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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(10)


+ + + + + + + + + +
研修担当者はまもりよりも年若い女性だった。
「佐藤です。よろしくお願いします」
「姉崎です。こちらこそよろしくお願いします」
最初は会社の主力業務の説明から、ということでテキスト片手に説明される。
その説明がまた上手で、まもりは眠くなる事もなく説明を聞く。
あっという間に午前中の時間が過ぎた。
「ここまでで難しい単語などありませんでしたか?」
「いえ! すごく判りやすくて面白かったです!」
「そうですか、それはよかったです」
うふふ、と笑う顔はとても可愛らしい。
「うちの会社は、各部門で業務ががらりと変わりますので、異動するごとに覚える事がかなり多いんです」
「そうなんですか」
「だから新たな場所で仕事を始める前に社員同士の勉強会をやるんです。教えるのは実際に業務に携わって二年以上の経験がある者です」
「へえ・・・」
「勉強会で教える方に回ると改めて自分の仕事がよく判るし、教えられる方も実務が覚えやすいんですよ」
判りやすく纏められた手作りらしいテキストを見つめる。
前に仕事をしていたところは研究機関だったけれど、新人に教えるというような風潮はなく、事務員は研究員とは別物扱いでどんな仕事内容なのかも教えて貰えない事が多かった。
企業秘密だったと言われればそれまでだが、どこか社員同士でもギスギスしていたような気がする。
「いい会社ですね」
「そうですね。私はここに勤められてすごくよかったと思ってます」
だから、と彼女は笑って言った。
「姉崎さんにもそう思って貰えたらいいな、と思って説明しました」
ここでお昼を告げるチャイムが鳴った。
「ではここまでで私の時間は終わります。もし不明な事があったらテキストの連絡先にいつでもお電話下さい」
笑顔で礼を述べ、彼女と別れたまもりは、雪光の依頼を思い出しエレベーターに向かう。
けれどお昼の時間帯のせいか、エレベーターは一向に来ない。
諦めて階段で降りる事に決めて、非常階段の扉を開いた。

社長室と会議室は三階離れているだけなので、さほど時間は掛からなかった。
扉を開くと、雪光は既に昼で外に出たらしく、姿がない。
社長室をノックしたが返事はない。
出掛けたのかな、とも思ったが、一応扉を開いてみる。
「・・・あ」
ヒル魔は眠っていた。
腕を組み、インカムは外した状態で、椅子に座ったまま眸を閉じている。
無防備な様子に邪魔をしては悪いかと、扉を閉めて戻ろうとしたが、その前に彼の眸が開かれる。
「なんだ」
「あの・・・昼食はいかがなさいますか?」
「昼?」
ヒル魔は時計を見て、それから肩をすくめる。
「イラネ」
「でも、何か召し上がりましたか?」
「忙しい。いらねぇよ」
再びインカムを付けようとしたヒル魔の耳に、唐突にぐう、という音が聞こえた。
片眉を上げて見れば、そこには赤い顔をしたまもりの姿。
「わ、私はお腹空いたのでお昼を食べてきます! お邪魔して申し訳ありませんで・・・」
慌てて扉を閉じようとする彼女の側に、先ほどとは打って変わって楽しそうな表情を浮かべたヒル魔が近寄ってくる。
「何だ、そんなに腹減ってたのか」
「いや! たまたま音がしただけで! そんなには!」
焦れば焦る程彼の顔は楽しげに変化していく。
何を言ってもダメだ、と遅ればせながら理解したまもりは口を閉ざしたがもう遅い。
「相変わらず食い意地の張った姉崎サンに飯喰わせねぇとナァ」
かったるそうな先ほどまでの様子から一変、楽しげにまもりを伴って歩くヒル魔の後を、まもりは渋々と付いていくしかない。
エレベーターホールに出る。
が、彼はまもりが朝使ったのとは違う扉の前に立った。
「そこは?」
「ここは社長室直通のエレベーターだ。テメェも朝使っただろ」
「いえ、私は隣のエレベーターを使いましたけれど」
「ア?」
確かにエレベーターホールで、社長室直通とあったエレベーターには気づいた。
そういえば当初案内されたときもそちらを使ったような気もする。
けれど社長でもないのに直通を使うのは、と何となく気が引けて使わなかったのだ。
「効率の悪いっつーか・・・相変わらず融通の利かない頭だナァ」
呆れたように言われて、まもりは笑みを浮かべる。
「不調法者ですので、至りませんでした」
その先を嫌そうな声でヒル魔は遮る。
「あーいい。テメェの言いそうなことは判る」
「そうですか」
「こんなことで首になんかしねぇよ」
ケケケ、と聞き慣れた声で笑われる。
それにむっとしないと言えば嘘になるが、まもりは口を閉ざす。
彼のぶらりと下げられた左手に光る指輪。
彼の健康管理を行うのも妻の仕事じゃないだろうか、と考えたが、それこそ余計な世話だと思い直す。
彼らは彼らなりの関係なのだろう。
かつてのヒル魔とまもりのような関係であるとは限らない。
内心を押し殺しながら、まもりはヒル魔の前に立ち、階数ボタンを押す。
かつては立ち並んだ隣にはもう立てないから。

<続>
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