旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
静かに佇むのは黒のトレンチコートを着たヒル魔。
「あ・・・」
まもりたちから五メートルほど離れた位置で、彼はじっとまもりを見ている。
「何でここに来たの」
聡子は尖った声でヒル魔に噛みつき、背にまもりを庇った。
「用があるからに決まってんだろ」
「仕事は?」
「抜けてきた」
ぴりぴりとした空気の中交わされる会話を聞きながら、まもりは立ちつくす。
その視線はヒル魔を捕らえたまま。
聡子はまもりに背を向けたまま声を掛ける。
「まもりさん、大丈夫ですか?」
それはこのまま逃げろ、という声にも聞こえた。
けれどまもりは動かずそのままヒル魔を見つめる。
もしヒル魔の顔を見たら気分が悪くなって倒れるんじゃないかと思っていた。
会社名を見ただけで気分が悪くなるくらいだ。
諸悪の根元を見たらなりふり構わず喚き出すのではないかと。
あの夏の恐怖を思い出すのだろうと。
なのに。
「まもりさん?」
不審そうな聡子の声に答えず、まもりは足を踏み出した。
「まもりさん?!」
さくさくと音を立て、立ちつくすヒル魔に近づいていく。
ヒル魔は逃げも隠れもせず、じっと無表情のまま立ちつくしている。
手を伸ばせば届くかどうか、という微妙な距離でまもりは足を止めた。
互いの声も、息づかいも、瞬きの音すら聞き逃すはずのない、この距離。
この世界には、二人だけが存在した。
「私に何か、言うことはある?」
激昂しているわけでも、痛みに震えているわけでもない、淡々とした声。
それにヒル魔は眸を僅かに細めた。
「悪かった」
一度として人に詫びることもなかった彼のその言葉。
それを聞いて、まもりは更に問う。
「『許して』、って言わないの?」
「言って、請えるようなもんじゃねぇだろ」
まもりはじっとヒル魔を見つめた。
底の見えないような眸だった。
―――そんなのは、十年も前から知っている。
その奥底に秘めるものがあることも知っている。
ただ、知っているだけだった。
分かっている気になっていただけだった。
だって。
「何も言わなくてもあなたのことを判ってたのは十年も前のことなのよ」
視線を逸らさずに、続ける。
「もう十年も前のことなのに、その思い出にことあるごとに振り回されてた」
何度も過去と現在を比較しては涙に暮れた。
「私一人が過去に囚われている間に、ヒル魔くんは随分と変わってた」
立ち止まっているまもりのずっとずっと前を、歩き続けていた。
己の矮小さを思い知らされる度に、苦しくて辛くてたまらなかった。
「結婚して奥さんがいるのに、なんで私を構うんだろうって思ってた」
その傍らには愛する伴侶がいるのだろうと信じて疑わなかった。
それが偽りなのだと人づてにたった今聞くまで、ずっと。
「どう? 私はずっと、そう思ってたのよ。・・・言わないと判らないでしょう」
無言で表情もなくこちらを見下ろす彼の姿が不意に歪んだ。
「ヒル魔くんは? ・・・ねえ、どう思ってた?」
まもりの頬を涙が伝う。
「言って。教えて。そうして、許して欲しいならそう言って。・・・そうじゃなきゃ、私はヒル魔くんを怒ることはおろか、詰ることも、・・・許すことだって、出来ないの」
怒りに震えるにも、悲しみに暮れるにも、彼の考えは分からなすぎて、どうすることも出来ない。
指輪がゆがむほどの年月を経ているのだと、改めて口にした。
そのゆがみは二人の関係にも響き、苦しみにしかならないのだと。
正すためには、彼の言葉が必要だと、気づく。
そうして彼もまた、気づいているのだろう。
「・・・俺は」
ヒル魔の声が、僅かに震える。
まもりは口を一文字に引き結び、言葉を待つ。
「俺は―――」
痛いくらいに冷えた空より、白い使者が舞い始める。
彼の肌に触れる端から溶け落ち流れるそれは、押し殺した感情の発露のようで。
まもりにごく単純なことを思い出させるには、それだけで十分だった。
どうしようもなく、彼も、人だったのだ。
それだけだった。
ただ、それだけのことだった。
了
***
10/1午前中に間違ってこの完結部分をアップするという事件がありました。
そのまま再度アップじゃ悔しいので後書き追加しました。
なんだか長くなりましたが、どうぞ~。
★★★
一ヶ月間もの間、じりじり続く長編にお付き合いくださってありがとうございました!
ここまでご覧になってくださった方のほとんどは最終話を読んで『ええ?! ここで終わり?!』と思われたことでしょう。
ですが、これが私にとってのこの話の終わりです。
この話を思い立って書き始めたのは去年のことでした。私はとにかく両思いなのにすれ違ってるという状況が大好きで、更に言うと強気なのに脆いヒロインが好みなのです。よって、そういった状況に二人を至らせるにはどうしたらいいのだろうか、と試行錯誤して書いたのがこの話でした。大体思ったように書けて、完成時には嬉しかった思い出が。ただ、もう少し仕事上で徐々に追い詰められていく感が出せたらよかったなあ、と反省点も。しがない事務職の鳥には想像もつかない状況だったのであのようなことに。ちょっと残念です。
タイトルは『ストローフィ=ゆがみ』ということで決まりました。安直です。
この先、この二人がどうなるかは皆様のご想像にお任せします。
幸せな二人を思い描くもよし。
不幸な二人を思い描くもよし。
その先を想像していただけるだけの余韻が残せたのなら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。
世界は誰もが思った以上に広くて狭くて汚くて綺麗で辛くて優しくて苦しくて幸せなものです。
人の想像の範囲にあることはいずれ起こることで、夢物語とは笑えない現実が今、ここにあります。
そんな様々な矛盾と整合性が混在する世界の、ほんの一端でもいい、書ければいいと思うのです。
これからもこの気持ちを忘れず精進していく所存です。
最後にもう一度。
皆様、一ヶ月間のご愛読、誠にありがとうございました!
「あ・・・」
まもりたちから五メートルほど離れた位置で、彼はじっとまもりを見ている。
「何でここに来たの」
聡子は尖った声でヒル魔に噛みつき、背にまもりを庇った。
「用があるからに決まってんだろ」
「仕事は?」
「抜けてきた」
ぴりぴりとした空気の中交わされる会話を聞きながら、まもりは立ちつくす。
その視線はヒル魔を捕らえたまま。
聡子はまもりに背を向けたまま声を掛ける。
「まもりさん、大丈夫ですか?」
それはこのまま逃げろ、という声にも聞こえた。
けれどまもりは動かずそのままヒル魔を見つめる。
もしヒル魔の顔を見たら気分が悪くなって倒れるんじゃないかと思っていた。
会社名を見ただけで気分が悪くなるくらいだ。
諸悪の根元を見たらなりふり構わず喚き出すのではないかと。
あの夏の恐怖を思い出すのだろうと。
なのに。
「まもりさん?」
不審そうな聡子の声に答えず、まもりは足を踏み出した。
「まもりさん?!」
さくさくと音を立て、立ちつくすヒル魔に近づいていく。
ヒル魔は逃げも隠れもせず、じっと無表情のまま立ちつくしている。
手を伸ばせば届くかどうか、という微妙な距離でまもりは足を止めた。
互いの声も、息づかいも、瞬きの音すら聞き逃すはずのない、この距離。
この世界には、二人だけが存在した。
「私に何か、言うことはある?」
激昂しているわけでも、痛みに震えているわけでもない、淡々とした声。
それにヒル魔は眸を僅かに細めた。
「悪かった」
一度として人に詫びることもなかった彼のその言葉。
それを聞いて、まもりは更に問う。
「『許して』、って言わないの?」
「言って、請えるようなもんじゃねぇだろ」
まもりはじっとヒル魔を見つめた。
底の見えないような眸だった。
―――そんなのは、十年も前から知っている。
その奥底に秘めるものがあることも知っている。
ただ、知っているだけだった。
分かっている気になっていただけだった。
だって。
「何も言わなくてもあなたのことを判ってたのは十年も前のことなのよ」
視線を逸らさずに、続ける。
「もう十年も前のことなのに、その思い出にことあるごとに振り回されてた」
何度も過去と現在を比較しては涙に暮れた。
「私一人が過去に囚われている間に、ヒル魔くんは随分と変わってた」
立ち止まっているまもりのずっとずっと前を、歩き続けていた。
己の矮小さを思い知らされる度に、苦しくて辛くてたまらなかった。
「結婚して奥さんがいるのに、なんで私を構うんだろうって思ってた」
その傍らには愛する伴侶がいるのだろうと信じて疑わなかった。
それが偽りなのだと人づてにたった今聞くまで、ずっと。
「どう? 私はずっと、そう思ってたのよ。・・・言わないと判らないでしょう」
無言で表情もなくこちらを見下ろす彼の姿が不意に歪んだ。
「ヒル魔くんは? ・・・ねえ、どう思ってた?」
まもりの頬を涙が伝う。
「言って。教えて。そうして、許して欲しいならそう言って。・・・そうじゃなきゃ、私はヒル魔くんを怒ることはおろか、詰ることも、・・・許すことだって、出来ないの」
怒りに震えるにも、悲しみに暮れるにも、彼の考えは分からなすぎて、どうすることも出来ない。
指輪がゆがむほどの年月を経ているのだと、改めて口にした。
そのゆがみは二人の関係にも響き、苦しみにしかならないのだと。
正すためには、彼の言葉が必要だと、気づく。
そうして彼もまた、気づいているのだろう。
「・・・俺は」
ヒル魔の声が、僅かに震える。
まもりは口を一文字に引き結び、言葉を待つ。
「俺は―――」
痛いくらいに冷えた空より、白い使者が舞い始める。
彼の肌に触れる端から溶け落ち流れるそれは、押し殺した感情の発露のようで。
まもりにごく単純なことを思い出させるには、それだけで十分だった。
どうしようもなく、彼も、人だったのだ。
それだけだった。
ただ、それだけのことだった。
了
***
10/1午前中に間違ってこの完結部分をアップするという事件がありました。
そのまま再度アップじゃ悔しいので後書き追加しました。
なんだか長くなりましたが、どうぞ~。
★★★
一ヶ月間もの間、じりじり続く長編にお付き合いくださってありがとうございました!
ここまでご覧になってくださった方のほとんどは最終話を読んで『ええ?! ここで終わり?!』と思われたことでしょう。
ですが、これが私にとってのこの話の終わりです。
この話を思い立って書き始めたのは去年のことでした。私はとにかく両思いなのにすれ違ってるという状況が大好きで、更に言うと強気なのに脆いヒロインが好みなのです。よって、そういった状況に二人を至らせるにはどうしたらいいのだろうか、と試行錯誤して書いたのがこの話でした。大体思ったように書けて、完成時には嬉しかった思い出が。ただ、もう少し仕事上で徐々に追い詰められていく感が出せたらよかったなあ、と反省点も。しがない事務職の鳥には想像もつかない状況だったのであのようなことに。ちょっと残念です。
タイトルは『ストローフィ=ゆがみ』ということで決まりました。安直です。
この先、この二人がどうなるかは皆様のご想像にお任せします。
幸せな二人を思い描くもよし。
不幸な二人を思い描くもよし。
その先を想像していただけるだけの余韻が残せたのなら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。
世界は誰もが思った以上に広くて狭くて汚くて綺麗で辛くて優しくて苦しくて幸せなものです。
人の想像の範囲にあることはいずれ起こることで、夢物語とは笑えない現実が今、ここにあります。
そんな様々な矛盾と整合性が混在する世界の、ほんの一端でもいい、書ければいいと思うのです。
これからもこの気持ちを忘れず精進していく所存です。
最後にもう一度。
皆様、一ヶ月間のご愛読、誠にありがとうございました!
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HN:
鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
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