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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストローフィ・リング(8)


+ + + + + + + + + +
山のようなスーツを買い与えられ、まもりはぐったりしながら自室に戻る。
広い部屋ではないので、今まで仕事で着ていたような服は処分しなければ入らないだろう。
整理して並べてみると、クローゼットの中がほとんど黒に染まった。
思わず苦笑してしまう。
まるでまもりの今の気持ちのようだ。
暗く押し沈む心を切り替えるように、本日の疲れを癒そうとバスルームに向かった。
部屋を借りるときに唯一拘ったのは心地よいバスルームがあるかどうか、それだけ。
お気に入りの場所で買い置きのバスキューブを溶かし、湯船に身体を沈め、天を仰ぐ。
久しぶりの再会、強引な契約、研修と称された買い物。
買い物を終えた後、ヒル魔は会社へと戻り、まもりは直帰を許された。
渡されたチケットでタクシーに乗り、自宅へ向かう間にも考えたが、ヒル魔の考えが判らない。
彼は一体何でまもりを招き寄せたのか。
わざわざ研修を受けさせてまで仕事で使おうというのか。
それはかつての恋人に対する彼のお情けなのか、と考えてまもりはぶるりと背を震わせた。
お湯から引き上げた腕を見る。
かつての弾力が徐々に失われたそれに、年月の流れを否応なく感じる。
高校の時から十年だ。あれから十年、年を取った。
再会を果たしたからといって、関係まで同じように戻るとは思えない。
ましてや妻帯者となっているヒル魔とは、絶対に同じ関係になれはしない。
時の流れの残酷さをまざまざと思い知らされ、まもりは勢いよく頭まで湯船に沈む。
「・・・ぷはっ!」
顔を上げ、拭う。
気持ちを切り替えなければ。
お情けでもなんでもいい。こんな上等な就職口はもうないだろう。
彼の気まぐれがいつまで続くか判らない。
それなら今のうちに研修を受けて勉強をして、資格を取ったり貯金をしたりして有事に備えればいい。
仕事は仕事だ。割り切らなければ。
明日社長の前で取り乱したりしないように、とまもりは冷水で顔を洗い、気合いを入れた。

気合いを入れてメイクをし、買い与えられたスーツに袖を通す。
同じく与えられた靴に足を入れ、鞄を手に出勤。
早い時間にもかかわらず、社員の姿がちらほらと見受けられる。
大きなビルだけに、エレベーターの台数に制限があるから、あまり時間ギリギリでは間に合わないのだろう。
エレベーターに乗り込み、階数ボタンを押して貰うと、社員は一斉にまもりの方を見た。
何かおかしなことをしただろうか、と思ったが、特に何か声を掛ける者はいない。
社員が次々と降りていく中で、最終的にはまもり一人になっていた。
社長室より上は会議室だけ。そこに早朝から顔を出す者は今日いなかったようだ。
フロアに降り立ち、昨日案内された社長室に顔を出す。
「おはようございます」
「おはようございます、姉崎さん。お早いですね」
既に出社して仕事をしていた雪光に、この時間でも遅いのかとまもりは焦る。
「昨日社長に伺って出社はこの時間に、とのことだったんですが、もっと早い方がいいですか?」
「いいえ、姉崎さんはしばらく研修ですから、早朝に来ていただく必要はないですよ。その代わり」
「代わり?」
「社長にコーヒーを淹れて貰えませんか」
「わかりました」
けれど返事をしてからまもりは戸惑ったように立ち止まる。
「すみません、私昨日こちらに伺ってからまだこの場所以外のことが判らなくて。どちらに行けばいいでしょうか」
「ああ、そうでした! すみません、案内しますね」
「俺が行く」
慌てて立ち上がろうとする雪光を、遮る声。
ヒル魔だ。早朝だが眠気の欠片もなく、眼光鋭くまもりを見つめている。
「社長手ずから?」
「糞ハゲの書類ができねぇと俺の仕事が始まらねぇんだよ。来い、姉崎」
「・・・はい」
学生の頃は一度だって呼ばれなかった呼び方に、まもりは聞き慣れないと内心思いながら、頷いた。


<続>
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