旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
まもりはあの直後から件の指輪を持ってきて、持ち歩いていた。
社長が不在の時にこっそり机の引き出しにでも入れておこうと思っていたのだが、以前より一層社長室に閉じこもるようになった彼が外に出てくることはなくて。
「社長は家に帰ってらっしゃるんでしょうか」
「いえ、帰ってないでしょうね」
彼の家は、妻とは不仲なのだろうか。
それとも、指輪がないから帰れないのだろうか。
どちらにせよ、それを理由に自宅に押しかけられては困る。
だからいつでも返せるようにポケットに忍ばせてある。
本当は見るのも辛い。
かつては恋人だった人の持ち物だけれど、それは別の人と誓った愛の印。
優しい記憶だけで構成されていた彼の存在が、酷く恐ろしいモノとなって塗り替えられてからは、尚更。
姿を見なくて済むのはいいが、秘書なのに一日顔を合わせることなく済むというのはどういう了見なのだろうか。
けれど雪光は時折呼びつけられ、直接やりとりがある。
それが本来は喜んではいけない状況だ、という気持ちがあるから、どうにか彼の前へ行こうとするのだが。
身体は正直だ。
社長室の扉の前に立っただけで、酷く気分が悪くなる。
この扉一枚向こうに、意図の読めない悪魔が存在している。
何度も扉を叩こうか辞めようかと躊躇って、結局踵を返すことを繰り返す。
かつては多少なりともあった雪光との会話もなくなり、まもりはますます孤立した。
ろくに眠れないまま目覚めて、これも仕事だからときちんと化粧をして、電車に揺られ、暗鬱な気分で職場へと向かう。
私語の一切ない仕事をこなし、美味しくもないコンビニ弁当を手に帰宅し、それらに箸を付けて雑多に汚れた部屋に眠る。
毎日がそれの繰り返し。
変化は何一つない。
感情は沈み込んで、波打たせるような出来事は何一つなく。
時折、全てを投げ出してしまいそうになる。
けれどスーツのポケットに忍ばせてある指輪に触れる度に、これを返さないとそれも叶わないと自らを戒める。
誰も知らない悪循環に、まもりは一人嵌り込んでいた。
そんな時間が長く続いた、ある日。
まもりは出勤途中に見慣れない親子連れとすれ違った。
母親は若く、娘もまだ幼い。
気のせいか、母親の方が足を止め、じっとまもりを見ている気がした。
ちらりと見直しても、その姿に見覚えはない。
「ママ?」
そして気のせいではなく、こちらをじっと観察するように女性はまもりを見つめている。
何もかもを見透かすような視線に、まもりはぎこちなく視線を逸らした。
子供、か。
かつては保育士になりたいという夢もあったのだった、とぼんやり思い出す。
遥か昔の事のようで、実際はたかだか数年前の話だ。
かつて自分は人並みの恋愛をし、人並みの結婚をして、ごく普通の家庭を築くのだとぼんやり考えていた。
今はそんな夢のような幸せは、自分には訪れないと理解している。
結婚する相手もおらず、子供なんて―――
こども?
「・・・!!」
そうしてまもりは、唐突に足を止めた。
<続>
社長が不在の時にこっそり机の引き出しにでも入れておこうと思っていたのだが、以前より一層社長室に閉じこもるようになった彼が外に出てくることはなくて。
「社長は家に帰ってらっしゃるんでしょうか」
「いえ、帰ってないでしょうね」
彼の家は、妻とは不仲なのだろうか。
それとも、指輪がないから帰れないのだろうか。
どちらにせよ、それを理由に自宅に押しかけられては困る。
だからいつでも返せるようにポケットに忍ばせてある。
本当は見るのも辛い。
かつては恋人だった人の持ち物だけれど、それは別の人と誓った愛の印。
優しい記憶だけで構成されていた彼の存在が、酷く恐ろしいモノとなって塗り替えられてからは、尚更。
姿を見なくて済むのはいいが、秘書なのに一日顔を合わせることなく済むというのはどういう了見なのだろうか。
けれど雪光は時折呼びつけられ、直接やりとりがある。
それが本来は喜んではいけない状況だ、という気持ちがあるから、どうにか彼の前へ行こうとするのだが。
身体は正直だ。
社長室の扉の前に立っただけで、酷く気分が悪くなる。
この扉一枚向こうに、意図の読めない悪魔が存在している。
何度も扉を叩こうか辞めようかと躊躇って、結局踵を返すことを繰り返す。
かつては多少なりともあった雪光との会話もなくなり、まもりはますます孤立した。
ろくに眠れないまま目覚めて、これも仕事だからときちんと化粧をして、電車に揺られ、暗鬱な気分で職場へと向かう。
私語の一切ない仕事をこなし、美味しくもないコンビニ弁当を手に帰宅し、それらに箸を付けて雑多に汚れた部屋に眠る。
毎日がそれの繰り返し。
変化は何一つない。
感情は沈み込んで、波打たせるような出来事は何一つなく。
時折、全てを投げ出してしまいそうになる。
けれどスーツのポケットに忍ばせてある指輪に触れる度に、これを返さないとそれも叶わないと自らを戒める。
誰も知らない悪循環に、まもりは一人嵌り込んでいた。
そんな時間が長く続いた、ある日。
まもりは出勤途中に見慣れない親子連れとすれ違った。
母親は若く、娘もまだ幼い。
気のせいか、母親の方が足を止め、じっとまもりを見ている気がした。
ちらりと見直しても、その姿に見覚えはない。
「ママ?」
そして気のせいではなく、こちらをじっと観察するように女性はまもりを見つめている。
何もかもを見透かすような視線に、まもりはぎこちなく視線を逸らした。
子供、か。
かつては保育士になりたいという夢もあったのだった、とぼんやり思い出す。
遥か昔の事のようで、実際はたかだか数年前の話だ。
かつて自分は人並みの恋愛をし、人並みの結婚をして、ごく普通の家庭を築くのだとぼんやり考えていた。
今はそんな夢のような幸せは、自分には訪れないと理解している。
結婚する相手もおらず、子供なんて―――
こども?
「・・・!!」
そうしてまもりは、唐突に足を止めた。
<続>
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鳥(とり)
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女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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