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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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シラナイヒト(2)



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ホテルマンの助言通り、まもりはその手紙をテーブルの上に置いたまま彼の帰室を待った。
そうして戻ってきた彼の前に、袋に入ったままの手紙を差し出す。
「・・・ホー」
まもりと共にソファに腰掛ける。
ヒル魔はどこから取り出したのか、薄いゴムの手袋を嵌めた。
そうして手紙を取り出して封を切る。
彼の眉がピン、と上がった。
「何?」
ヒル魔がぴらりと写真を取り出した。数枚がざっとテーブルに並べられる。
様々な女性とのツーショット写真。
女性は誰もが美しく、また色気のある格好をしていた。
いかにも隠し撮りだろう、という角度のものばかり。
場所はホテルのラウンジやどこかの店内だったりするのだろう、背景はすべてバラバラだった。
まもりはしばらくそれをまじまじと見て、それからヒル魔を見た。
「・・・他に何か入ってないの?」
「後はDVDが一枚。多分同じような内容だな」
「そう」
激高するでもなく、写真を手に取ることもなく、まもりは嘆息した。
「普通はここで『浮気したのね?!』とか詰め寄るべきなのよね」
「言わねぇのか?」
にやにやと笑いながらヒル魔がまもりを見る。
まもりはふっと笑って肩をすくめた。
「妖一さんにそんな暇がないのはよく分かってるもの」
そう、彼はとても多忙だ。そうして、意外なほどにストイックなのだ。
「女の人がこんないかにもな格好じゃあね。この他にも人がいたんでしょう?」
艶やかなドレス姿の女性たちはホステスだろう。共に写るテーブルにあるグラスの数を見ても二人きりとは考えられなかった。
おそらく接待で使用した店なのだろう。
「ご明察」
ヒル魔は楽しそうに笑ってまもりの肩を抱く。
「もしこれが私服で女の人と写ってるとかなら少し考えたけど・・・」
まもりが知る限り、彼は僅かな時間を捻出しては母校でアメフトのコーチをするのが精一杯。
その他にプライベートな時間なんてあるのかと問い詰めたいくらいに、常に仕事をしている。
「もし写っていても私に会う前の話でしょう?」
「そうだな」
彼とて男性であり、まもりという婚約者が出来る前にはそれなりに過ごしていただろう。
それについては今更問い詰めるつもりもない。
寛容ではないが、過去を詰っても未来につながらないからしないのだ。
「妖一さん、嘘は言わないものね。・・・でも」
「でも?」
ヒル魔の片眉が上がる。まもりはそんな彼を上目遣いに見つめて。
「・・・気分がいいわけじゃないのよ?」
少し拗ねたような顔をするまもりに、ヒル魔は声を上げて笑う。
そうして、彼女のご機嫌を取るように、優しくその唇に口づけた。


不発に終わった手紙騒動。
けれどそこから徐々に手紙は数を増してきた。
まもり宛の、新聞から切り取った文字で作られた古典的な文面の脅迫状だったり。
ヒル魔宛の、まもりがいかなる淫売かと作り上げた文章だったり。
何枚目かの文面にざっと目を通したヒル魔が口を開く。
「3点」
「何点満点中?」
「100点に決まってんだろ」
アホらしい、と呆れたように言い放ってヒル魔は部屋の片隅にある段ボール箱に届いたそれらを放り込む。
「どうするの、それ」
「ケケケ」
笑うだけでヒル魔は答えない。ただ、その気配がドス黒いので、きっとろくでもないことに使われるのだろうなあという予測は付いた。
それにしても、諦めない相手だ。
姿は見えないし、どんな相手かは想像できないが、一つだけ確かなこと。
相手は、二人の仲を裂こうとしている。
修復不可能なくらい、暗く陰惨な方法で。
「こういうこと考える人、ってどういう人だろう」
「ア?」
中身に触るなと言われているため手出しはしないが、箱の中を見てまもりは嘆息する。
「自分でやってること、空しくならないのかしら」
「それが分かるようなら最初からやらねぇよ」
ケッと短く言い捨て、コーヒーを所望する彼に。
それもそうよね、とまもりは軽く応じた。

だが。
相手の鬱屈した感情というものが、まもりの想像の範疇を遙かに超えていたというのを。
この直後に思い知ることになる。


<続>
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