ストローフィ・リング（１）

ストローフィ・リング（１）

（ヒルまもパロ）
※3/28『・・・and then？』からの未来話。

まもりは二度瞬きし、それから大きく深呼吸した。
そして一言尋ねた。
「それは、本当ですか」
けれど返ってきた言葉は、先ほどと全く同じだった。
「残念ながら、この施設は来月末で閉館です」
それはすなわち、まもりが職を失うというのと同じで。
「・・・嘘・・・」
血の気を失ったまもりを、同僚達は気の毒そうに見ていたが、誰一人言葉はなかった。

まもりが就職難の末に入り込んだのは、とある研究施設だった。
小規模ながら活気に満ち、研究を楽しむ者たちの集まりだった。
まもり自身は研究者ではなく事務員だったが、明るい気質と世話焼き体質が幸いし、重宝がられて過ごしてきた。事務方の大きな資格は持っていないが、このままこの場所で働き、いずれ寿退職すれば何ら問題ないと思いこんでいた。
だが。
研究施設であっても、不況による再編の波は分け隔て無く訪れ、いくつかの施設が統合される運びとなった。
そうなると真っ先に切られるのは派遣社員であるが、施設の特性上今回一番に切られる位置だったのはまもりだったのだ。

姉崎まもり、二十八才になった冬の事だった。


まもりはとぼとぼと自宅への道を歩いた。
高校を卒業し、大学を出て保育士を目指したものの、狭き門のため就職先がなかった。
他にも大学時代にいくつか資格は取ったのだが、いずれも就職には役立たず、またアナログ人間であるためパソコンが扱えないのでは困る、と一般企業では新卒の時から就職活動で苦労していた。
ようやく見つけた仕事は不況知らずで、順風満帆だと思っていたのにこの現実。
まもりは嘆息する。
今から大学や専門学校に入り直すという道もあるが、貯金はさほどない。
安月給の上に一人暮らしだったのが響いている。当面失業手当を貰うにしても生活はキツイだろう。
来月末と言われても、来月は１２月で年の瀬。来年から就職を探すのでは間に合わない。
仕事は有休消化で来月頭から出勤しなくていいとして、問題は新しい就職先だ。
帰宅途中で求人雑誌を買ってきてみたが、どうなることやら。
彼氏がいればこれを機に結婚ということも考えられたが、生憎とつい先日別れたばかりだった。
悩みを打ち明けようにも友人達はそれぞれに仕事や家庭に手一杯とかで、近頃は疎遠なので軽々しく連絡もとれない。
暗い気持ちで帰宅していたまもりは、すれ違った人影がじっと彼女を見つめていた事に気づかなかった。


あっという間に師走が来る。
ある程度目星を付けた会社には既に連絡してみたが、全く取り合って貰えない。
まもりはハローワークで深々と嘆息した。
失業手当の給付はまだ先だが、説明だけ受けに来たのだ。
求人票はまばらで、その数に対しての人の多さに愕然とする。
不況というのは嘘ではないのだろう。
とてつもなく不安になる。
今のところ特に病気にもなっていないが、来月からは社会保険もなければ税金の請求も来る。
家賃が払えなくなる日は近い。
早く仕事を見つけないとならない。
まもりは壁に張り出されている求人票を見つめたが、彼女の資質に合いそうな会社は見あたらなかった。

＜続＞