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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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0.6mm向こう側

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
ヒル魔はさきほどからちらちらと感じる視線に内心舌打ちした。
気がつけばその匂いが感じられそうなほど近くにいるまもりの姿。
部活を終え、共に並んで帰るのがこの頃の定番だ。
茶色の髪の毛からは何か甘い匂いがする。
シャンプーに混じった、けれどそれだけではない、もっと甘い匂い。
それは糞甘ったるいが、嫌いじゃない。
この距離を許した女は彼女が初めてだ。
おそらく傍目から見て、どう言い訳してもきっと己と彼女の関係は『付き合っている』というものになるのだろう。
好きだと言ったことも、言われたこともない。
けれどいつの間にか、この距離で違和感がないようになった。
必要以上に身の回りに人を置かないヒル魔にしては、かなりの変化である。
これが恋だとか愛だとかいう糞甘臭い関係なのだと自覚して尚突き放すこともない。
つまりは積極的でこそないが、ヒル魔は相当にまもりのことが好きでかなり気を許しているという状況なのだ。
まもりも愚鈍ではないから気づいている、と思われる。
ここまで分かっていても断言できないのは彼女がひどく天然で無自覚な一面があるからだ。
表面上は平然と、まもりの振る話に適当に相槌を打ちつつ色々考えていたヒル魔の手に再び感じた視線。
まもりは先ほどから狙っている。
この手を。
どうも、どうしても手を繋いでみたい、ようなのだ。
それも今日だけの話ではない。このところ、ずっとだ。
ヒル魔さりげなく手をポケットに突っ込む。
途端に消沈したような気配を感じたが、それは無視した。

QBとして身についた手を大事にする、という習慣。
けれどそれ以前から、彼は必要以上に他人に触らなかった。
どうにも気持ちが悪いのだ。
生ぬるい体温、人の物なのに同じような肌の感触、しっとりと濡れる手のひら。
握手程度ならまだなんとか我慢できるが、ずっと手を繋いで歩くなんてことは願い下げだ。

ちらりと伺ったまもりは、本人は無自覚だろうが恨みがましい目をしている。
濡れたような艶の唇、白磁の肌、薄紅色の頬。
見上げられたら、吸い込まれそうな青い瞳が見られるのだろう。
先ほどからその視線は彼の手ばかり追っていて、まともに見ていないのだけれど。
そんなことを考えながら視線を下げる。
軽く握り込まれた白い手は、見ているだけでも柔らかいのだろうと推測できる。
―――触りたいという欲求がないと言えば嘘になる。
「なんつー面してんだ、テメェ」
思わず口を突いて出た言葉に、まもりはぱっと顔を上げる。
僅かに色を濃くした頬に、口角を上げて言い放つ。
「なんかやらしい事考えたんじゃねぇか」
「! そ、んなこと無いわよ!」
青い瞳が一瞬潤み、次いで俯いたことでそれが隠される。
その動揺する様はヒル魔の笑みを誘った。
けれど、それ以上に彼女の視線がそらされたことに物足りなさを感じて。
ポケットから抜き出した手で、彼女の握り込まれた白い手を無造作に握り込んでみた。
「!」
まもりが驚いたように身を竦ませ足を止める。
表面には出さなかったが、ヒル魔もまた驚いた。
想像していたよりもずっと小さく、自分とは隔たった肌の感触、そうしてひんやりと冷たい指先。
「ドウカナサイマシタカ」
わざと片言のように言い放てば、まもりは真っ赤になって無言のまま首を振り、つながった手を見る。
その瞬間。
今まで見たこともないような嬉しそうな顔で、まもりは微笑んだ。
思わずヒル魔も言葉を失うくらいの、きれいでかわいい、笑顔。
たかが手を握っただけ。ただそれだけ。
それだけなのに、この上なく幸せな顔をされてしまったなら、もう。
「おら、行くぞ」
ぐい、と引けば頬を染めたまままもりはヒル魔を見上げてくる。
先ほど反らされたそれが再び戻ったことに、彼は満足そうに僅かに眸を細めた。
それは全くの無自覚だったのだけれど、まもりを喜ばせるには十分だった。


***
手を繋ぐ二人を書きたかったのです。
ヒル魔さんは触られるの好きじゃなさそうだなって。
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