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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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少年クライマー(6)


+ + + + + + + + + +
妖介は黙々と山道を歩いていた。次第に高度が上がり、木々がまばらになり、岩場となる。
太陽が沈み込んでも黙々と足を進めていたが、足場が岩だらけになってきた。
見えないまま進むのは危険なため、ようやく進むのを諦める。
そうして、岩場のくぼみを見つけてそこに体を落ち着ける。
道すがら拾い集めた枯れ枝に火をつけると、疲れがたまった体に暖かさが染みこむような気がした。
嘆息し、今日一日のことを思い返す。
日中、川辺で鉢合わせたのは鹿だった。それもかなり大型の雄。
彼一人で捕らえるには到底無理な大きさだったため、妖介は魚を捕らえようとしたのだが結局徒労に終わった。
釣り道具もない状態で、付け焼き刃程度の知識では限界があったのだ。
諦め悪く粘ったのだが、結局その場を離れ、歩きながらいくつか木の実を見つけては糊口をしのいでいた。
水も残り少ない。
家までの距離は全く分からない。地図があっても自分の現在地が分からないのであればどうしようもない。
「・・・俺、無事帰れるのかなあ・・・」
ぼろっと涙がこぼれた。
一度あふれてしまえば、涙は止まらない。
「喉渇いた・・・」
空を見上げれば月も星も瞬き、炎の揺らめきが目に痛い。
「・・・あったかいご飯、食べたいなあ」
あのときひっくり返した食卓の料理を思い浮かべると、より一層切ない気持ちになる。
腹を満たす食料はもちろん、魚一匹自力でとれない今、あれだけの食事を何も考えず食べられたのは幸せだったのだと知れる。
妖介は膝を抱え、孤独と飢えに耐えるべくただじっと蹲って朝を待った。


明け方。
妖介は自らの瞼を焼くような光に眉を寄せ、顔を上げた。
まだ体は疲れをため込んでいるし、眠りを欲している。
けれど意識は容赦なくその光に引きずり上げられた。
「!!」
そうして、妖介は息を飲む。
地平線が横に目映く白い。
その一部が徐々に盛り上がり、真っ白な朝日が顔を出す。
雲一つない空が一斉に明るくなるのは、息をのむほど美しい光景だった。
鬱蒼として暗くて恐ろしい印象の森が、日差しを受けた瞬間に鮮やかな緑へと変貌していく。
夏とはいえ、しっとりと夜露が立ちこめた寒い夜を一気に消し去っていく暖かな光。
「・・・」
昨日も朝日を見たはずだけれど、感じ方が全く違う。
高い位置から遮るものなく見ているせいだろうか。
それとも、極限に疲れた現状だからだろうか。
何にせよ、この世界の全てに感謝したくなるくらい、美しい。
眠りに穏やかだった『色』が目覚め、華やかに踊り始めるのも分かる。
妖介も、訳もなく動き出したくなる衝動に駆られる。
「・・・行こう」
誰にともなく呟いて、妖介は立ち上がった。
今、無性に家族の顔が見たくなった。


兄を待つのだと言い張り、船を漕ぐ護を無理矢理寝かしつけてまもりは嘆息する。
まもりもこのところの寝不足に頭がぼんやりするのを感じながらもじっと妖介の帰りを待っていた。
いつ帰るか、もう帰るか、まだ帰らないのか、もう帰ってこないのではないか。
その気持ちがぐるぐると回り続け、まもりはすっかり疲弊していた。
ヒル魔も口にはしないがそれなりに疲労が蓄積しているのが分かる。
やたらコーヒーを所望するので、止めさせようとして。
角砂糖を一つ放り込んだのに、一口は吹き出しもせず嚥下したのだから。
その後盛大に怒っていたけれども。
そんな両親の様子を見ていたくないのか見ていられないのか、アヤは引きこもりがちだし。
五人のうち、たった一人いないだけで、随分と室内が寒々しい。
そこにふらりとヒル魔が顔を出した。リビングで蹲るようなまもりに眉を寄せる。
「もう寝ろ」
「・・・でも」
「妖介が戻ったとき、テメェが病気になってたりしたら話がややこしくなるだろうが」
「・・・うん」
ヒル魔の憎まれ口めいた心配を笑っていなすことも、怒って見せることも、もうできない。
気力が残っていないのだ。
それでも彼の言うことにも一理あるのはわかっている。
帰ってきたときに笑顔でおかえりと言えるようにしておかねば、という気持ちになる。
「ヒル魔くんも、早く寝た方が」
「ア? 俺はそんなに寝る時間は必要ねぇっていつも言ってるだろ」
まもりは努めて笑みを浮かべてヒル魔の傍らにすり寄る。
「・・・一緒に寝てくれない?」
「ホー。糞奥様は抱き枕をご所望デスカ」
からかう声音に、まもりはあえて反論せず笑みを消さない。
弱っている自覚はある。そうして、彼も休ませてあげたい。
一挙両得だ。ちょっと意味は違うが、そういうことだ。
「ええ。・・・だめ?」
上目遣いに見つめれば、ヒル魔は小さく舌打ちして彼女の手を引いた。
身支度を調え、共にベッドに潜り込む。
このところどこか意識が眠りきらず、精神ばかりが高ぶって落ち着かない。
「ねえ、ヒル魔くん」
「何だ」
「手、繋いでもいい?」
「アァ? どこの糞オコサマだテメェ」
呆れた、という口調とは裏腹に、ヒル魔はさっさとまもりの手を握る。
しっかりとつなぎ合わせた手に、まもりは文字通り縋って眠ろうと努力した。

<続>
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