旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
俺はまあ、なんだ。
あまり人のことに口出すのは得意じゃない。
そりゃあ試合の時くらいは多少口に出すし、説教じみたことを言うが、それだって目の前の男に比べりゃ極少と言ってもいい。
それにしても、ちょっとやりすぎなんじゃないかな、とさすがの俺でも思ったわけだ。
だからわざわざ皆が帰った後にも居残り、二人きりになったところで重い口を開いた。
「ヒル魔、いい加減にした方がいいぞ」
「ア?」
俺は姉崎が淹れていったコーヒーを啜りながら、目の前で不機嫌にパソコンを叩くヒル魔を眺めている。
その隣には同じように置かれたカップ。柔らかい湯気を立てるそれはほんの少し前に淹れられた。
俺にはごく普通に差し出したそれを、ヒル魔のところには幽かに震えた指で置いたのを俺はちゃんと見た。
姉崎は、ヒル魔に惚れている。
それは今更俺が騒ぎ立てる程のことじゃないし、俺が判ってるんだからヒル魔も判ってるんだろう。
しかも質が悪いことに、ヒル魔はどうにも自分から言う気がないらしい。
恋愛主導権は惚れられた方が握る、という風に思いこんでるんだろうか。
馬鹿馬鹿しい。惚れたはれたに主導権も何もあるか。
俺がコーヒーを飲みつつもじっとヒル魔を眺め続けていたら、ようやくヒル魔がこちらを向いた。
判りやすい程の不機嫌さを滲ませた顔。
これは俺が話しかけて続きを口にしないからじゃない。
姉崎がヒル魔を意識している。そのくせ、何もしてこないからだ。
ヒル魔はこちらが見ていて可笑しくなるくらい、姉崎に本音を言わせようと色々しかけている。
日中はわざわざ教室や廊下で話しかけたり、部活中も過剰な程に近寄ってみたり。
足音を立てずに動くヒル魔にとって背後を取ることなんて簡単なんだろう。
その都度姉崎は平静を装いながらそれはそれは引きつった笑みを浮かべるのだ。
あれじゃ本人も周囲も嫌がらせだとしか思えないだろう。
惚れられているうちならいいが、嫌われてみろ。目も当てられない。
小学生かお前は。
何度そう口に出そうになったか。
「お前のやり方じゃ姉崎に通じんぞ」
「何が。寝ぼけてんのか糞ジジィ」
判っているくせに素直じゃないヒル魔に、俺は嘆息する。
意地なんて張ったところでいいことなどないのに。
「あんまり素直じゃないと、逃げられるぞ」
「そりゃ忠告のつもりか」
ケ、とつまらなそうに言うヒル魔に俺だってこんなこと言うつもりはなかったんだが、と断りを入れる。
「お前が変なことを画策するから、姉崎も言いづらいんだろうが」
「俺がまともなことをわざわざ画策するわけねぇだろうが」
「論点をずらすな」
このままじゃ埒があかねえな。俺は最後の一口を飲み干すと、カップを手に立ち上がった。
ヒル魔のカップの中身もきれいになくなっている。ついでにヒル魔のカップも洗ってやろう。
「人に好意を向けられているうちが花だぞ」
「いい加減煩ェ」
結局忠告にもならないか。俺は諦めて身支度を調え、荷物を持ち上げる。
そして部室の扉を開け、外に出ようとして、そこで足を止める。
予想外の人影だった。だが幸い、ヒル魔は気づいていないようだ。
「ヒル魔、一つだけ聞きたいんだが」
「アァ?」
「お前、姉崎のことどう思ってるんだ」
「糞労働力」
アイツはパソコンから顔を上げずにすっぱりと言い捨てた。
「・・・だそうだ、姉崎。やっぱりアイツはやめて俺にしておけ」
「ッ!?」
ヒル魔がやっとこちらに視線を向けた。
俺の影にひっそりと立つ、姉崎の姿。
俺は身体をかがめ、悄然とうなだれる姉崎の耳元に唇を寄せて素早く囁く。
(今のは冗談だ。ヒル魔をはめるぞ。黙って俯いてろ)
姉崎は無言で一度頷いた。
「―――――な、にやってやがる糞ジジイ!!」
「ん? お前は何焦ってるんだ。姉崎はお前に取っちゃただの労働力だろう?」
唸るヒル魔を置いて俺は姉崎に言う。
「行くか」
こくりと頷く姉崎の手を取った途端。
「待ちやがれ!!」
立ち上がってこちらにやってきたヒル魔に、俺はヤツがよくやるような顔をしてやった。
いわゆる、悪人の顔を。
お前は惚れられているという事実に勝った気になってるが、横から獲物を浚われるなんてよくある話だろうに。
今更思い知ったか、という顔で。
「待つ必要はないな」
「俺にはあるんだよ!」
「ん? 何がだ?」
「来い、糞マネ!!」
姉崎の手を俺から奪い取ると、ヒル魔は俺を部室から追い出し、姉崎共々部室へと閉じこもった。
ここまでお膳立てしてやったんだ、ちゃんと言えよ、ヒル魔。
いい女といい仲になりたいのなら、女に言わせるようじゃ駄目だと、俺は幾度と無く言われた。
最初に口火を切るのが男の役目だと、俺よりもずっと年を重ねた仕事場の男たちの言葉。
男の方が欲しがって求めて、そうしていつか別れるときには悪者になれるようじゃなければ、と。
・・・まあ、語れる程俺も場数踏んでるわけじゃねぇんだけどな。
のんびり歩いて帰る俺の携帯がメールの着信を告げる。
ありがとう、という律儀な姉崎の一文に、俺は喉で笑った。
明日はヒル魔を存分にからかってやろう、そう考えながら。
***
砂月様キリリク『まもりが自分のことを好きだと知っている上で、まもりから言わせ(告らせ)ようと嬉々として画策するも、予想外の展開で、自分から言わざるを得なくなるヒル魔』でした。きっとご希望頂いたのはこういうのじゃないとは思うのですが、どうにもこうにも書けなくて散々考えたのですがこんな代物になってしまいました(涙)第三者視点である必要は全くないんですが、どちらの視点でも行き詰まってしまいまして。ムサシが出てきたら一気に書けたので突っ走ってしまいました。申し訳ありません!
リクエストありがとうございましたー!!
砂月様のみお持ち帰り可。
あまり人のことに口出すのは得意じゃない。
そりゃあ試合の時くらいは多少口に出すし、説教じみたことを言うが、それだって目の前の男に比べりゃ極少と言ってもいい。
それにしても、ちょっとやりすぎなんじゃないかな、とさすがの俺でも思ったわけだ。
だからわざわざ皆が帰った後にも居残り、二人きりになったところで重い口を開いた。
「ヒル魔、いい加減にした方がいいぞ」
「ア?」
俺は姉崎が淹れていったコーヒーを啜りながら、目の前で不機嫌にパソコンを叩くヒル魔を眺めている。
その隣には同じように置かれたカップ。柔らかい湯気を立てるそれはほんの少し前に淹れられた。
俺にはごく普通に差し出したそれを、ヒル魔のところには幽かに震えた指で置いたのを俺はちゃんと見た。
姉崎は、ヒル魔に惚れている。
それは今更俺が騒ぎ立てる程のことじゃないし、俺が判ってるんだからヒル魔も判ってるんだろう。
しかも質が悪いことに、ヒル魔はどうにも自分から言う気がないらしい。
恋愛主導権は惚れられた方が握る、という風に思いこんでるんだろうか。
馬鹿馬鹿しい。惚れたはれたに主導権も何もあるか。
俺がコーヒーを飲みつつもじっとヒル魔を眺め続けていたら、ようやくヒル魔がこちらを向いた。
判りやすい程の不機嫌さを滲ませた顔。
これは俺が話しかけて続きを口にしないからじゃない。
姉崎がヒル魔を意識している。そのくせ、何もしてこないからだ。
ヒル魔はこちらが見ていて可笑しくなるくらい、姉崎に本音を言わせようと色々しかけている。
日中はわざわざ教室や廊下で話しかけたり、部活中も過剰な程に近寄ってみたり。
足音を立てずに動くヒル魔にとって背後を取ることなんて簡単なんだろう。
その都度姉崎は平静を装いながらそれはそれは引きつった笑みを浮かべるのだ。
あれじゃ本人も周囲も嫌がらせだとしか思えないだろう。
惚れられているうちならいいが、嫌われてみろ。目も当てられない。
小学生かお前は。
何度そう口に出そうになったか。
「お前のやり方じゃ姉崎に通じんぞ」
「何が。寝ぼけてんのか糞ジジィ」
判っているくせに素直じゃないヒル魔に、俺は嘆息する。
意地なんて張ったところでいいことなどないのに。
「あんまり素直じゃないと、逃げられるぞ」
「そりゃ忠告のつもりか」
ケ、とつまらなそうに言うヒル魔に俺だってこんなこと言うつもりはなかったんだが、と断りを入れる。
「お前が変なことを画策するから、姉崎も言いづらいんだろうが」
「俺がまともなことをわざわざ画策するわけねぇだろうが」
「論点をずらすな」
このままじゃ埒があかねえな。俺は最後の一口を飲み干すと、カップを手に立ち上がった。
ヒル魔のカップの中身もきれいになくなっている。ついでにヒル魔のカップも洗ってやろう。
「人に好意を向けられているうちが花だぞ」
「いい加減煩ェ」
結局忠告にもならないか。俺は諦めて身支度を調え、荷物を持ち上げる。
そして部室の扉を開け、外に出ようとして、そこで足を止める。
予想外の人影だった。だが幸い、ヒル魔は気づいていないようだ。
「ヒル魔、一つだけ聞きたいんだが」
「アァ?」
「お前、姉崎のことどう思ってるんだ」
「糞労働力」
アイツはパソコンから顔を上げずにすっぱりと言い捨てた。
「・・・だそうだ、姉崎。やっぱりアイツはやめて俺にしておけ」
「ッ!?」
ヒル魔がやっとこちらに視線を向けた。
俺の影にひっそりと立つ、姉崎の姿。
俺は身体をかがめ、悄然とうなだれる姉崎の耳元に唇を寄せて素早く囁く。
(今のは冗談だ。ヒル魔をはめるぞ。黙って俯いてろ)
姉崎は無言で一度頷いた。
「―――――な、にやってやがる糞ジジイ!!」
「ん? お前は何焦ってるんだ。姉崎はお前に取っちゃただの労働力だろう?」
唸るヒル魔を置いて俺は姉崎に言う。
「行くか」
こくりと頷く姉崎の手を取った途端。
「待ちやがれ!!」
立ち上がってこちらにやってきたヒル魔に、俺はヤツがよくやるような顔をしてやった。
いわゆる、悪人の顔を。
お前は惚れられているという事実に勝った気になってるが、横から獲物を浚われるなんてよくある話だろうに。
今更思い知ったか、という顔で。
「待つ必要はないな」
「俺にはあるんだよ!」
「ん? 何がだ?」
「来い、糞マネ!!」
姉崎の手を俺から奪い取ると、ヒル魔は俺を部室から追い出し、姉崎共々部室へと閉じこもった。
ここまでお膳立てしてやったんだ、ちゃんと言えよ、ヒル魔。
いい女といい仲になりたいのなら、女に言わせるようじゃ駄目だと、俺は幾度と無く言われた。
最初に口火を切るのが男の役目だと、俺よりもずっと年を重ねた仕事場の男たちの言葉。
男の方が欲しがって求めて、そうしていつか別れるときには悪者になれるようじゃなければ、と。
・・・まあ、語れる程俺も場数踏んでるわけじゃねぇんだけどな。
のんびり歩いて帰る俺の携帯がメールの着信を告げる。
ありがとう、という律儀な姉崎の一文に、俺は喉で笑った。
明日はヒル魔を存分にからかってやろう、そう考えながら。
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砂月様キリリク『まもりが自分のことを好きだと知っている上で、まもりから言わせ(告らせ)ようと嬉々として画策するも、予想外の展開で、自分から言わざるを得なくなるヒル魔』でした。きっとご希望頂いたのはこういうのじゃないとは思うのですが、どうにもこうにも書けなくて散々考えたのですがこんな代物になってしまいました(涙)第三者視点である必要は全くないんですが、どちらの視点でも行き詰まってしまいまして。ムサシが出てきたら一気に書けたので突っ走ってしまいました。申し訳ありません!
リクエストありがとうございましたー!!
砂月様のみお持ち帰り可。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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