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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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長編連載『カワイイヒト』/7

(ヒルまもパロ)
※20000HITお礼企画

+ + + + + + + + + +
会場となったホテルは、ヒル魔が生活する場所とはまた違った雰囲気だった。
こちらは歴史を重んじる堅牢な印象が強い。相当な時を感じさせる重厚な造りのドアをくぐり抜ける。
ヒル魔の腕にごく自然に身体を預けて、ゆったりとした足取りで歩く様に誰もがうっとりと見とれる。
一ヶ月前には場末の客引きをしていたと誰が想像できるだろうか。
「・・・すごく視線を感じるんですけど・・・」
「そりゃ俺の婚約者だからな」
囁きが辺りに犇めく。
(あれが噂の蛭魔妖一)
(隣は婚約者だそうだ)
(どこの女性だ)
(見たことないわ。下々の者じゃないの)
(見かけ倒しだろう)
(きっと偽物だよ。すぐぼろが出る)
どれもこれも、悪意に満ちた気配がする。
「・・・・・・気分が悪いわ」
「お前の悪口じゃねぇ。気にするな」
「妖一さんは大丈夫なの?」
「誰に言ってる」
にやりと笑われて、まもりは苦笑する。
「それもそうね」
そこに張りのある男の声が飛び込んできた。
『やあやあヒル魔! よく来てくれたな!』
滑らかな英語に顔を向けると、そこには体格のいい白人男性がいた。口には葉巻をくわえていて、歓迎の言葉の割に視線が蔑んだものだ。
『こちらこそお招き下さってありがとうございます、アポロさん』
同じように滑らかな英語でヒル魔が応え、握手を交わす。
『そちらの女性は?』
『彼女は私の婚約者の姉崎まもりです』
『初めまして。姉崎と申します。お会いできて光栄です』
す、と儀礼に則った挨拶をするまもりに彼は一瞥するだけで視線を余所に向けた。
『今宵は私の会社の創立20周年記念式典でね。各界の著名人にも数多く来て頂いている』
一見しただけで見覚えのある著名人や有名人がそこかしこにいるのがよく判る。
まもりは失礼にならない程度に周囲を見渡した。
『末席を温める私にもお声を掛けて下さって、さすがにアポロさんは懐が深い』
『そりゃあありがとう。せいぜい楽しんでいってくれたまえ。では』
ヒル魔の褒め言葉にも感情の籠もらない答えを返して、彼はさっさと人の中に紛れてしまった。
「・・・本当に会合なの? 気分が悪くなったんですけど」
かなり気分を害したまもりは、笑顔だけはそのままにこっそりとヒル魔に声を掛ける。
ヒル魔も笑みを絶やさず、低い声で返す。
「いいから黙ってろ。俺から離れるんじゃねぇぞ」
「はい」
肩をすくめ、会場の奥へと進む。
一際背の高い男性がこちらへと近づいてきた。近くに来れば来る程その高さがよく判る。
眼鏡をかけた柔和な男性は、親しげにヒル魔たちへ挨拶する。
「やあヒル魔、よく来てくれたな」
「おう」
「まさか本当にその格好で来るとは思わなかったよ・・・」
まじまじとヒル魔を眺めて、彼はどうしても歪む口元を手で覆っている。
「仕方ねぇだろ、とりあえず入り込めりゃいいんだから」
「いやー・・・しかもちゃんと婚約者まで、ねえ」
彼は内情を全て知っているようだ。まもりは控えめに挨拶する。
「初めまして。姉崎まもりと申します」
「初めまして。僕は高見伊知郎。あの―――」
す、と彼が視線を送った先にはアポロの姿。
「彼が経営する企業の一つで働いている。ヒラ社員だよ」
「ケケケ、ただのヒラがこんなとこに来るか」
「現状はそうだって」
「で、首尾は」
「ほぼ全て。君が婚約者を連れてきたことで、もう完璧と言っていい」
「それは重畳」
二人の眼鏡の下にある双眸が暗い色を放つ。
そのいかにも悪巧み、という風情にまもりは一歩引くが、ヒル魔の手がそれを許さない。
「おっと逃げるなよ」
「そうそう。最後まで付き合って貰わないとね」
「ええ・・・!?」
まもりは今更ながらに、この婚約者の意味を再度確認したい気持ちになった。

パーティーはまもりの心配を余所に大盛況。
主催者のアポロも満足したように笑みを絶やさず人々と笑いあっている。
しかしその最中に、誰かがアポロへと耳打ちした。
すーっと彼の顔色が青ざめていく。
『な、なんでそんなことになってるんだ!? アメリカの方はどうした?!』
『わかりません! 今、情報が錯綜して・・・』
周囲の視線を忘れ、彼は声を荒げる。彼が覗き込んだのは周囲の人間が用意したパソコンの画面。
『なんで株価がこんな・・・』
『市場に情報が漏れて・・・』
切れ切れに聞こえる声。その内容。
ここ数日、いやもしかしたらそれよりもずっと前からヒル魔が掛かりきりだった書面。
そしてパソコンに打ち込まれていた数字の羅列。
すべてが符合して、まもりは隣の男を見た。
まさか。彼はまもりの視線にもにやりと口元を歪めただけで何も言わない。
『誰の仕業だ!?』
『まさか・・・貴様の仕業か、蛭魔妖一!』
『そんなまさか。私は今ここでこうして―――』
すい、とヒル魔はまもりの腰を抱いた。滑らかにその脚がすっと動く。
『愛しい婚約者とただパーティーを楽しんでいたのに、なにを根拠にそのようなことを仰いますか?』
実際、彼は今の今までこの場所にいて、美しい婚約者の姿は常にその隣にあって、誰もが彼らの所在を保証できた。パソコンや携帯電話をいじるようなあからさまな動きは一つとしてなかった。
『じゃあ、誰なんだ・・・』
犯人捜しに躍起になるアポロに、別の側近が駆け寄った。傍らに高見を従えている。
『社長、このままでは全体に影響が出てしまいます』
『判っている! だが、どうしろと言うんだ!』
『今この場で、あの部署が原因であると表明し、釈明すべきです』
『あの不良部門をか? だがそんな小手先の言い逃れでどうにかなるものか』
『いえ、その責任は高見に追わせます。彼はあの部署の責任者ですから』
沈痛な表情で俯く高見を、アポロはハン、と鼻で笑った。
『あの程度の小規模部署程度が全体まで波及したとは考えづらい。他に原因はないのか』
しかし側近も引き下がらない。
『では他に釈明を要する程の不安材料がおありですか』
『それを今考えている・・・』
しかしパソコンの画面では株価が刻一刻と悪化の一途を辿っているのがありありと判る。
『・・・仕方ない』
しばしの沈黙の後、アポロは決断した。
『記者会見を開く! 部屋を用意しろ!!』
ざわめく人波をかき分け、アポロは数名の側近と共に移動していく。
「俺たちも行くぞ」
まもりもヒル魔と共に移動する。
途中で高見と視線が合うと、彼はまもりにだけ見えるように笑った。
それは腹の底から冷えるような、凍えるような笑みだった。

「ではアポロさん、その部署は事実上企業からの排出となるわけですね?!」
「責任のなすりつけではないか、との声も上がっておりますが、そこはどうお考えですか!?」
パーティーという華やかだった場所から一転、素っ気ない程の内装の場所には所狭しと記者団が詰めかけていた。
よくもまあ、と思う反面、一大企業の危機ともなれば食いつかないはずはないか、とも思う。
何しろ社員数だけ考えても相当な数だ。万が一潰れてしまえばどれほどの人が路頭に迷うか。
かといって、側近が言っていた不良部門である高見たちが切り離されたらその後はどうなるのだろう。
その部署で働く人たちは? 高見本人は?
しかもあの笑みは空恐ろしささえ感じさせた。
一体、何が目的なのか。
『・・・今この時を以て、責任者高見以下47名が所属する部署を廃止し、属する者たちは全て解雇とする』
それに周囲の人間がざわめく。高見は俯いたままだ。
突然の解雇に横暴だ、労働基準法に反する、と記者団から声が上がるが、アポロは首を振ってその場を後にする。高見も立ち上がり、記者団からの質問には答えず疲れたように段を下りる。
「テメーの一番の役目は」
視線を高見から放さず、ヒル魔が口を開いた。
「常に俺の側にいて、俺がいることを目立たせることだった」
それはどういうこと、と口を開きかけたが、タイミングを見計らったようにヒル魔の携帯が着信を告げる。
「ああ。・・・そうだ、全て買いだ」
にやりと笑う、その顔は悪魔のようで。次にヒル魔が電話した先にいくつか言葉を交わすと。
「後はそっちがちゃんと拾え」
短い指示だったが、まもりには判った。
「全部、仕組んでいたのね」
「当然」
平然とヒル魔は言い放つと、もうここに用はないとまもりの手を引いてその場を後にする。
引きずられるように連れられた先には見慣れた黒塗りの車。そこに押し込められる。
なにかを操作すると、運転席と後部座席の間に壁が生じた。どうやらこれで音声は外に漏れないらしい。
何度も乗り慣れた車なのに、こんな設備があることを今日初めて知った。
「高見はとある会社の三代目だった」
しばらくの沈黙の後、ヒル魔が語り出した。
「あいつは落ち目だったその会社を盛り立てようとして、逆に首を絞めた。そこにアポロだ」
「買いたたかれたのね」
「そう言うこった。会社は結局潰れ、社員は散り散りになった。そこまではまあよくある話だな」
だが、と言ってヒル魔は笑った。楽しげに。
「高見っつーのは狡くて諦め悪いヤツでな。アイツはこつこつ社員を呼び集めて会社復興を狙っていた。そのために俺まで利用しやがった」
「え・・・」
「社員の名義、アポロは気づいてなかったが、あの部署にいた奴らは高見の元の会社にいた奴らだ」
「そんな、それって外から見ればすぐ判るんじゃないの?」
「そこを俺が誤魔化したんだよ」
ぽん、とヒル魔は自分の腕を叩いた。
「名前なんてすぐ変えられる。方法はいくらでもある」
ましてや相手は大企業。いくつか部署を変遷していく途中で平社員の名前が変わってもトップは気が付かないだろうか。
「突然の解雇だからアポロの株価は急落して止まらないだろ。アイツの本拠地はアメリカだから日本じゃ元々素地が弱いだろ。そこに対抗企業が突然の解雇に打ちひしがれる何の罪もない社員たちを拾い上げた―――となったら、その会社の株価は鰻登りだよな? やがてアポロは日本から手を引くだろう。それも全てその会社の手の内に入る」
「その会社、は?」
「とある企業の一つで、名義は会長の娘のものになってるが、実質はその娘と結婚する男が握ることになっている。それが高見だ」
繋がった。
あの底冷えするような笑みは、全てを奪われた者から奪い返した者の、勝利の笑みか。
「手を貸したの?」
「まあ、昔からの知り合いだからな」
それにおかげさまで儲けさせてイタダキマシタ、と嘯く彼は酷く上機嫌だった。 

<続>
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