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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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長編連載『カワイイヒト』/9

(ヒルまもパロ)
※20000HITお礼企画

+ + + + + + + + + +
気持ちが悪い。
渦巻く吐き気に、まもりはゆっくりと目を開く。
窓のカーテンの隙間から陽光が細く差し込み、その明るさに朝だと感じた。
寝ているのに揺れているような視界の悪さに一瞬何だろうか、と思う。
するりと肌を滑り落ちるシーツ。見れば何も衣服を纏っていない自分。
そして、隣から聞こえてきた寝息に、たちまち体を強ばらせた。
そうだ。
自分は、昨日、ヒル魔と。
唐突に吐き気が酷くなり、まもりはなりふり構わずトイレへと駆け込む。
胃の中身を全て吐き出し、水で口をすすいでふと顔を上げると、そこには酷い顔のまもりがいた。
泣きはらした目は腫れぼったく、充血している。顔色は白いと言うよりは青くなり、目の下のクマも酷い。
かさついた唇は白くささくれている。
首筋にははっきりとした歯形が残り、見下ろせばそれは身体全体に余すところなく傷となって残っている。
赤く鬱血した跡の多いこと。
まもりは自分が一糸も纏わない姿であることよりもこの現状に打ちひしがれ、冷たい洗面台の床に座り込む。
なんで。
どうして。
彼はなんで突然、こんなことを。
契約書の文言には確かに婚約者のフリをすること、それに尽きる言葉が連なっていたけれど、身体の関係までに至るとは思っていなかった。
いや。
思っていなかったというのは嘘だ。いつかこうなるかもしれない、と思いながらここまで来た。
結局最後まで手出しされなかったから、彼はこういったことに興味がないか、あっても自分には食指が動かないかのどちらかだと思っていた。
それがこんな結果になった。

自分は安い商売女だった。それがほんの一ヶ月夢を見せて貰っていただけだった。

・・・・・・契約は、昨日までだった。早く、ここから出なければ。
まもりは重い身体を引きずると、のろのろと動き出す。
先ほどまでいた寝室へと足を向けるのは躊躇われ、クローゼットへと足を向ける。
そこにはまもりが今まで着せられていた洋服が並んでいた。
全てクリーニングに出され、整然と並んでいる。
もうこのどれもがまもりの物ではない。
ただこのままでは当然外に出るわけにもいかず、まもりは一枚だけワンピースを取りだした。
それは最初にセレクトショップから戻ってくるときに着た、花柄のもの。
ワンピースにカーディガンを羽織り、パンプスに足を入れる。
必要最小限の、それこそ免許証などが入った鞄を手に取ると、まもりは覚束ない足取りで外へと向かう。
ヒル魔の姿を見ることが怖かった。
彼が目を覚まし、どんな顔をするにしても、受け止める自信がなかった。

ドアマンたちは、憔悴した様子のまもりに驚いたものの、客のプライベートに踏みいるべきではないとそっと扉を開く。
外に出て、まもりは手元の現金を確かめた。
ヒル魔からは現金を持たされることがなかった。
どこに行くにしても車で送迎だったし、現金を必要とする場面に出会わなかった。
だからこれは、元からまもりの財布に入っていたなけなしの金。現在の全財産と言っても過言ではない。
このホテルからセナがいるという孟蓮宗までは結構ある。タクシーに乗るには金額が足りない。
仕方なくバスを探すために歩こうと足を踏み出したところで、隣にすっと車が止まった。
「おはようございます、姉崎様。どちらに行かれますか?」
そこには連日まもりを送迎していた男がいた。確か名を三宅と言ったはずだ。
「え・・・ええ、今日の送迎はないわ。私、家に帰るの」
「左様ですか。お送り致しますよ。どうぞ、お乗り下さい」
「いえ、いいわ。悪いし」
「失礼ですが、お顔色もよろしくないようですし・・・体調が芳しくないのであればお乗り頂いた方がいいですよ」
至極控えめに、こちらを気遣う彼にまもりは迷う。
確かに財布にはお金はないし、バス停があるだろうホテルの敷地外まで出るのも結構遠い。
ただ、今は一人になりたかった。誰とも話をしたくなかった。
「やっぱりいいわ。私、歩きたいの」
ごめんなさいね、そう微笑んでまもりは歩き出す。
一刻も早くこの場を去りたくて、まもりは譫言のように行かなきゃ、と口にして歩こうとするが。
「って、そう簡単に行かせるわけないでしょ」
背後から伸びてきた腕が、まもりの身体を引き寄せた。
無理な力の加減に、細い悲鳴が上がる。
「や・・・!!」
「せっかく掴んだヒル魔の弱みだ、逃がさねぇよ・・・!」
まもりは必死で抵抗するが、男の力には敵わない。
しかも昨日ヒル魔によって滅茶苦茶に抱かれた身体は疲弊していて、満足に抵抗もしきれない。
「いやぁ・・・!」
なんでこんなことに。
昨日の夜からずっと脳裏で繰り返す疑問が延々と渦巻いてまもりの心臓を押しつぶしそうだ。
「放して!!」
「こっの・・・早く入れ・・・!」
ずるずると引きずられる。
つい昨日までは心地よくまもりを誘った車の後部座席が、とてつもなく恐ろしい場所に感じる。
助けて。
誰か。
誰か。
まもりの口は無意識のうちに彼の名を呼ぶ。
「妖一さん・・・・っ!!」
その瞬間、何かが弾ける音。
そして次に目に入ったのは、拳銃を片手に無表情でこちらを見ているヒル魔の姿。
三宅もまもりも、そのままの姿で静止してしまう。
「・・・いつまで掴んでいる」
「あ・・・」
三宅の手は未だまもりの腕に食い込んでいる。三宅は慌てて手を放した、その瞬間。
「ッ!!」
「どーにもテメェは小せぇ野郎だ」
その細い身体のどこにそんな力が、と尋ねたくなる勢いでヒル魔は三宅を殴った。
三宅がもんどり打って車のフロントに頭を打ち付ける。
「でもまぁ・・・こいつが逃げ出すのを止めた、というので命だけは助けてやろう」
にたり、と笑みを浮かべ、痛みに呻く男の襟首を掴み、ぐいと持ち上げる。
その顎にぐり、と拳銃が突きつけられる。
「さあ、選べ。腕か、足か。どっちか一本で許してやろう」
「ヒィ・・・」
「選べ。腕か、足か。・・・ああ、死にたいっつーんなら、頭でもいいぜ? 一発でイけるかは甚だ疑問だがな」
ぶるぶると恐怖に震える男に更に銃口を押しつける。
ヒル魔の顔に浮かんだ笑みは酷薄で、まさに悪魔のようだ。
「答えねぇなら・・・」
その脳天に銃口を向け、引き金を引こうとしたとき。
「やめて・・・っ」
柔らかい腕がヒル魔の腰に縋りつく。まもりだ。
「お願い、やめて! そんなことしないでッ!!」
ぼろぼろと涙をこぼしながら懇願するまもりを、ヒル魔は一瞥する。
そうして、急に興味を失った、と言わんばかりに三宅を地面に投げる。
「がっ・・・」
一度その腹を痛烈に蹴り上げると、興味を失ったようにヒル魔は三宅を見下ろす。
「さっさと消えろ。まあ、どこに行ったってテメェが安穏とした人生送れるなんざ思わねぇほうがいいがな?」
言い捨てて、ヒル魔はまもりに腕を伸ばした。
恐怖に強ばっている彼女を抱きしめると、その耳元で低く囁く。
「どこに行く気だった」
「だ、だって・・・」
「とりあえず部屋に戻るぞ。話はそれからだ」
言うなりまもりを抱え上げ、ヒル魔はさっさとホテルへと戻る。
昨日からずっと混乱し続けているまもりは、それでもヒル魔の腕の暖かさに安堵する自分を覚えて、悄然と頭を落とした。 

<続>
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