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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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少年クライマー(3)


+ + + + + + + + + +
「タダイマ」
ヒル魔が帰宅しても、応じる声はない。
それも想定内だとばかり、彼はためらいなくソファの方へと足を向ける。
途中食卓の惨状がお世辞にも綺麗だと言えない状況なのに眉を寄せたが、ソファをのぞき込んで納得した。
泣き疲れた子供二人と、それをなだめ続けたのであろうまもりの姿。
三人とも、穏やかな寝息を立てていた。
アヤを抱え、寝室に寝かしつけに行く。
戻り、今度は護を持ち上げると、重みが失せたのに気づいたのかまもりが僅かに身じろいだ。
「まだ寝てろ」
ヒル魔がその頬を撫で、落ち着いたのを見てから護も寝室に運び込む。
リビングに戻りソファに腰を下ろせば、衝撃にまもりは瞳を開く。
そうして、隣の彼を認めてゆるゆると現実に戻ったようだった。
「・・・ヒル魔くん?」
「タダイマ」
「・・・妖介、は?」
傍らに息子の姿はない。あっさりとヒル魔は告げた。
「山中に縛って放置してきた」
「え・・・モガッ!?」
途端に目を見開き飛び起きたまもりの口を手のひらでふさぐ。
「糞ガキどもが起きるぞ」
「ほんなほといっひゃっへ!」
もがもがと口を動かすまもりに、とにかく大声は出すなと釘を刺して手を離す。
けれど落ち着くわけもない。
「どういうこと?!」
「どうもこうもねぇ。そのまんま言ったとおりだ」
まもりは眉を寄せて立ち上がる。
「あの子の身の安全が! ここアメリカなのよ!? 日本じゃないのよ!?」
焦り自然とあがっていくトーンを抑えるように、ヒル魔はまもりの瞳を見つめて口を開いた。
「説明してやるから、落ち着け」
その声が殊の外静かで穏やかで、まもりは糸の切れた繰り人形の如くソファにへたり込んだ。
「一体、どうして急にあんな・・・」
「急にじゃねぇだろ。このところずっとだ」
まもりは脳裏に妖介の姿を思い浮かべる。
「そうえいば・・・いらいらはしてたみたいだけど。あんなこと、今までなかったのに」
泣きそうな声で呟けば、ヒル魔は淡々と応じる。
「そういうもんなんだよ」
「何なの? ヒル魔くんは全部知ってる、みたいな感じだけど」
あまりに気にしない彼のそぶりに眉を寄せるまもりに、ヒル魔は口角を上げる。
「ありゃ単に反抗期なだけだ」
「反抗期?!」
あれがそうなの!? と声を上げるまもりに、ヒル魔は笑みを消さないまま続ける。
「大別すると内側に向かう奴と外に出る奴がいる。妖介は前者だったな」
「はー・・・あれが、反抗期・・・」
うちの子たちには縁がないものだと思ってたわ、とまもりは嘆息する。
「まさか妖介が、あんな風に声を上げたり暴れるなんて思わなかった」
「男なら誰にもああいうのはあるもんだ」
「ヒル魔くんにもあった、ってこと?」
「そうだな」
「へー・・・」
感心するような声を出すまもりを見ていたヒル魔は、おもむろにまもりを抱き寄せる。
「え、何?!」
ここで急に押し倒されるのか、と一瞬身を固くしたまもりの耳に囁かれたのは。
「泣くガキどもの面倒見てんのは骨折れただろ」
ぽんぽん、とまるであやすように背を叩かれる。労るような声音が柔らかい。
それにまもりは似合わない、と笑みを浮かべようとして。
・・・そのままヒル魔の胸に顔を伏せてしまう。
「テメェのことだ、妖介がああなったのは自分のせいだとか、自分のどこが悪ィか絶賛分析中だろうがな」
びくり、とまもりの肩が跳ねる。ヒル魔はそのまま顔を上げさせることもなく、更に続けた。
「原因はテメェにはねぇ」
きっぱりとした断言に、まもりは身じろぐ。
「・・・そう、なの?」
不安の滲む声に、ヒル魔はまもりの額にキスを落とした。
「反抗期になんのは母親の愛情不足なんかじゃねぇよ」
それにまもりはぎゅう、とヒル魔のシャツを握りしめる。
一番不安になる箇所を、的確に言い当てられて癒されて。
「糞息子には自力で帰ってくるよう言った。道具も渡したし、俺らは黙って待ってりゃいい」
「大丈夫かしら」
「テメェと俺の息子だぞ。大丈夫に決まってんだろ」
ヒル魔の声に迷いはない。
それにまもりは、悪魔の腕の中で息子の安否を心底願ったのだった。

<続>
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