旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
なんとか縄から抜け出した妖介は空を見上げる。
星が出ていて助かった。これで方角が知れる。
去年、家族の皆でキャンプをした時に習ったことの一つだ。ここで役立つとは思わなかったが。
位置的には南下していけば家の方角に帰れるだろう。
ディパックの中身を確認すると、中にあったのは500mlの水が入ったペットボトルが一本、ジッポー、地図。
それとなぜだか塩と醤油。食料はないから、おそらく自力で確保しろ、ということだろうと嘆息する。
ナイフを使って解いた縄も繋げて結んでおき、何かがあったときに使えるようにとナイフと共にそこに入れる。
「これぞほんとのサバイバル、って感じだよね」
呟いても、いつもであれば応じる家族の声はない。
それに言いようのない寂しさを感じながらも、妖介は立ち上がった。
ああ言った以上ヒル魔は絶対に迎えに来ないだろう。
頼みの母親は車の免許は持っていないし、ヒル魔が言いくるめて自宅待機させるに違いないのだ。
母親が父親以外を頼って彼を探しに来るという可能性はほとんどない。
「・・・頑張ろ」
呟き、妖介は山の中に入り込む。
黒く蹲る夏の山は、方々から虫や獣の声が響く。
まるで山全体が大きな生き物で、それが深呼吸しているような不気味な気配を湛えている。
熊に襲われたら対抗する手段はない。
彼はとりあえず枯れ枝を集め、火を焚いて夜を明かすことを選択した。
まもりは落ち着かない気持ちのまま玄関を伺う。
ヒル魔は仕事だとかで早朝からさっさと出て行ってしまった。
妖介を迎えに行ってくれたのでは、とささやかな願望を抱いてみたものの、すぐ否定する。
そもそも彼が一度言い出したことを撤回することはあり得ないし、期待しても無駄だ。
時折外に顔を出しては妖介が帰ってきてはいないかと確かめるが、彼の気配も影も形も何もない。
「お母さん、大丈夫?」
「おかあさん、かおいろ悪いよ」
アヤと護に交互に心配されつつ、まもりはしきりに外を気にする。
「妖介なら大丈夫。きっと帰ってくる」
アヤはそう断言してまもりにあたたかいミルクティを差し出す。
「ありがとう」
甘い物が嫌いな彼女の精一杯の心遣いに、笑みを浮かべてまもりはそれに口をつける。
アヤが殊更強く言い切るのは、不安を押し隠すための手段だと知っている。
けれどそうせざるを得ないのだ。
不安を抱えているのは一人だけではない。この場にいる全員なのだから。
「そうだよね、お兄ちゃんは帰って来るよね」
自らの行動が元で不在となった兄の安否を気遣う護にも、これ以上余計な心配はかけられない。
まもりは昨夜のヒル魔の言葉を思い出す。
『今は夏で、山には食えるもんは沢山ある。いざとなったら猪くらい捕まえて焼いて食うだろ』
そんなことを平然とのたまった彼に丸ごと賛同は出来ないが、ヒル魔がそう言うのなら大丈夫だろうとどこか楽観視する向きもあり。
「よし!」
まもりはミルクティを飲み干すと、おもむろに台所に立つ。
「もうご飯作るの?」
「ううん。いつ妖介が帰ってきてもいいように、とりあえずパウンドケーキとかクッキーとか焼いておこうかなって」
甘い物が大好きな彼のこと、きっと喜ぶだろうからと。
日持ちがするものを中心に作ろうと決めたのだ。
「そうだね!」
笑顔で賛同する護の傍らで。
アヤは困ったように眉を寄せ、けれどようやく笑顔を見せた母と弟相手では否定も出来ず。
とにかく早く妖介が帰ってこないか、とそっと外をうかがったのだった。
<続>
星が出ていて助かった。これで方角が知れる。
去年、家族の皆でキャンプをした時に習ったことの一つだ。ここで役立つとは思わなかったが。
位置的には南下していけば家の方角に帰れるだろう。
ディパックの中身を確認すると、中にあったのは500mlの水が入ったペットボトルが一本、ジッポー、地図。
それとなぜだか塩と醤油。食料はないから、おそらく自力で確保しろ、ということだろうと嘆息する。
ナイフを使って解いた縄も繋げて結んでおき、何かがあったときに使えるようにとナイフと共にそこに入れる。
「これぞほんとのサバイバル、って感じだよね」
呟いても、いつもであれば応じる家族の声はない。
それに言いようのない寂しさを感じながらも、妖介は立ち上がった。
ああ言った以上ヒル魔は絶対に迎えに来ないだろう。
頼みの母親は車の免許は持っていないし、ヒル魔が言いくるめて自宅待機させるに違いないのだ。
母親が父親以外を頼って彼を探しに来るという可能性はほとんどない。
「・・・頑張ろ」
呟き、妖介は山の中に入り込む。
黒く蹲る夏の山は、方々から虫や獣の声が響く。
まるで山全体が大きな生き物で、それが深呼吸しているような不気味な気配を湛えている。
熊に襲われたら対抗する手段はない。
彼はとりあえず枯れ枝を集め、火を焚いて夜を明かすことを選択した。
まもりは落ち着かない気持ちのまま玄関を伺う。
ヒル魔は仕事だとかで早朝からさっさと出て行ってしまった。
妖介を迎えに行ってくれたのでは、とささやかな願望を抱いてみたものの、すぐ否定する。
そもそも彼が一度言い出したことを撤回することはあり得ないし、期待しても無駄だ。
時折外に顔を出しては妖介が帰ってきてはいないかと確かめるが、彼の気配も影も形も何もない。
「お母さん、大丈夫?」
「おかあさん、かおいろ悪いよ」
アヤと護に交互に心配されつつ、まもりはしきりに外を気にする。
「妖介なら大丈夫。きっと帰ってくる」
アヤはそう断言してまもりにあたたかいミルクティを差し出す。
「ありがとう」
甘い物が嫌いな彼女の精一杯の心遣いに、笑みを浮かべてまもりはそれに口をつける。
アヤが殊更強く言い切るのは、不安を押し隠すための手段だと知っている。
けれどそうせざるを得ないのだ。
不安を抱えているのは一人だけではない。この場にいる全員なのだから。
「そうだよね、お兄ちゃんは帰って来るよね」
自らの行動が元で不在となった兄の安否を気遣う護にも、これ以上余計な心配はかけられない。
まもりは昨夜のヒル魔の言葉を思い出す。
『今は夏で、山には食えるもんは沢山ある。いざとなったら猪くらい捕まえて焼いて食うだろ』
そんなことを平然とのたまった彼に丸ごと賛同は出来ないが、ヒル魔がそう言うのなら大丈夫だろうとどこか楽観視する向きもあり。
「よし!」
まもりはミルクティを飲み干すと、おもむろに台所に立つ。
「もうご飯作るの?」
「ううん。いつ妖介が帰ってきてもいいように、とりあえずパウンドケーキとかクッキーとか焼いておこうかなって」
甘い物が大好きな彼のこと、きっと喜ぶだろうからと。
日持ちがするものを中心に作ろうと決めたのだ。
「そうだね!」
笑顔で賛同する護の傍らで。
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とにかく早く妖介が帰ってこないか、とそっと外をうかがったのだった。
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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