旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
記憶の淵から戻り、聡子は続けた。
「―――求人情報誌を持ったあなたを偶然見つけたのは、私です」
「あなた、が」
「ええ。折良く私が退職していたこともあり、あなたの能力の高さは夫からも伺っていましたから、次の秘書にどうかと推薦したんです」
「・・・」
その期待を裏切った形になるまもりは僅かに俯く。
「最初、彼は渋りました。あなたなら自分で好きな仕事を見つけて働くだけの能力があるだろうから、と」
「え・・・」
「それでも様子を見ていると困っているようだと知れたので、人づてで雇おうと思ったんです」
結果はまもりらしからぬ強硬な拒否。高校の時の素直さはなく、頑なに逃げられ続けた。
「そこで彼はやっと、あなたが高校の時とは違っているんだと気が付きました。そしてかつてのように自分に立ち向かってくるような存在になって欲しくて、あんなに強引に手元に置こうとしたんです」
まもりは首を振る。
にわかには信じられない言葉ばかりだ。
「『REGARD』の意味を知っているでしょう」
「尊敬とか好意、忠誠・・・」
「あの『悪魔』とまで言われた男が、彼が言うところのそんな『糞甘臭ェ』言葉を示す指輪をわざわざ嵌めると思いますか? ましてやそれがあなたの名前を刻んでいて、それを、十年も」
言葉よりも雄弁なあの指輪の歪み、傷。
装飾品の類を好まなかった彼が、指輪を外さなかった、意味。
それらを考えたくなくて、まもりの声は強ばる。
「・・・それなら、何故それを、私に直接言わなかったんですか? 私はてっきり、彼は別の女性と結婚しているのだと思ってました」
具体的にはあなたと、という言葉は出さなかった。それは元が詮無い噂だっただけ。
「私や夫が気づいたように、まもりさんも気づくんじゃないかと思ったんでしょう。よく見て、考えればすぐに知れるだろうと」
まもりは瞑目する。瞼の裏に浮かぶ彼の指輪を、まじまじと見たことはない。
記憶に去来するのはただ銀の光を放つ輪、それだけ。
かつては恋人同士だったからこそ、間近で指輪を見る気持ちになれなかった。
学生の頃、連絡が取れないことに絶望して連絡先を消した。
もし。あの時、もっと頻繁に連絡を取っていれば。
もし。距離や時を言い訳にせず、会いに行っていれば。
そんな後悔ばかりが喚起される象徴だったから。
「彼はそうやって口に出さないで察して貰うことで今まで生きてきたんです」
「そうですね・・・」
乱暴な言動で、行動で部員を率いていた彼の姿を思い出す。
結局のところ、彼が素直に何かを口にしたことはなく、皆その行動とその発言の影にあるものを汲み取っていた。
それは行動を共にし、同じ目標を目指していたからこそ把握できたものだった。
けれど、今のヒル魔とまもりの位置は違い、目標も違っていた。
そんな二人だからかみ合うことなく、行動も発言も思惑も何もかもがすれ違い続けてしまった。
そうして行き場を無くした想いは狂気となり、まもりを傷つけ苛み、最終的にその精神と肉体を蝕んだのだ。
色々なものが、なぜか足りないままにここまで来てしまったのだ。
聡子はそっとまもりの腕から手を離し、立ち上がる。
そうしてまもりに向かってふわりと苦笑した。
「これで彼も懲りて反省したと思います」
「そうですか」
まもりもつられて立ち上がる。
ずっと座っていて、寒さに関節が固まってしまったような錯覚さえ覚える。
聡子に掴まれていた腕だけが不思議と暖かかったけれど。
腕を何気なく検分していたまもりの耳に、今までとは違った響きで声が掛けられる。
「―――ごめんなさい」
驚き視線を向けたまもりの前で、聡子の顔が歪む。
「あんな風にまもりさんが倒れるようなところまで追いつめるきっかけを作ってしまったのは、私です」
「え?」
「私が―――・・・秘書にと推薦しなければ、もっと違う、良い方向に向かったかも知れないのに」
沈痛な表情でごめんなさいと繰り返し、聡子は深々と頭を下げる。
「本当にごめんなさい。謝って済む事じゃないのはよく分かっています。でも・・・夫の分も含め、どうか謝らせて下さい」
まもりの視線の先、聡子の眦が赤く涙ににじんでいた。
慌てて彼女の顔を上げさせようとまもりは言葉を探す。
「そんなこと・・・悪いのは、本当に悪いのは―――」
十年の間に知らず凝り固まり、卑屈になり、人の助けを素直に受け入れられなかった。
過去を懐かしがり、現実から目を背け続けて。
結局、一人勝手に壊れ掛けたのは自分のせいに他ならない。
けれど、まもりがそう口にする前に。
「悪いのは、俺だろ」
「「!!」」
その声に、二人は振り返った。
<続>
「―――求人情報誌を持ったあなたを偶然見つけたのは、私です」
「あなた、が」
「ええ。折良く私が退職していたこともあり、あなたの能力の高さは夫からも伺っていましたから、次の秘書にどうかと推薦したんです」
「・・・」
その期待を裏切った形になるまもりは僅かに俯く。
「最初、彼は渋りました。あなたなら自分で好きな仕事を見つけて働くだけの能力があるだろうから、と」
「え・・・」
「それでも様子を見ていると困っているようだと知れたので、人づてで雇おうと思ったんです」
結果はまもりらしからぬ強硬な拒否。高校の時の素直さはなく、頑なに逃げられ続けた。
「そこで彼はやっと、あなたが高校の時とは違っているんだと気が付きました。そしてかつてのように自分に立ち向かってくるような存在になって欲しくて、あんなに強引に手元に置こうとしたんです」
まもりは首を振る。
にわかには信じられない言葉ばかりだ。
「『REGARD』の意味を知っているでしょう」
「尊敬とか好意、忠誠・・・」
「あの『悪魔』とまで言われた男が、彼が言うところのそんな『糞甘臭ェ』言葉を示す指輪をわざわざ嵌めると思いますか? ましてやそれがあなたの名前を刻んでいて、それを、十年も」
言葉よりも雄弁なあの指輪の歪み、傷。
装飾品の類を好まなかった彼が、指輪を外さなかった、意味。
それらを考えたくなくて、まもりの声は強ばる。
「・・・それなら、何故それを、私に直接言わなかったんですか? 私はてっきり、彼は別の女性と結婚しているのだと思ってました」
具体的にはあなたと、という言葉は出さなかった。それは元が詮無い噂だっただけ。
「私や夫が気づいたように、まもりさんも気づくんじゃないかと思ったんでしょう。よく見て、考えればすぐに知れるだろうと」
まもりは瞑目する。瞼の裏に浮かぶ彼の指輪を、まじまじと見たことはない。
記憶に去来するのはただ銀の光を放つ輪、それだけ。
かつては恋人同士だったからこそ、間近で指輪を見る気持ちになれなかった。
学生の頃、連絡が取れないことに絶望して連絡先を消した。
もし。あの時、もっと頻繁に連絡を取っていれば。
もし。距離や時を言い訳にせず、会いに行っていれば。
そんな後悔ばかりが喚起される象徴だったから。
「彼はそうやって口に出さないで察して貰うことで今まで生きてきたんです」
「そうですね・・・」
乱暴な言動で、行動で部員を率いていた彼の姿を思い出す。
結局のところ、彼が素直に何かを口にしたことはなく、皆その行動とその発言の影にあるものを汲み取っていた。
それは行動を共にし、同じ目標を目指していたからこそ把握できたものだった。
けれど、今のヒル魔とまもりの位置は違い、目標も違っていた。
そんな二人だからかみ合うことなく、行動も発言も思惑も何もかもがすれ違い続けてしまった。
そうして行き場を無くした想いは狂気となり、まもりを傷つけ苛み、最終的にその精神と肉体を蝕んだのだ。
色々なものが、なぜか足りないままにここまで来てしまったのだ。
聡子はそっとまもりの腕から手を離し、立ち上がる。
そうしてまもりに向かってふわりと苦笑した。
「これで彼も懲りて反省したと思います」
「そうですか」
まもりもつられて立ち上がる。
ずっと座っていて、寒さに関節が固まってしまったような錯覚さえ覚える。
聡子に掴まれていた腕だけが不思議と暖かかったけれど。
腕を何気なく検分していたまもりの耳に、今までとは違った響きで声が掛けられる。
「―――ごめんなさい」
驚き視線を向けたまもりの前で、聡子の顔が歪む。
「あんな風にまもりさんが倒れるようなところまで追いつめるきっかけを作ってしまったのは、私です」
「え?」
「私が―――・・・秘書にと推薦しなければ、もっと違う、良い方向に向かったかも知れないのに」
沈痛な表情でごめんなさいと繰り返し、聡子は深々と頭を下げる。
「本当にごめんなさい。謝って済む事じゃないのはよく分かっています。でも・・・夫の分も含め、どうか謝らせて下さい」
まもりの視線の先、聡子の眦が赤く涙ににじんでいた。
慌てて彼女の顔を上げさせようとまもりは言葉を探す。
「そんなこと・・・悪いのは、本当に悪いのは―――」
十年の間に知らず凝り固まり、卑屈になり、人の助けを素直に受け入れられなかった。
過去を懐かしがり、現実から目を背け続けて。
結局、一人勝手に壊れ掛けたのは自分のせいに他ならない。
けれど、まもりがそう口にする前に。
「悪いのは、俺だろ」
「「!!」」
その声に、二人は振り返った。
<続>
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鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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