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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(22)


+ + + + + + + + + +
ヒル魔は血の跡を追ったが、すぐに止まったらしく跡は途切れた。
ケルベロスでもいれば匂いで追わせたのに、と歯がみするがいないものはしょうがない。
いかにも入院患者です、という格好の女が裸足でふらふらしていればすぐ目につくだろうに、その姿はない。
警察や消防にも連絡したが、それらしい人物が保護されたとも、救急で搬送されたとも聞いていない。
もし、誰かが彼女を見つけて、他の誰にも気づかれず連れ去っていたら。
弱り切ったまもりは抵抗などできないだろう。
耳に蘇るのは、まもりの状況を知らせたあの電話。
『自業自得よ』
何もかもを見透かすような声が、いっそ哀れむような音を載せていた。
からかいや笑いに滲む声は何度も聞いていたが、そんな声を向けられたのは初めてだった。
『言わなければ、伝わらないのに』
何が判る、と噛みついた彼にも声は平然と返した。
『あんな姿になるまで働かせておいて、それはないでしょう』
まるで紙のようだった、という表現は的確だ。
顔色も、気配も、意識も、その身体さえ。
薄っぺらい紙のように吹き飛びそうな、そんな危うさを湛えていた。
当然、知っていた。
まもりがそんな風になっているのも、そこまで追いつめられていたことも。
弱音を決して吐かない女だから、と思っていたけれど。
それは、ヒル魔が弱音を吐かせないようにしていた、だけ。
ギリ、と奥歯を噛みしめて意識を引き戻す。
あてどなく彷徨っても、彼女の姿はない。
もしや自宅に戻っているのか、と僅かな望みを託してヒル魔は彼女の自宅を訪れる。
扉の鍵はお得意のピッキングで難なく開いた。
チェーンが掛かっていないことに落胆する。
おそらくこの場にはいないだろう。
けれど彼女の手がかりになるモノはないか、と扉を開いて―――その饐えた臭いに手を止めた。
「?!」
ヒル魔の視界に、夜闇にうち沈む室内の様子が僅かに見える。
けれど、それはとても信じられない光景だった。
かつて一度目に訪れたこの部屋は綺麗に整えられていた。
二度目の訪問の時には、多少雑多な気配があったが、そこまで汚れているという雰囲気でもなかった。
だが、今。
目の前に広がる光景は、とても彼女の部屋とは思えないような汚れようだった。
シンクには洗い物が積み上がり、黴臭い匂いを発している。いくつもゴミが詰め込まれたコンビニのビニール袋が積み上げられている。
小蠅が飛ぶ薄汚れた空気に、ヒル魔は靴も脱がず上がり込んだ。ぐしゃりとゴミが足の下で潰れる。
「姉崎」
いないとは思っていても、信じられなくてヒル魔はその名を呼びながら奥へと進む。
脱いだ服が山となり、鞄も小物も全てが雑多に積み上げられている。僅かに見える床には埃が溜まり、空気も悪い。
ちらりと見えたゴミ袋の中身は全てコンビニ弁当の器やペットボトルだった。
そしてテーブルの上に広がっているのは、多種多様な胃薬、栄養剤の空き瓶。
開いたクローゼットに並ぶ洋服だけは清潔に保たれているのが逆に恐ろしい。
いつからこの部屋は掃除をされていないのか、と愕然とする。
あれほどきれい好きだったのに。
ヒル魔は外に出て、手当たり次第に電話を鳴らし始めた。
深夜だとか、自らの疲れだとか、そんなものはもうどうでもよかった。

はやく、まもりを見つけ出したかった。



セナは響く携帯電話の音に顔を上げた。
見れば先ほどベッドに入ってから二時間程しか経っていない。
一体誰がこんな非常識な時間に、と寝ぼけた頭で思いながら相手を確認する。
『ヒル魔さん』
そう背面のディスプレイに浮かんだ名に、手が止まった。
こんな時間に、もう何年も会っていない彼から、唐突な電話。
セナは咄嗟にまもりの方を見た。彼女はまだ眠っている。
ヒル魔と彼女の関係は、今現在がどうであるかは判らない。
今は全く関係がなくて、この電話とまもりとの関係性はないのかもしれない。
けれど、あれほど尋常じゃない状態で外にいたまもりと、この唐突に掛けられた電話。
その相手があのヒル魔であれば、なにがしかの関わりがあるのでは、という疑いも強まるというもの。
まもりの意識が戻り、話を聞いてからならともかく、今の状況では。
これは、出てはいけない。
セナは携帯をクローゼットに押し込み、耳を塞いで知らない振りを決め込んだ。
後でどれほどに壮絶な目に遭わされようとも、まもりのこの穏やかな眠りを妨げることのないように、と。

<続>
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