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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(26)


+ + + + + + + + + +
幼い頃に行きつけだった病院は、やせ細ったまもりの姿を見て痛ましそうに瞳を細めた。
小児科と内科を専門とする医師は、怯えて病院に行きたがらない彼女を見かねた母親からの相談に応じ、時間外に彼女を診察した。
その結果は重度の過労と、それによる胃潰瘍という診断結果。
そうして。まもりが一番恐れていた妊娠は。
「・・・陰性だね」
医師の声に、まもりは握りしめていた手を解いた。
深く深く、溜め込んでいた不安や恐怖を全て吐き出すかのように嘆息する。
「というか、君はストレスで生理が止まっているんじゃないかい?」
「・・・そう、ですか」
医師はまもりの瞳を見つめ、静かに口を開く。
「君への一番の薬は、とにかくゆっくり休むこと。しばらく自宅でゆっくりなさい」
「はい」
ふらつくまもりを支え、母が寄り添う。
その手の温かさにじわりと涙を浮かべながら、まもりはぎこちなく頭を下げて診察室を後にした。


妊娠という最悪の事態は免れていた、という安堵から、まもりは次第に両親に今までの経過をぽつりぽつりと話し始めた。
両親はじっと聞いていたが、時折堪えきれず泣くのを見て、やはり話すべきではなかったかと途中で言葉を止める。
「いいの。全部お話しなさい」
その度に父も母も涙を拭い、また毅然と顔を上げる。
「私たちがまもりだったら大丈夫だろう、平気だろうと確認を怠ったツケが今なのだから」
「・・・でも、私だってもういい大人なんだし・・・」
「年がいくつになったって、子供は子供よ」
まもりはほぼ全てを語り、細く息をつく。
そして身体をここまで酷使した理由が今の勤め先なのだと知った二人は便せんを持ってきた。
「退職届を出しなさい。しばらく療養して、全てはそれからだ」
一瞬、強引にまもりを引き入れたヒル魔のことを思い出すが、両親は決意の滲んだ表情でまもりの手を取る。
「大丈夫だ、理不尽な要求には応じなくていい。後は私たちが窓口になって対応するから、まもりは休みなさい」
不安そうな顔をしたまもりに、父親は力強く請け負う。
まもりはそれに静かに頷いた。


退職届はすぐに両親の手により郵送された。無事受理されたらしく、しばらくして離職証明書が送られてきた。
てっきり理不尽な要求をしてくるか、押しかけるかだろうと思っていた両親は拍子抜けしたようだった。
過労と精神的ストレスが主な原因だった胃潰瘍は、原因が取り除かれた結果、次第に回復していった。
「胃潰瘍から胃ガンになったりするからね。我慢強いのも考えものだね」
かかりつけの医者に苦笑され、そうですね、と同じように苦笑して応じる程に精神的にも安定してきた。
病院を出た途端吹き付ける風に、首を竦める。
気づけばもう冬だった。
今年の秋の記憶が全くない。精神的に全てが追いつめられていた時期だったから、季節感なんて意識から抜け落ちていたのだろう。
一人暮らしをしていた部屋も、解約した。
かなり汚れきっていたため業者の手を入れて片づけるハメになった。心苦しかったが、まもりはその場には行かなかった。
行けなかった、というのが正しいか。
あの部屋に行く、と考えただけで吐き気がしたのだ。
それ以上深くを問いつめなかった両親は二人揃って出向き、業者の立ち会いをしたのだが、あまりの惨状に絶句したらしい。
帰宅した母が思い出したように口を開く。
「業者の人が言ってたわ。この部屋の住人の方、ご無事でしたかって」
ようやく食べることが出来るようになったシュークリーム。
雁屋のそれを手に、まもりは首を傾げる。
「どうして?」
一瞬母は躊躇ったが、シュークリームを前に笑みを浮かべたまもりに大丈夫だろうとそう口にする。
「・・・孤独死するような人の部屋でしたから、って」
「へえ・・・」
まもりは思い出そうとするが、なんだか乱雑に散らかしていたことしか覚えてない。
ゴミ出しをした記憶が最後の方はない。
相当酷かったのだろうなあ、と想像する。
「それにしても、まもりが持っていた服、随分いいものですねって業者の人たちも感心してたわよ」
「ああ・・・」
まもりの着ていたスーツ類。良い記憶のないそれらもまとめて全て処分して欲しいとまもりは言った。
あの部屋に残る全てを。
クリーニングに出せばリサイクル業者に売れますよ、と言われて両親は全て依頼したと言っていた。

<続>
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