旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
「何ですか」
「帰るぞ」
「お一人でどうぞ」
「俺が嫌なら呼べばいい」
にやり、とヒル魔は意地悪く笑う。
「男がいるんだろ?」
それにまもりは内心唇を咬んだ。
いない者を呼べるはずがない。
やはり知っていてそんなことを言うのだ、この男は。
「生憎と忙しい人なので、私のことで手を煩わせたくはないです。一人で帰ります」
「そんなツラさせるなんざ、糞甲斐性なしだナァ」
「彼は、・・・優しい人なんです」
まもりはふっと記憶を辿った。
浮かぶのは今まで別れたどの男でもない。
高校の時の、熱戦の合間合間に見せる僅かな、そしてとてもわかりにくい優しさ。
彼女にとって一番の優しさは、彼のそういった部分に他ならなかった。
それから何人か他の男と付き合ったけれど、彼の記憶は色あせることがなくて。
綺麗で鮮やかな、幸せなあの頃の記憶に幽かに口元をほころばせる。
―――それでも、もう過去は遠すぎて。
―――再びあの優しさを感じる事なんてもう絶対に無理なのに。
「姉崎!」
「っ」
怒声にまもりは我に返る。
心配そうにこちらを見つめる雪光と、苛立ちを増したヒル魔の視線に一瞬たじろいだ。
今。
私は、どんな顔をしていた?
ヒル魔の静かな声が響く。
「車を呼べ」
「はい。下にタクシーを用意しました」
雪光が見送りで手を振るのに、まもりは眉を寄せてきつく唇を咬んだ。
まもりが降りるのにヒル魔も続いた。
「社長のご自宅は違いますでしょう」
「なんだ、送ってやったのに茶の一つもねぇのか」
「お茶が飲みたいならご自宅へどうぞお帰りになって下さい」
素っ気ないまもりの言葉に軽く鼻を鳴らしただけで、ヒル魔はまもりの後に続いて階段を上る。
振り返ればタクシーは既に走り去っていた。
「今のタクシー、呼び戻しましょうか」
「後で通りで拾うからいい。それよりも入れろ」
糞暑ィ、とぼやかれてまもりはふと高校時代を思い出す。
灼熱のアメリカの大地でも、雪の舞う日本のフィールドでも、どこでも彼は気候について口にしたことがなかった。
いい天気ね、というのも、暑い寒いを言うのはまもりの方で。
「随分と―――」
ふと口をつきそうになった言葉を、まもりは不自然になるのも構わず無理矢理呑み込んだ。
「随分と?」
不審そうなヒル魔にまもりはややぎこちなく笑みを浮かべる。
「独り言です」
すみません、と一言謝ってまもりは頭を振った。
『随分と昔とは変わったわね』。
その一言を口にしたら、まもりが誰よりも過去に縋っていることが知られてしまいそうだ。
「お疲れのようデスネ」
「社長程ではございません」
「その口調ヤメロ。もう社外だ」
不満そうなヒル魔に、ならば帰れと言おうとして振り返ったその時。
「・・・っ」
不意に視界が揺れる。
意識が一瞬、真っ白に途切れる。
階段にあったはずの足が、浮き上がる。
「危ネェな」
気づけばヒル魔に腕を掴まれていた。
<続>
「帰るぞ」
「お一人でどうぞ」
「俺が嫌なら呼べばいい」
にやり、とヒル魔は意地悪く笑う。
「男がいるんだろ?」
それにまもりは内心唇を咬んだ。
いない者を呼べるはずがない。
やはり知っていてそんなことを言うのだ、この男は。
「生憎と忙しい人なので、私のことで手を煩わせたくはないです。一人で帰ります」
「そんなツラさせるなんざ、糞甲斐性なしだナァ」
「彼は、・・・優しい人なんです」
まもりはふっと記憶を辿った。
浮かぶのは今まで別れたどの男でもない。
高校の時の、熱戦の合間合間に見せる僅かな、そしてとてもわかりにくい優しさ。
彼女にとって一番の優しさは、彼のそういった部分に他ならなかった。
それから何人か他の男と付き合ったけれど、彼の記憶は色あせることがなくて。
綺麗で鮮やかな、幸せなあの頃の記憶に幽かに口元をほころばせる。
―――それでも、もう過去は遠すぎて。
―――再びあの優しさを感じる事なんてもう絶対に無理なのに。
「姉崎!」
「っ」
怒声にまもりは我に返る。
心配そうにこちらを見つめる雪光と、苛立ちを増したヒル魔の視線に一瞬たじろいだ。
今。
私は、どんな顔をしていた?
ヒル魔の静かな声が響く。
「車を呼べ」
「はい。下にタクシーを用意しました」
雪光が見送りで手を振るのに、まもりは眉を寄せてきつく唇を咬んだ。
まもりが降りるのにヒル魔も続いた。
「社長のご自宅は違いますでしょう」
「なんだ、送ってやったのに茶の一つもねぇのか」
「お茶が飲みたいならご自宅へどうぞお帰りになって下さい」
素っ気ないまもりの言葉に軽く鼻を鳴らしただけで、ヒル魔はまもりの後に続いて階段を上る。
振り返ればタクシーは既に走り去っていた。
「今のタクシー、呼び戻しましょうか」
「後で通りで拾うからいい。それよりも入れろ」
糞暑ィ、とぼやかれてまもりはふと高校時代を思い出す。
灼熱のアメリカの大地でも、雪の舞う日本のフィールドでも、どこでも彼は気候について口にしたことがなかった。
いい天気ね、というのも、暑い寒いを言うのはまもりの方で。
「随分と―――」
ふと口をつきそうになった言葉を、まもりは不自然になるのも構わず無理矢理呑み込んだ。
「随分と?」
不審そうなヒル魔にまもりはややぎこちなく笑みを浮かべる。
「独り言です」
すみません、と一言謝ってまもりは頭を振った。
『随分と昔とは変わったわね』。
その一言を口にしたら、まもりが誰よりも過去に縋っていることが知られてしまいそうだ。
「お疲れのようデスネ」
「社長程ではございません」
「その口調ヤメロ。もう社外だ」
不満そうなヒル魔に、ならば帰れと言おうとして振り返ったその時。
「・・・っ」
不意に視界が揺れる。
意識が一瞬、真っ白に途切れる。
階段にあったはずの足が、浮き上がる。
「危ネェな」
気づけばヒル魔に腕を掴まれていた。
<続>
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鳥(とり)
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趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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