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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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シラナイヒト(1)

(カワイイヒトシリーズ)
※『イトシイヒト』の続きです
※途中かなり暴力的な場面を含みます
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
婚約の証という指輪。
その効力が、口先だけの約束が、どれだけの威力を持っているというのだろうか。

それは案外、脆いものかもしれない。


正式な婚約者という立場になってからも、まもりのは忙しない日々を送っている。
ただ、以前ほどがむしゃらに何もかも詰め込むようなやり方ではない。
やらなければならないことは山積みだが、徐々に順を追ってやっていけるよう考えられていたし、自分でもそうなるように工夫していた。
「まだ起きてんのか」
「もうちょっと。あと少しで読み終わるの」
まもりは手元の本から視線を上げず、応じる。
ヒル魔はとにかく大量に本を読む。
出会った当初からそれを目の当たりにしていたまもりは、出来る限り自分も本を読もうと自らにノルマを課し、実践していた。
元より読書は好きなので苦ではないし、知識を得られるのは楽しかった。
ヒル魔がふとまもりの髪の毛を触る。
出会った当初は顎のラインで揃えられていたそれも、徐々に伸びて今では肩を越す長さにまで到達していた。
丹念に手入れされた髪は彼の指に絡むことなくさらさらと滑り落ちる。
無言でそれを手慰みに過ぎる時を味わうこと少し。
「・・・よし! 読み終わったわ」
宣言通り、僅かな時間で本を読み終わったまもりは満足そうに顔を上げた。
「お待たせしました」
「ベツニ」
そう素っ気なく言いつつも、ヒル魔はまもりの身体を抱き寄せる。
言葉よりも雄弁なその腕に包まれ、まもりは笑みを浮かべると嬉しそうにその胸に頬を寄せた。
普段から多忙な彼は同じ室内にいてもほとんど会話しない日もあるほど仕事に追われている。
仕事の出来る人の常で、彼もあまりそういう姿を見せないが、まもり自身の能力が上がるにつれ、それがどれだけ大変なことなのかはよく分かるようになった。
生活のリズムも不規則になりがちで、それでも体調を崩さず仕事も遅延なくこなすその姿は、そうとは見せない彼の、努力の賜に違いなかった。
「あんまり無理しないでくださいね」
「ア? テメェ誰にモノ言ってやがる」
たまに労ってもすぐこの台詞。
それでも彼の口角が自然と上がるのを目の当たりにすれば気分の悪くなりようがない。
かわいいひとなんだから、という当初からの認識が覆ることもなく、まもりは意図を持って動き始めた手にも優しい笑みで応じた。

ヒル魔が実際にどんな仕事をしているか、仮婚約者だった頃のまもりは具体的なことを何一つ知らなかった。
最近になって、どうやら彼はIT関係の会社の経営者であり、その他にトレーダーとしての一面もある、というのが何となく分かってきた。
彼の手腕を見るにつけ、何らおかしなことはない。
むしろ影社会の人間ではなかったことに驚いたくらいだ。
だからまもりは考えもしなかったのだ。
彼自身の交友関係について。
ましてや男女関係なんて、何も。


それはまもりが最近受け始めたパソコンの講義帰りのこと。
「おかえりなさいませ」
「ただいま戻りました」
送迎の車から降り、いつものようにドアマンに笑みを浮かべ挨拶をして自室へと戻ろうとして。
「姉崎様」
ホテルマンが一人近づいてきた。細身の、一見して気弱そうな青年である。
「お手紙をお預かりしております」
「私に?」
まもりは小首を傾げる。ここで彼女が生活していることを知っているのはセナだけ。
ごく親しい友人関係には孟蓮宗の寺―――ヒル魔の友人である栗田の住所を教えてある。必要があれば携帯電話に連絡してもらえるようにしてあるし。
わざわざこのホテルに、しかもまもり宛に手紙というのが解せなかった。
「ご覧下さい」
差し出された封筒の表には確かにまもりの名前が書かれている。その他には何一つ印字のない、何の変哲もない茶封筒。
けれどその宛名に彼女は眉を寄せた。
そこには印字で『姉崎まもり行』とあったのだ。
普通、こういう手紙でこんな書き方はしない。
たった一行ながらそこに込められた悪意を見た気がした。けれど中身を見ないとどういう目的か知れない。
「ありがとうございます」
戸惑いながらも受け取ろうとしたまもりの前で、ホテルマンはにっこりと笑う。
「どうも不穏な気配がしますので、こちらの袋にお入れします」
と、取り出されたのはジッパーが付いた透明な袋。ホテルマンは職務上白い手袋を嵌めている。
袋に手紙を入れ、まもりに差し出す。
「差し出口かとは思いますが」
彼はまもりに向かって柔らかい笑みを浮かべる。
「ご覧になる場合は直接触れられないようになさってからの方がよろしいかと。近頃は紙からも指紋が検出できるそうですので」
そうして出来ることなら同室の方とご覧になられては、と。
その助言にまもりは少し考えてすぐ笑みを浮かべる。
「お気遣いありがとうございます」
彼は笑みを浮かべたまま頭を下げた。


<続>
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