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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(13)


+ + + + + + + + + +
招かれたのはアメリカ人の夫妻が催したクリスマスパーティー。
家庭の暖かみが溢れる飾り付けにまもりは相好を崩した。
かつて実家にいたときにはクリスマスにこういった飾り付けをして、ケーキを食べてプレゼントを貰った。
いつしかサンタクロースはいないのだと理解してしまったけれど、それでも楽しいイベントだったのは間違いない。
招かれたのは国籍を問わず様々な人たち。
聞けばヒル魔がアメリカにいたときに世話になった人たちの集まりなのだという。
飛び交う言語は英語だ。
『やあヒル魔! 最近めっきりこっちに来ないじゃないか』
『生憎と仕事が忙しいんだよ。そのうち暇見て襲撃かけてやる』
『その時は銃を置いてきてくれよ』
楽しげに歓談するヒル魔の姿を横目に、まるっきり他人の位置づけでここに来たまもりは壁際による。
『あの』
おず、と掛けられた声に視線を下げると、そこにはこの家の子だろう少女がまもりを見上げていた。
『お姉さんの瞳、綺麗な碧ね』
『あら、ありがとう』
にっこりと笑うと、少女もぱあっと顔を明るくした。
『あのね、こっちに綺麗な飾りがあるの! 一緒に見よう?』
『ええ、いいわよ』
大人ばかりで退屈したのだろう少女は、遊び相手を見つけて嬉しかったのだろう。
まもりを引きつれ蝶のようにひらひらと飛び回る。
見上げる程大きなツリーに飾られたクリスタルを少女は指さす。
『本当、綺麗ね』
『素敵でしょう? お父様が買って下さったの』
『そう・・・』
まもりはそっとツリーを撫でる。
かつてはこの少女と同じように父親の買ってくれたツリーを見上げてはしゃいでいた。
ぴかぴかと光る飾りを欲しくてこっそり部屋に持っていっても、あまり綺麗に感じなくて結局は箱に戻した。
もう、それも随分と前の話だ。
すっかり疎遠になった実家にはしばらく帰っていない。
あのツリーは今も飾られているのだろうか。
『ねえ、お姉さんはヒル魔の恋人なの?』
『え?』
興味津々の瞳がまもりを見上げている。
『あの人、毎年一人で参加してるってお母様が言っていたの。今年は急に一人連れて行く、って言ったから驚いてたわ』
まもりは柔らかく苦笑して首を振った。
『違うわ。彼は奥さんがいるのよ』
『え? だって・・・』
彼女は戸惑ったようにヒル魔の指を見る。
『指輪してないよ?』
まもりはぱっと彼の手を見る。グラスを持つ手には確かに指輪がない。
何のつもりだ、とまもりは眉を寄せる。
その視線に気づいたのか、ヒル魔はふいにまもりを見て。
そうして楽しそうに口角をつり上げた。


予定になかったパーティーも、周囲の人の気遣いもあってか概ね楽しく過ごせた。
懐いた少女に別れを告げ、会場を後にする。
「お疲れ様でした」
タクシーに乗り込んだヒル魔に、まもりは外から声を掛ける。
「テメェも乗れ」
「いいえ。駅が近いですから、電車で帰ります」
まもりはにっこりと笑って固辞する。ヒル魔の眉が寄った。
「他の男と帰ったとあれば、彼に申し開きが出来ませんので」
彼氏などいないが、体よく断るには一番だろうと些細な嘘を口にする。
「・・・ホー」
先ほどまでの上機嫌はどこへやら、一転して不機嫌になった彼に構わず扉を閉め、走り出すタクシーを見送る。
ほ、と安堵の息をついた。
ヒル魔と二人でいると気詰まりだ。
一体何のつもりだろう、とまもりは唐突に姿を消した彼の指輪の事を考える。
ああ、でも。
結婚指輪をしているのに連れ立っている女が妻ではないと知れたら周囲は煩いから外しただけだろう。
寒空に晒されてやっと頭が冷えた。
こんな簡単なことにも思い至れないなんて、愚鈍にも程があると己を嘲る。
かつての自分は。
高校の時の自分は。
努力すれば何でも叶うと思っていた。実際に努力で色々と叶えたことも多かった。
今はどうだろう。
仕事一つ満足に出来ず、かつては並び立っていた男と同列にいることもできず。
彼の一挙一動におかしいくらい戸惑わされて。
まもりは空を見上げた。
きらきらと瞬くオリオン座、その瞬きがふいに一際美しくなる。
「・・・ッ」
瞳に溜まる涙は視界を歪ませ、星々を映し込む。

誰に対しても虚勢を張ることでしか自分を保てないなんて、なんて滑稽なんだろう、私。

<続>
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