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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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少年クライマー(7)


+ + + + + + + + + +
まもりは夢を見る。
早朝、朝靄が漂う青い朝。
日もまだ上り始めたくらいの時間帯に、ぼろぼろになった妖介が帰ってくる。
おぼつかない足取りで、それでも一心不乱に。
薄汚れた風体で、それでも瞳ばかりは綺麗なままで。
その父譲りの指を呼び鈴に触れさせて。
『ビー!!』
「「「「!!!」」」」
早朝に鳴り響いた呼び鈴に、まもりは文字通り飛び起きた。
一瞬それが夢の続きなのではと思ったが、再び鳴った呼び鈴に間違いないと確信し、慌ててベッドから降りて玄関に向かう。
その後をアヤと護が追う。
そうして、扉を開いた先に立っていたのは。
「・・・ただいま・・・」
やつれた風情の妖介。それは、彼女の見た夢そのもので。
それでもどこか充足したような笑みを浮かべた息子を。
「・・・おかえりなさい!!」
まもりは思い切り、強く強く抱きしめた。

疲労困憊の妖介をまもりとアヤと護の三人がかりで担ぐようにして運び、リビングのソファに座らせる。
「何か欲しいものある?」
「・・・水」
まもりが差し出したグラスを立て続けに二杯あけ、三杯目はゆっくりと味わうように飲んだかと思えば。
「・・・っ」
ふらりとその体が傾いでソファへと倒れ込んだ。
「妖介?!」
「・・・大丈夫、寝てるだけ」
アヤが言うまでもなく、妖介はすうすうと寝息を立てて眠っている。
護が毛布を持って彼の上にかけた。
「兄ちゃん、どれくらいの距離を歩いたんだろうね」
「お父さんが山中、って言ってたから近場じゃない」
まもりは黙って昏々と眠る彼の頭を撫でる。
汗と埃とでばさばさになったそれすら涙が出るほど嬉しい。
そこに至ってようやくヒル魔が顔を出した。
「帰ったか」
眠る妖介に近寄り、じっと見つめ。
僅かに笑みを浮かべると、なぜだかまもりの頭をごしゃごしゃにかき回して上機嫌で自室へと戻っていった。


結局妖介が起きたのは昼近くになってからだった。
のそりと顔を上げた彼に、傍らで本を読んでいたアヤが気づく。
「起きたか」
「・・・うん。あれ、今何時?」
「もう昼だ」
アヤが手を差し伸べる。
「大丈夫、一人で・・・」
自らがあまり綺麗でない自覚があるのでそれを遠慮し、避けて立ち上がろうとして。
「・・・あれ?」
がくりと膝が崩れる。けれどそれを見越したアヤに腕を捕まれて転倒は免れた。
そのままソファに座らされる。
「ろくに食べてなかったんだろ」
「うん」
まだ寝起きでぼんやりしているが、腹は減っていると思う。
もう限界を通り越して感覚が鈍っているのかもしれない。
奇妙なほどに気分は落ち着いていた。
「お母さん、妖介が起きた」
「そう? じゃあ食事持って行くわね」
カチャカチャと食器が立てる音、そうして漂ってくる匂い。
妖介はふいに隣にいるアヤに顔を向ける。
「何?」
「ちょっと、席外してくれない?」
その言葉にアヤはぴんと片眉を上げる。
父親そっくりの仕草で、無言でその理由を問うている。
「・・・多分、俺今何か食べたら思いっきり泣くと思うんだよね」
これ以上みっともないところを見せたくないのだ、という妖介にアヤは小さく嘆息して立ち上がる。
心配はあるし、何を今更、という気もあるが、無理強いするのはよくない。
「ごめんね。ありがとう」
まるで憑物が落ちたようにすっきりとした顔をしている彼を見下ろし、アヤは瞳を細める。
「妖介」
「何?」
アヤはそっと妖介の頭を撫で、笑みを浮かべる。
「おかえりなさい」
それに妖介は笑って応じようとしたがうまくいかない。
ひくりと震える彼の頬を見てアヤは小さく首を振ると、くるりと背を向けてその場を離れた。
入れ違いに、まもりが器を持ってやってくる。
「とりあえず雑炊よ。いきなり固形物食べるとお腹がびっくりしちゃうから」
夕飯は腕をふるうわよ、と請け負ってくれた母に頭を下げる。
「うん。いただきます」
手を合わせ、妖介はレンゲを手に一口頬張る。
途端に。
「・・・っ」
予想通り。
目の前が一気に歪んで何も見えなくなった。

<続>
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