節も寒さを忘れ、春がやってくる。
この頃次第に仕事を覚え始めたまもりは、色々と他の部署に顔を出すことも多くなった。
大抵はヒル魔に却下された文書を持って回るので、あまりいい顔をされることはない。
それでも仕事は仕事。
「すみません。この書類、お返しします」
「うわ~~~また却下だ~~~」
「うわーん今日帰れないー!!」
泣きながら書類を受け取る面々に頭を下げて退出する。
「・・・イイ身分だよな」
完全に閉まりきる前の扉から聞こえた声を、まもりは聞かなかったふりで歩き出す。
社内を歩いていて、まもりに向けられる視線が好意的であることは、あまりない。
雪光が共にいればそこまで見られないが、一人でいるとあからさまに嫌悪の視線を向ける者も多かった。
ふう、とエレベーターの中で嘆息する。
どんなにいい会社であっても、数多くの人が存在する限りいい人ばかりとは限らない。
そうでなくても血の滲むような努力をして入社した者たちにとっては、ぽっと出のまもりなどろくな仕事も出来ず、腹立たしいだけだろう。
それが判るから、まもりはあえて平然として仕事をするようにしている。
「・・・大丈夫」
まもりは俯き、自分に言い聞かせる。
大丈夫。
仕事が出来るようになればあのようなこと、言われなくなる。
もっと頑張らなくては。
もっと仕事を覚えなければ。
エレベーターが開く。
まもりは意識して笑みを浮かべ、自席のある部屋へと向かう。
扉を開くと、雪光が時計を見て告げた。
「姉崎さん、少し早いですが休憩どうぞ。ヒル魔さんとお昼に出て貰えますか?」
「はい」
このところ忙しさからかヒル魔の食事に対する意識が更に下がった、と雪光は頭を悩ませているのだ。
まもりが連れ出せばなんとか食事を摂るので、こうして頼まれることは珍しくない。
ランチ用の小さな鞄を手に、社長室に向かう。
「失礼致します。社長、昼食に参りましょう」
「・・・あ? またテメェか糞エサ係」
「私ではご不満でしょうが、栄養失調で倒れられてはこちらも困りますので」
淡々と切り返すとそれでもヒル魔は小さく笑って席を立つ。
その背を追いながら、まもりはそっと胃に手を当てた。
このところ調子が思わしくない。
けれどこの程度の痛み、単なる気のせいだろう。
ストレスで過敏になっているだけだ、とまもりは自己判断し、ヒル魔の後に続いた。


鮮やかな季節を知らせる緑はこのオフィスにはない。
せいぜいいいところ常緑の観葉植物がちらほらある程度で。
夏の暑さなんて素知らぬふりの室内で、雪光の静かな声がまもりを呼んだ。
「姉崎さん」
「はい?」
まもりが笑みを浮かべて向き合った雪光は、眉を寄せている。
「・・・ちゃんと寝てますか?」
まもりの顔色はかなり悪い。
化粧で誤魔化しているが、明らかに薄くなった頬は隠しようがない。
「え? はい」
それでも平然と頷き新たな仕事に手を掛けようとするのを、雪光の手が止めた。
「もう今日は帰りなさい」
「でも、まだ仕事がありますから」
「それは明日でいいです。残りは僕が―――」
「嫌です!」
雪光の声を遮って、まもりの尖った声が飛ぶ。
じっと見られてまもりははっと我に返った。
「私の仕事ですから、大丈夫です。雪光さんの仕事も沢山ありますでしょう?」
取り繕うように笑ったまもりに、雪光は嘆息する。
「・・・あまり根を詰めないで下さい。あなたが倒れたら僕の監督不行届ですから」
「はい、ほどほどにします」
口ではそう言うくせに、まもりの手は止まらない。
これは何を言っても無駄だ、と雪光は頭を悩ませる。
彼女が酷く頑固で融通が利かないのは、かつて同じ部活に籍を置いた者は当然知っていること。
どうしたものか、と思う雪光の内線が鳴る。
「はい、雪光です」
『俺だ。来い』
簡潔な声に、雪光は立ち上がる。
丁度いい、彼女のことを進言しなくては。
ちらりと視線を向けるとまもりは気づいたかのように顔を上げて。
そうして笑みを浮かべ、再び言った。
「大丈夫ですから」

<続>
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