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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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スイッチ!

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
夏休みとはいえ、練習は毎日のようにある。
三年生が引退するのは夏休みの後、秋の東京大会が始まる前だ。
彼らが大会自体に出られるのは春大会までなので、秋大会に向かっての練習は後輩たちがメイン。
三年生はそのサポートをすることとなり、もちろんまもりも主務業とマネージャー業を後輩たちに教えるべく毎日部室へと顔を出していた。
そうして後輩たちは、ヒル魔とまもりがいかに仕事が出来たのか、とつくづく実感することになるのだ。
掃除一つ、データ整理一つとっても、二人は人の三倍は働いている。
今年は部員が大幅に増えて、主務とマネージャーもそれぞれ複数人になった。
それでやっと二人がやってきた仕事をどうにか回している状態。
あいつら人間じゃねぇよォ、という黒木のぼやきはヒル魔の発砲により『並の』という一言がついたが、それについては誰も否定しなかった。

今日も炎天下の中、練習を終えた部員たちはのろのろと帰り支度をしていた。
疲れ切っているし、早く帰りたいのは帰りたいのだが、特に今年の一年生たちの身体が言うことを聞かないのだ。
「・・・ってか、なんで先輩たちはまだ動けるンスか・・・?」
「そりゃなあ」
「慣れてるからな」
「慣れ、ですか・・・慣れるのかなぁ・・・」
こればかりは慣れるまで仕方ない、ととんでもない量の練習に慣れている二年生たちが慰める。
デス・マーチを今年もやれば具体的に分かって貰えるとは思うが、全てにギリギリ状態だった去年とは違うのだ。
今年はやらず、合宿も国内で済ませる予定である。
それだって多分あの悪魔がとんでもないコトを仕掛けるだろう予測は付いているのだけれど。
「おら糞ガキども、さっさと着替えて帰れ」
ヒル魔がパソコンから顔を上げず声を掛ける。
彼の手元の書類ももうない。まもりが今見ているもので終わりだろう。
彼らはとうに着替え、制服姿だ。
マネージャーの一人が洗濯物を畳み、一年生主務たちが手分けしてファイリングした書類を片付けている。
「もうそろそろこっちも終わるわ。早く帰って休まないとね」
「明日も地獄の練習が待ってるしなァ」
ケケケ、と笑うヒル魔にわざわざ言わなくてもいいの、とまもりは最後の書類を後輩に手渡しながら睨む。
っていうか地獄の練習については否定しないんですね、と後輩の一人がぼそりと呟いた。
やはりそれも否定せず、二年生たちが笑う。
そんな和やかな空気の中。
「さ、こっちも終わったわ! んー、疲れた」
ぐい、とまもりは両手を上にぐーっと身体を伸ばす。
その豊かな胸が前に突き出されるような格好に、思わず部員たちの視線がそこに注目してしまって。

ぷちっ。

小さな音と共に、ボタンが弾け飛んだ。
まもりのシャツの、胸元のボタン。
そこから覗くのは、白のブラジャーと、そこに収まった豊かな胸・・・。
「あ」
まもりの間抜けな声が上がった次の瞬間。
折良くカジノのテーブルに乗っていたヒル魔の黒いシャツが、がぼっとまもりの頭から被せられる。
「わぷっ?! ちょ、何!?」
そのままヒル魔はパソコンを乱暴に閉じると、鞄に放り込んでそれを持ち上げ、更にまもりをも担ぎ上げた。
「キャー?!」
「ひ、ひる・・・魔さん?」
「ヒル魔?!」
慌てて声を掛けようとするセナと栗田に構わず、ヒル魔は部室の出入口でぴたりと足を止めると。
「解・散!!」
一言そう言って、悲鳴を上げているまもりを担いだまま早々に部室を立ち去ってしまった。
「ちょっとー?! 片付け終わってないのに!」
「テメェが変なモン晒すからだろーが!!」
「なっ!? 変なモンとは何よ、変なモンとは!!」
賑やかな二人の怒声があっという間に遠のいていく。
「・・・ヒル魔先輩・・・」
「解散なんて初めて聞きましたけど・・・」
「姉崎先輩、大丈夫でしょうか・・・」
後輩たちがざわつく室内で、残された三年生―――栗田とムサシと雪光が顔を見合わせ、嘆息する。
「あんなに焦ったヒル魔、久しぶりに見たね」
「ああ。姉崎絡みはやっぱりダメだな」
「姉崎さんも天然というか・・・無防備ですもんね」
はあ、と嘆息する三人のところに、今年入ったマネージャーの中でも一番まもりに懐いている小柄な子が焦ったように近づく。
「だ、大丈夫でしょうか、姉崎先輩・・・。ヒル魔先輩にいじわるされたりするんでしょうか」
「意地悪・・・」
「意地悪・・・じゃないと思うけど」
どことなく歯切れの悪い三年生を前に、マネージャーの目に涙が浮かぶ。
それを見た雪光が慌てて手を振る。
「いやいや、大丈夫だよ。意地悪じゃないから」
ね、と他の部員たち―――二年三年に向けて笑みを浮かべる。
「そうですね、意地悪・・・じゃないと思います」
「ああ、意地悪じゃねぇだろうな」
「意地悪ってーよりよォ・・・むぐっ」
「はい黒木、黙ってろ」
「ヒル魔先輩は意地悪はしねぇぞ・・・ちくしょぉお!!」
「ちょ、モン太落ち着いて!!」
「フゴ」
「アハーハー! ムッシューヒル魔は意地悪なんてしないよ!」
全員が微妙ではあったが、意地悪ではないだろうと応じた。
「大丈夫なんですね?」
念押しで問われたセナはしっかりと頷いた。
「うん」
多分ね、という一言は賢明にも飲み込んで。

きっと『今夜は寝かせない』だの、『そもそも誰のせいよ!』とか、『オヤ俺のせいですかじゃあ責任取りマスカ』『ちょっとどこ触ってるのよ!!』・・・という痴話喧嘩が繰り広げられているだろうことを残された二年生と三年生は揃って想像し、げんなりとしたのだった。


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