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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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フラッシュバック

(ヒルまも)
※高校三年生の夏。


+ + + + + + + + + +
学校に向かう道は、朝であってももう暑い。
日差しから逃れようと木陰を選びながら歩くまもりの頭上から、この世の終わりと啼き叫ぶような声の、蝉時雨。
聞きながらなんだか今年はひどく耳に付くなあ、なんて思った。
けれど少々思い出せばごく簡単なこと、だった。
「そうか、去年は・・・」
アメリカで。
部員全員が灼熱の大地を蹴って走り続けていたのだった。
あのとき、聞こえたのは銃声、怒声、掛け声。
苦しくて辛くて大変で、泣き言も悲鳴も随分上がったはずなのに。
終わってみれば、記憶に残っていた音はそれだけで。
かなりの距離を移動したはずなのに。
それもこれも、あの一ヶ月が常軌を逸して恐ろしく長い期間だったのだと知らしめているようだ。
「蝉時雨が煩いって感じるのは、気分の問題じゃないってことね」
「気分が関係してんだろ、糞マネ」
「きゃっ!」
背後から唐突に響いた声に、まもりは飛び上がる。
振り向けば当然のようにガムをふくらませてまもりを見下ろす悪魔の姿。
「んもう、驚かせないでよ」
「勝手に驚いたのはテメェだ」
まもりを追い抜き、すたすたとヒル魔が歩いて行く。
その首筋に汗が滴っている。
彼も一応人間だな、と思う瞬間だ。
「・・・ヒル魔くんって、汗あんまり拭かないわよね」
「ア?」
「試合中とか、練習中も汗拭いてる姿って見ないなって」
「走ってりゃ乾く。必要ねぇだろ」
「目に入ったり、とか」
「ねぇな」
「そうなの?」
まもりは記憶を掘り起こす。
必死になって戦った試合の最中、どの場面でも彼は緩慢に汗を拭う仕草を見せなかった。
試合中のみならず休憩中も汗を拭う暇があるなら分析を、というスタンスだった。
そうして、あの東京ドームの、薄暗い救護室の中でさえ冷や汗を拭うことなく彼はフィールドへと戻っていった。
不意に、まもりの記憶が引っかかる。
今と同じように、背を向けた彼が―――。
「本当にないのね?」
「しつけぇな」
ちらりと視線を寄越すヒル魔の声が尖る。けれどまもりは頓着せず続けた。
「去年、東京ドームで」
ぎちぎちに固められた右腕はだらりと下がっていたけれど。
「左腕で」
やや俯いて。
誰もが歓喜に沸き立つ中で。
一度はお決まりの歓声を上げたその場で。
皆が涙を浮かべた、あの時に。
「汗、拭いていたでしょう? それとも、あれは汗じゃなかったの?」
純粋に疑問だったのだけれど。ヒル魔の眸が僅かに細められた。
「事実をねじ曲げるのが随分お得意デスネ」
その言葉にまもりは足を止めた。視線が鋭くまもりを射貫く。
「汗なんざ拭いてねぇよ」
ヒル魔の声は必要以上に冷たく響く。
「そもそもテメェの記憶違いだ」
ややむきになる様子そのものが、彼の行動を裏付けするようなものなのに。
ヒル魔もそれには気づいたのだろう。小さく舌打ちすると再び歩き出した。


まもりは蝉時雨の中、ただ立ち尽くす。
「恥ずかしいことじゃなかったのに」
全ては過去のことだと言わんばかりの彼の姿に、意味もなく涙が浮かんできた。
何故こんなに苦しい気持ちになるのだろう。
自分自身が分からなくて、なんだか無性に、泣けた。


あの場所で、季節外れの蝉のように啼くのは恥じゃなかった。
でももう、二人は引退してしまった。
去年と同じ場所で同じように啼くことが出来ないのは明白で。
今年もまた同じように啼ける蝉が、羨ましくて妬ましくて。



そうして彼女は、泣くのだろう。
そうして彼は、泣けないのだろう。


***
不意に思い出して、当時よりも褪せる熱にそれぞれ思いを馳せればいい。
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