旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
それからのまもりの生活はまさに過酷、だった。
移動は全て運転手付きの車だが、その中でも読む本が課せられていたり、覚えることが沢山あったり。
時間が足りない、というのは嘘ではなかった。
目まぐるしくて慌ただしくて、それでもまもりは音を上げなかった。
負けず嫌いな性格も幸いした。そして学べば学ぶほど、色々なことが判って来る。
経済の流れ、世界の視点。本物を見抜く目、パソコンにフォーマルマナー。
まるでスポンジが水を吸収するようにどんどん知識を吸収していく。
不本意な状況から始まったのに、毎日が楽しくて仕方ない。
生きるために仕事をして糧を得る今までの生活がつまらなかった訳じゃない。
でも、視界が開けていく楽しさは何にも代え難い。
深い知識は外見と相俟ってその美しさを更に引き出していくということに、まもりは気づいていなかったけれど。
歩き方一つにしても、プロが教えると違うものだ。
ぐ、と背筋を正されてまもりは意識して立つ。
「意識を持って歩くと違うんですよ。特に隣に立つ人を思えば尚更」
はきはきとした女性講師の声に、まもりは隣に立つヒル魔の姿を思い出す。
あの時の彼の手、腕、声。
触れた暖かさに彼も人なのだと思えて。
「・・・っ」
思わず息を詰めてしまう。
「呼吸はリラックスしてくださいね」
すかさず注意を受けて、まもりは苦笑を浮かべた。
意外にがっしりした腕だった。あの腕で抱きしめられたら、どんな心地だろうか。
そんなことを思ってしまって、ぎくしゃくと歩いてしまう。
「落ち着いて! 意識しすぎても駄目です」
「はい・・・」
ぼんやりと返答したまもりは自分の考えを自分で否定した。
ヒル魔はまもりにそんな関係を求めていない。
彼が求めるのは、完璧な婚約者という存在だけ。
まもり自身の存在などどうでもいいに違いない。
その証拠に、彼はまもりに性的な意味合いを含んで触れてこない。
きっと自分にそんな魅力がないのだろうし、彼もまもりにそれを望んではいないのだろう。
残念ながら。
・・・残念? 誰が?
「姉崎さん?」
講師に呼ばれ、まもりはびくりと肩を震わせた。
「大丈夫? 疲れた?」
「・・・いえ、すみません。少し考え事をしてしまったので・・・もう大丈夫です」
「そう? じゃあもう一回歩いてみましょうか」
「はい」
まもりは背筋を伸ばし、すっと足を前に出した。
ヒル魔がまもりに手出ししないのなら、それは好都合ではないか。
たった一晩婚約者のフリをする、ただそれだけで三千万円もの現金が手にはいるのだから。
余計なことを考えないように、まもりは全身に神経を張り巡らせた。
「妖一さん、コーヒー飲む?」
「ん」
名前も呼び慣れた。
二人でいるときは大概何かしら作業をしているのが普通で、その間コーヒーは欠かせない。
その都度ルームサービスを頼むのも面倒だ、というヒル魔の声により、スウィートルームにふさわしいコーヒーメーカーが鎮座するようになった。操作するのはまもりだ。
当初、ほぼ自動的に動くはずのコーヒーメーカーでとんでもない味のコーヒーを作り出し、ある意味芸術だと嫌味を言われたまもりは躍起になって操作を覚えた、というのは蛇足。
「はい」
「ああ」
彼にはブラックを、まもり自身は砂糖とミルクをたっぷり入れたカフェオレを。
それぞれ手にして、午後の一時を過ごす。
手にしているのはそれぞれ書類やら書籍やらでのんびりとした雰囲気とは違うのだけれど。
まもりはこっそりと目の前の男を盗み見る。
常に人よりも一つも二つも上の視点を持ち、様々な事柄に対処するその手腕は、ほんの数週間共にいただけでも常人とはかけ離れている、とまもりも感じた。
それと同時に、彼の傍らにあることがどれほど大変なことなのかも。
彼は賢く、その頭脳を生かすだけの行動力も体力もあった。
そして目的以外のところに意識を向けるような、無駄なことは一切しない。
そう、例えば。
隣にいる、私の気持ち、などには・・・―――――何も。
「・・・なんだ、その顔」
「え? ど、どんな顔してた?」
「面白ェツラしてたぜ」
ケケケ、と笑われてまもりはむっと唇を尖らせたが、すぐにそれを解いて手元の本に視線を落とす。
その目が僅かに淀んでいるのを見逃さない彼ではなかったが、結局それについては言及しなかった。
夜は嫌いだ。
昼間は忙しさに何も考えられず過ごすことが出来る。
だが、夜一人でベッドに入ると途端に言い知れぬ恐怖を覚える。
まもりはベッドから起き上がり、窓の外を眺める。
幾多の明かりが瞬いて、星空を見下ろすかのような不思議な感覚。
明かりのない室内で、煌々と地表ばかりが明るい。
本来はその一つで生活する一人であるはずの、自分がこんなところにいて。
たかだか一ヶ月の契約にこんなにも心乱されている。
こんな感覚、今まで知らなかった。
・・・出来ることなら、このまま知らないままでありたかった。
朝が来るのが怖い、なんて。
この日々が終わるのが惜しい、なんて。
<続>
移動は全て運転手付きの車だが、その中でも読む本が課せられていたり、覚えることが沢山あったり。
時間が足りない、というのは嘘ではなかった。
目まぐるしくて慌ただしくて、それでもまもりは音を上げなかった。
負けず嫌いな性格も幸いした。そして学べば学ぶほど、色々なことが判って来る。
経済の流れ、世界の視点。本物を見抜く目、パソコンにフォーマルマナー。
まるでスポンジが水を吸収するようにどんどん知識を吸収していく。
不本意な状況から始まったのに、毎日が楽しくて仕方ない。
生きるために仕事をして糧を得る今までの生活がつまらなかった訳じゃない。
でも、視界が開けていく楽しさは何にも代え難い。
深い知識は外見と相俟ってその美しさを更に引き出していくということに、まもりは気づいていなかったけれど。
歩き方一つにしても、プロが教えると違うものだ。
ぐ、と背筋を正されてまもりは意識して立つ。
「意識を持って歩くと違うんですよ。特に隣に立つ人を思えば尚更」
はきはきとした女性講師の声に、まもりは隣に立つヒル魔の姿を思い出す。
あの時の彼の手、腕、声。
触れた暖かさに彼も人なのだと思えて。
「・・・っ」
思わず息を詰めてしまう。
「呼吸はリラックスしてくださいね」
すかさず注意を受けて、まもりは苦笑を浮かべた。
意外にがっしりした腕だった。あの腕で抱きしめられたら、どんな心地だろうか。
そんなことを思ってしまって、ぎくしゃくと歩いてしまう。
「落ち着いて! 意識しすぎても駄目です」
「はい・・・」
ぼんやりと返答したまもりは自分の考えを自分で否定した。
ヒル魔はまもりにそんな関係を求めていない。
彼が求めるのは、完璧な婚約者という存在だけ。
まもり自身の存在などどうでもいいに違いない。
その証拠に、彼はまもりに性的な意味合いを含んで触れてこない。
きっと自分にそんな魅力がないのだろうし、彼もまもりにそれを望んではいないのだろう。
残念ながら。
・・・残念? 誰が?
「姉崎さん?」
講師に呼ばれ、まもりはびくりと肩を震わせた。
「大丈夫? 疲れた?」
「・・・いえ、すみません。少し考え事をしてしまったので・・・もう大丈夫です」
「そう? じゃあもう一回歩いてみましょうか」
「はい」
まもりは背筋を伸ばし、すっと足を前に出した。
ヒル魔がまもりに手出ししないのなら、それは好都合ではないか。
たった一晩婚約者のフリをする、ただそれだけで三千万円もの現金が手にはいるのだから。
余計なことを考えないように、まもりは全身に神経を張り巡らせた。
「妖一さん、コーヒー飲む?」
「ん」
名前も呼び慣れた。
二人でいるときは大概何かしら作業をしているのが普通で、その間コーヒーは欠かせない。
その都度ルームサービスを頼むのも面倒だ、というヒル魔の声により、スウィートルームにふさわしいコーヒーメーカーが鎮座するようになった。操作するのはまもりだ。
当初、ほぼ自動的に動くはずのコーヒーメーカーでとんでもない味のコーヒーを作り出し、ある意味芸術だと嫌味を言われたまもりは躍起になって操作を覚えた、というのは蛇足。
「はい」
「ああ」
彼にはブラックを、まもり自身は砂糖とミルクをたっぷり入れたカフェオレを。
それぞれ手にして、午後の一時を過ごす。
手にしているのはそれぞれ書類やら書籍やらでのんびりとした雰囲気とは違うのだけれど。
まもりはこっそりと目の前の男を盗み見る。
常に人よりも一つも二つも上の視点を持ち、様々な事柄に対処するその手腕は、ほんの数週間共にいただけでも常人とはかけ離れている、とまもりも感じた。
それと同時に、彼の傍らにあることがどれほど大変なことなのかも。
彼は賢く、その頭脳を生かすだけの行動力も体力もあった。
そして目的以外のところに意識を向けるような、無駄なことは一切しない。
そう、例えば。
隣にいる、私の気持ち、などには・・・―――――何も。
「・・・なんだ、その顔」
「え? ど、どんな顔してた?」
「面白ェツラしてたぜ」
ケケケ、と笑われてまもりはむっと唇を尖らせたが、すぐにそれを解いて手元の本に視線を落とす。
その目が僅かに淀んでいるのを見逃さない彼ではなかったが、結局それについては言及しなかった。
夜は嫌いだ。
昼間は忙しさに何も考えられず過ごすことが出来る。
だが、夜一人でベッドに入ると途端に言い知れぬ恐怖を覚える。
まもりはベッドから起き上がり、窓の外を眺める。
幾多の明かりが瞬いて、星空を見下ろすかのような不思議な感覚。
明かりのない室内で、煌々と地表ばかりが明るい。
本来はその一つで生活する一人であるはずの、自分がこんなところにいて。
たかだか一ヶ月の契約にこんなにも心乱されている。
こんな感覚、今まで知らなかった。
・・・出来ることなら、このまま知らないままでありたかった。
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この日々が終わるのが惜しい、なんて。
<続>
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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