旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
指一本動かない、というのはこういうことか、とまもりは薄く闇が忍び込んでぼんやりとした室内を眺めていた。
嵐のようだった一時が過ぎ去り、目が覚めたときには彼の姿は影も形もなかった。
あれは夢だったのだ、夢見が悪かっただけだ―――という言い訳は、幾つも刻まれた生々しい痕跡の前では無意味だ。
横たわったまま、ぬめる下肢の感触を意識から切り離したくて、意味もなく室内に視線を向ける。
ふと、見慣れないものが視界に入った。
「・・・?」
瞳を凝らして見つめて、その正体に気づく。
同時にまもりは息を呑んだ。
「なんで・・・」
それはヒル魔が薬指に嵌めていたはずの指輪だった。
翌朝、雪光に電話すると、こちらは気にせず療養しなさい、と言われただけで休む理由すら尋ねられなかった。
それほどに酷い顔色だったのだろう。
買い置きのレトルトのお粥を啜りつつ、一日中横になる。
けれど、眠りに落ちようとすると、声がするのだ。
『姉崎』
「―――――――っ!!」
その度にびくりと身体を震わせ、意識を取り戻して室内を見る。
「・・・大丈夫」
呟き、まもりは自分を抱きしめる。
恐怖で震えが止まらない。
大丈夫、大丈夫。
ここには誰もいない。
自分だけだ。誰もまもりのことを脅かさない。
大丈夫。
まもりはきつく目を閉じ、自らに言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫。
あの時ヒル魔は疲れていただけ。
指輪は外してそのまま置き忘れただけ。
大丈夫。
大丈夫。
警察に相談しようとも思ったが、起こった全ての説明をすることを考えると電話を握る手が止まる。
元より法治国家にありながら彼はその枠外で暗躍していたから。
訴えようにも、相手が相手だけに難しいだろう。
かつては持ち得ていたはずの、困難に立ち向かう気力も体力も時と共に摩耗し、なけなしのそれらも今回の一件で奪われ。
まもりは誰に助けを求めることも出来ず、ただ横たわっていた。
その後二日程夢うつつな日々を過ごし、結局ろくに休まらずまもりは出社した。
けれど顔を見るなり雪光は眉を寄せる。
「・・・療養しなさいと言ったはずですよね」
「させていただきましたよ。二日間もすみませんでした」
「夏期休暇もあるんですよ。姉崎さん、一日も取ってないでしょう」
「大丈夫です」
これは何を言っても聞かないと判断し、雪光はため息混じりに自席に戻る。
まもりも自席について仕事を開始する。
しばらく黙々と手を動かし、時折鳴る電話に応対する他は不自然な程静まりかえった時を過ごす。
昼食もそこそこに、働き続けるまもりを見つめた雪光は、つと口を開いた。
「ヒル魔さんも、このところそんな様子ですよ」
「そうですか」
まもりの声は淡々と返された。
動揺は微塵もない。
雪光は用心深く彼女を見つめていたが、小さく嘆息してその後は一言も口を利かず。
秘書室は、今までにないくらい重い空気が立ちこめていた。
<続>
嵐のようだった一時が過ぎ去り、目が覚めたときには彼の姿は影も形もなかった。
あれは夢だったのだ、夢見が悪かっただけだ―――という言い訳は、幾つも刻まれた生々しい痕跡の前では無意味だ。
横たわったまま、ぬめる下肢の感触を意識から切り離したくて、意味もなく室内に視線を向ける。
ふと、見慣れないものが視界に入った。
「・・・?」
瞳を凝らして見つめて、その正体に気づく。
同時にまもりは息を呑んだ。
「なんで・・・」
それはヒル魔が薬指に嵌めていたはずの指輪だった。
翌朝、雪光に電話すると、こちらは気にせず療養しなさい、と言われただけで休む理由すら尋ねられなかった。
それほどに酷い顔色だったのだろう。
買い置きのレトルトのお粥を啜りつつ、一日中横になる。
けれど、眠りに落ちようとすると、声がするのだ。
『姉崎』
「―――――――っ!!」
その度にびくりと身体を震わせ、意識を取り戻して室内を見る。
「・・・大丈夫」
呟き、まもりは自分を抱きしめる。
恐怖で震えが止まらない。
大丈夫、大丈夫。
ここには誰もいない。
自分だけだ。誰もまもりのことを脅かさない。
大丈夫。
まもりはきつく目を閉じ、自らに言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫。
あの時ヒル魔は疲れていただけ。
指輪は外してそのまま置き忘れただけ。
大丈夫。
大丈夫。
警察に相談しようとも思ったが、起こった全ての説明をすることを考えると電話を握る手が止まる。
元より法治国家にありながら彼はその枠外で暗躍していたから。
訴えようにも、相手が相手だけに難しいだろう。
かつては持ち得ていたはずの、困難に立ち向かう気力も体力も時と共に摩耗し、なけなしのそれらも今回の一件で奪われ。
まもりは誰に助けを求めることも出来ず、ただ横たわっていた。
その後二日程夢うつつな日々を過ごし、結局ろくに休まらずまもりは出社した。
けれど顔を見るなり雪光は眉を寄せる。
「・・・療養しなさいと言ったはずですよね」
「させていただきましたよ。二日間もすみませんでした」
「夏期休暇もあるんですよ。姉崎さん、一日も取ってないでしょう」
「大丈夫です」
これは何を言っても聞かないと判断し、雪光はため息混じりに自席に戻る。
まもりも自席について仕事を開始する。
しばらく黙々と手を動かし、時折鳴る電話に応対する他は不自然な程静まりかえった時を過ごす。
昼食もそこそこに、働き続けるまもりを見つめた雪光は、つと口を開いた。
「ヒル魔さんも、このところそんな様子ですよ」
「そうですか」
まもりの声は淡々と返された。
動揺は微塵もない。
雪光は用心深く彼女を見つめていたが、小さく嘆息してその後は一言も口を利かず。
秘書室は、今までにないくらい重い空気が立ちこめていた。
<続>
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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