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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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長編連載『カワイイヒト』/3

(ヒルまもパロ)
※20000HITお礼企画

+ + + + + + + + + +

『今日のテメェの行き先はここだ。その安っちいナリじゃあ困るんでな』
いつの間にか運び込まれていた自分の荷物。
まもりにとって見慣れたそれらをざっと検分した男は眉間に皺を寄せ、思案する。
そして持っている服の中では一番上等な物を着せられ(それでもひどく愚痴られた)、まもりはヒル魔の指示で用意された車に乗り、指定された場所にたどり着いた。
「・・・ここって」
控えめなロゴで店名が示された、上品なセレクトショップ。
気後れしながら、そのドアをくぐろうとすると、入り口を守るドアマンに呼び止められた。
なんだか妙にテカテカした顔が気色悪い。
「申し訳ありませんが、こちらにご用事ですか?」
口調は丁寧ながら、明らかにこちらを見下した口調。不快感を覚えつつも頷く。
「買い物をしてくるように言われました」
「いかほどの物をご所望ですか?」
「いかほどって・・・」
具体的に何を買って来いとも、どうして来いとも指定はされなかった。ただ行けと言われたから来ただけだ。
なぜこんな頭ごなしに馬鹿にされるような扱いをされなければならないのだろうか。
あまり怒る性質ではないまもりも腹を立てる。
「もう一度ご確認頂いてからお越しいただけますか?」
丁寧に、それはもう慇懃無礼に、帰れコール。
まもりはため息をついた。
これだけはしたくなかったが、出掛けに渡された物が一つだけあったので利用することに決める。
何の変哲もない携帯電話。一つだけ登録された番号に掛けてみる。
「じゃあ今確認します。・・・もしもし?」
『おう』
待つまでもなく繋がったのはやっぱりヒル魔で。互いに名乗ることもなく用件だけを告げる。
「門前払いされました。どうしたらいいかしら?」
『ケケケ、糞テカリだろ。慇懃無礼に見下した野郎』
「・・・まあ、そんな感じだわ」
『そのまま待ってろ。迎えを寄越す』
「迎え?」
言うが早いか、ドアマンが強固に守っていたドアが内側から開く。
酷く慌てた様子で、優しそうな中年男性が飛び出してきた。
「あああ申し訳ありません!! さあ、どうぞ中へ!」
「て、店長!?」
『ケケケ、社員教育がなってねぇな、糞店長?』
未だ繋がる電話口から、悪魔の笑い声が聞こえる。
それを聞いた途端、糞店長と呼ばれた男性は更に顔色をなくしてまもりを中へと誘う。
後には呆然としたテカるドアマンが残されていた。

「私、何をどうしたらいいか全然判らないんですが・・・」
心配そうなまもりに、店長はにっこりと微笑んだ。
先ほどまでの焦りの名残は多少感じられたが、落ち着いた表情になっていた。
「ヒル魔様から伺っております。どうぞ、奥へ」
人がほとんどいない店内の、更に奥へと通される。
てっきり商品を目の前にこれでもか、と並べ立てられて勝手に選ばせるのだと思っていたら、通されたのはホテルの一室のように落ち着いた応接間だった。そこには品の良い女性店員がいて、笑顔でまもりを出迎える。
「事前にいくつかご用意させて頂いております。どうぞ、ご試着下さい」
今までに触ったどれよりも手触りがいい洋服を渡され、あれよあれよという間に試着室に通される。
最初は洋服に着せられている感覚が先だったが、いくつもいくつも試着するうちに、段々似合う色と形、組み合わせ方が出来ていく。 同じ色味でも形が違うと全然印象が違う。新しい発見にまもりは目を丸くするばかり。
「お客様はスタイルがよろしいから、どれもよくお似合いですね」
「そ、そんなことはないです」
てらいもなく褒められ、まもりは落ち着かない気持ちになる。大きな姿見に映る自分は、今まで見たことがないくらい着飾っていて、そして見たことがないくらい楽しそうに笑っていた。

結局、まもりは何着か購入したなかで、綺麗な花柄のワンピースを身に纏い、ぴかぴかのパンプスを履き、ついでに少々化粧までしてもらって外へと案内された。
先ほどのドアマンが驚いたようにこちらを見ていたが、今の楽しい気分を帳消しにされるのも嫌なので、相手にすることなく出口へと向かう。
「お車の用意を・・・」
「必要ねぇ」
言いかけた店長の声に男の声が被った。
「ほーお。少しは見られるようになったな」
見上げると、そこには金髪の悪魔。黒塗りの車を背に、にやにやと笑っている。
「合格かしら?」
「ケケケ」
笑ってヒル魔は店長のもとへ向かう。何か悪さをするのでは、と危惧して後ろから覗き込むが、彼はまもりが買った物の代金を支払いに来ただけのようだった。
「いつもありがとうございます。確かに頂戴致しました」
深々と頭を下げる店長を一瞥し、まもりの腕を引いて車へと向かう。
気圧されたように一歩引いたドアマンを見たヒル魔は、一瞬の間を空けて鼻で彼を嘲笑った。
そしてそのまま車にまもりを押し込むと、運転手に命じて車を発進させる。
「ちょっと!」
「なんだ糞女」
「その呼び方止めて! じゃなくて、なに今の鼻で笑ったの! ヒドイじゃない!」
その言葉にヒル魔は訝しげにまもりを見やる。
「人のことを見下して笑うなんて失礼よ!」
「さっきまさにオマエはそれを糞テカリにやられたんだろ」
「やられて嫌だったことは人にやったらいけませんって、小学校で習ったでしょ!」
「・・・・・・・・・」
「沈黙もダメって言ったじゃない! 思ったことは言って!」
「なんだこの糞優等生気取りは。自己満足に俺を巻き込むな。雇い主には敬意を払え。キーキーうるせぇ」
「ひどい! 棒読みだし!」
「どうしろっつーんだ。大体何言ってもオマエ納得しねぇだろ」
「そんなこと無いわよ!」
つん、と横を向いた彼女の耳に、ぽつんと言葉が届く。
「合格だ」
「・・・!!」
慌てて振り返ると、そこには全てお見通しと言わんばかりの悪魔的笑顔。
「・・・ッ、ありがとうございます! 今更のようですけど敬語でお話し致しましょうかゴシュジンサマ!!」
悔しくて一気にまくし立てたのに、彼はあっさりと言った。
「口先だけの丁寧さなんて必要ねぇ」
必要以上に近づいて。
「俺が欲しいのは、俺の隣に自然に座っていられる女だ」
耳元に唇を寄せて。
「・・・その口調の方が、イイ」
低く、囁くように。
「・・・・・・・・・!!」

にたにたと笑うヒル魔と、顔を真っ赤にしたまもりは、ホテルに着くまで一言も口を利くことはなかった。


大量の荷物を運び込んでも、スイートルームの中は雑然としない。
ガラガラだったクローゼットが今日買った洋服で少し埋まったくらい。 改めて広い室内に嘆息した。
「あれ? 私の荷物は?」
朝にはあった荷物が何一つ残っていない。
「もうここには必要ないだろ」
「えっ」
つまらなそうに一言で切って捨てられて、思わず動きを止める。
そんな、だって。
私の思い出の品とか、そういったものはどうなるの。
お父さんとお母さんの写真、持ち歩いてはいないのに・・・。
色々言いたいことがあるのに、うまく言葉に出来ない。
喉に熱いものがぐっとせり上がってきて、泣きそうになる。
どうしよう。
新しい洋服も靴も沢山買ってもらったけど、思い出は取り返せないのに。
「お前が何考えてるかは判るが」
のろのろと視線を上げると、小さな舌打ちが一つ。
「捨てちゃいねぇ。糞デブのところだ。糞チビがお前に手紙だと」
手の中に落ちてきたのは、見慣れたセナの字。
「セナ・・・元気だった?」
「人の顔見てひぃひぃ言うくらいには元気だったんじゃねぇか?」
「いじめたの!?」
「ません」
「もう!」
慌てて手紙を開く。そういえば最近は借金取りから逃げるばかりで、セナも学校生活もままならなかった。
『学校に行っても怖い人たちはいないし、お寺の人たちも優しいから、安心して。それに、部活にも入ったんだ』
「部活に入ったの?」
思わず声を上げると、後ろから覗き込んでいたヒル魔が口を挟む。
「ああ、俺が入るように勧めた」
「んもう! セナは虚弱で貧弱で脆弱で最弱なんだから!」
「・・・ホー」
『アメフト部で練習してるけど、すごく楽しい。仲間が出来て嬉しいんだ』
イキイキとした文面に、アメフトなんて怖いことやめておきなさいよ、と思う気持ち半分、頑張れと応援したくなる気持ち半分。
「弟の現状を知ったところで次の目的地だ。ここへ行け」
「・・・ここ?」
渡された地図に載っている住所はどうみても普通の住宅街にあるごく普通の一軒家。
「行けば判る」


それは何処をどう見てもやっぱりごく普通の一軒家で。
よく手入れをされた庭も美しく、周囲の雰囲気もゆったりしている。高級住宅街なのだろう。
とりあえず呼び鈴を鳴らすと、中で人の動く気配。
「いらっしゃいませ」
開いた扉の先には、にこにこと笑う女性が一人。
この雰囲気、あのセレクトショップと同じだとまもりは気づいた。
「ヒル魔様より承っております。姉崎様ですね。どうぞお入り下さいませ」
「はい・・・。あの、ここは何の場所なんでしょうか」
おずおずと訪ねると、彼女はリビングとおぼしき場所の扉を開く。
「ここはエステサロンです」
「・・・はぁ・・・」
間接照明が柔らかい空気を彩る。心地よい香りのアロマキャンドルが焚かれていて、リラックスできそうだ。
これは高校の頃に雑誌で見た『隠れ家』と称される部類の場所ではないだろうか。まもりも一応こういった事には興味はあったが、高校生の身分では到底近寄れる場所ではなかったし、今でも縁遠いはずだ。
ヒル魔に言われたとはいえ、あまりに場違いな気がして呆然としてしまう。
「さあ、姉崎様」
その雰囲気に飲まれていたら、待機していたらしいエステティシャンがその顔をほころばせて近寄ってきた。
・・・先ほどの慇懃無礼なドアマンとは違った意味で、その笑顔が怖い。
「久しぶりの逸材に腕が鳴るわ・・・存分に美しくなりましょう! ね!!」
そのエステティシャンの迫力に押されたまもりは、ただ頷くしかなかった。

<続>
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