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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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仏頂面な彼女

(軍隊上司ヒル魔とその副官まもり)
※15000HITお礼企画作品
※3/29アップ『いざ、戦場へ』の続きにあたります。

+ + + + + + + + + +
漆黒の軍服は、ヒル魔の趣味に合った。
だから軍人になったのだ、と聞いたとき、まもりはバカじゃないのかこの男、と遠慮無く思ったものだった。
その一方でだからこの隊に手を出したのか、とも。
見た目に拘って戦う気がないのなら、この隊はうってつけといえた。
なにしろこの隊はやる気の欠片もない者たちの吹きだまり。
戦うには気弱すぎたり虚弱だったり取り柄がない者たちが集まって、傷をなめ合う部隊なのだ。 
そのためにまもりはどちらかといえば同情でその名を貸して、隊を自分の配下としていたが、はっきり言って期待などかけらも抱いたことはなかった。
ところがこの男がある日唐突に中佐としてやって来て、この一個小隊に目を付け、なぜか隊長となり直属の部隊として、今までろくにしなかった練習なども熱心に行っているようだ。
他にもいくつか隊があった中で、わざわざここを選んだ理由は未だ謎。
それからまもりの周囲は激変し、今では彼の副官として隣に立つようになってしまった。 

両手に大量の本を積み上げて、まもりは廊下を歩いていた。
前が見えない程の量の本の向こう側から、聞きたくない声が聞こえてきた。
「大佐はどちらにご用事デスカ」
「貴方には関係ないでしょう」
「オヤ? 上司は部下の行動くらい把握してないとおかしいデショウ?」
まもりのこめかみに血管が浮く。
売り言葉に買い言葉で彼の元に配属してしまった自分の軽率な行動に臍をかむがもう後の祭り。 
「・・・書庫に本を置きに行くだけです!」
「ふーん」
「で、なんで着いてくるの!」
「着いてこられちゃいけない理由でも?」
言いながらまもりの手から山積みの本を取り上げる。
軽々と持たれて、実際には重くてやっぱり二回に分けて行けば良かった、と後悔していたのを見透かされたようでますます気分が悪くなる。
「お忙しいんでしょう? 纏める書類も演習もそれこそ山のようなのではありませんこと?」
「ご心配いただき誠にアリガトウゴザイマス。ですが配下には自己研鑽に努めるよう通達致しましたので問題ゴザイマセン」
嫌な相手にこそ丁寧に柔らかく対応する癖があるまもりの更に上を行く柔らかい言葉。
そのくせ感情が籠もらない、上っ面だけの言葉。
まもりの眉間に皺が寄った。
「一体何が目的なの?」
「ア?」
スタスタと結構な早さで二人は廊下を進んでいく。
「あんな軍隊としては中途半端な位置の隊を選んで上に立つ、その気持ちが全く理解できないのよ、私」
「そりゃあ出来ねぇだろうな」
小馬鹿にされて、まもりはキッと隣を睨め付ける。
しかしまもり以上に冷徹な眸に迎え撃たれ、思わず歩みを止めてしまう。
「人は使うヤツ次第だ。あいつらを中途半端っつーんなら、テメェの使い方が悪いんだよ」
「なっ・・・!」
たどり着いた書庫の扉を蹴り開け、ヒル魔はぐるりと本棚を見渡した。
手にしていた本を一瞥すると、迷うことなく進む。
かなり広大な書庫なのに、彼は全く躊躇わずさくさくと本を戻していく。
まもりが手出しする間もなく、全てが片づいてしまった。
「・・・ありがとうございます」
礼を言ったまもりに、ヒル魔の片眉がピンと上がる。
物言いたげな視線に、まもりは嫌そうに口を開いた。
「感謝したらお礼を言うのが当たり前でしょ」
「余計な世話、とは言わねぇんだな」
ケケケ、と笑う男は漆黒の軍服の裾を翻し、廊下を進んでいく。
金色の髪が開け放したままの風を受けてさらりと煌めいた。
「見ろ」
指し示された先には、模擬剣を手に組み手をする隊員たち。
やや手を抜いて見える者たちの足下に、短い破裂音が響き小さなくぼみができあがる。
彼らがばっと顔を上げると、そこには硝煙を上げる小銃を持つ隊長と、唖然としている副隊長。
にたりとヒル魔が笑うと、慌てて彼らは模擬剣を持ち直し、真剣に打ち合い始める。
「自分の部下に発砲するなんて!」
「あててねぇだろ」
「そういう問題じゃありません!!」
「視線が届いてる、っつーのは重要だ」
「は?」
小銃を懐にしまいながら、彼はスタスタと歩いていく。
歩みの早いヒル魔の後を、まもりは意地でついていく。
「見られてる意識があれば伸び方が違う」
「何を根拠に」
「テメェにだって見られたい、っつー意識は多少なりともあるだろうが。それを認められると意識が違うだろ」
「私にはないわよ」
「ホー?」
にやにやと笑う男の前で、まもりは化粧気のない顔で憮然と言い返す。
「この通り女を捨てた、根っからの名ばかり軍人ですから」
軍人として重要な立場に立つような人物でもない。
女としても華やいだ格好をすることもなければ、男に媚を売ったり、くだらないお喋りに興じることもない。
だからそれはお門違いだ、と暗に言い捨ててまもりは自分用にあてがわれた部屋へ向かおうとする。
「『目標地点の特徴的な地形である谷間を利用した作戦及び作戦実行に係る最少人数』か」
「!」
まもりの歩みがぴたりと止まる。
「なかなか面白いことを思いつく」
振り返れば、ヒル魔の手に分厚い冊子。
「・・・いつの間に・・・」
元々貴族である父親の推薦があって軍隊に入った、いわば七光り要素の強いまもりはその家柄だけで今の大佐、という地位を得ている。
彼女はまさに軍人とは名ばかりで、実質は書庫に籠もりきりの本の虫とも言える存在だった。
大佐という地位でありながら、重要な会議などに招集されることも、作戦を考えることも求められない。
けれど。
実はまもりは作戦を考えるのが好きだった。
季節・地形・天候等の情報を全て集め、それを分析して作戦を練る。
机上の空論としか思われない作戦もしばしば作った。
戦力さえ整えば実際に遂行は可能である、というものであっても、まもりには実行することはおろか、披露する機会すらない。
引き出しに書きためた、使われることのない作戦帳。
それでいいと思っていたし、誰もこれを見ることはないと思って作っていた作戦の数々。
けれどどこかで見られたいと、使って欲しいと願っていたのもまた事実。
まもりにとって、ヒル魔の言う『見られたいという意識』そのものを表したもの。
「使わなきゃ損だろ」
「机上論よ」
「それは俺が決めることだ」
ふふん、とヒル魔は不敵に笑う。
「今度の行軍、テメェは俺の隣に立て」
「え?!」
まもりは不信感も露わに驚く。なぜ文官であるまもりが武官であるヒル魔の隣にいなければならないのか。
「出来ねぇとは言わせねぇぞ。術師としても相当な腕前でいらっしゃるヨウデスカラネ」
まもりの目が見開かれる。それは誰も知らないはずのこと。
本来は特定の資格がないと扱えない『術』と呼ばれる力をまもりが生まれながらに扱えることは、ごくごく少数の人間しか知らない最重要機密なのに。
「だからどこから、そんな!」
「俺が知らないことはねぇ」
彼の素行の悪さの代名詞でもある脅迫手帳が取り出される。
「テメェの作戦が遂行されるのをその目で見ろ」
「え? だって、その作戦は・・・」
かなり有能な武官を集めて最少人数とした場合のもの。
はっきり言って、あの中途半端な部下たちでは話にならない。
「最少人数とはいかねぇがな」
背後から聞こえてくる喧噪は、今までの隊員たちにはなかった、必死な響きが含まれている。
「人は使いようだっつーのを見せてやろう」
再びにたりと笑ったヒル魔の、目ばかりが鋭く真剣にまもりを射った。

あちらこちらから白煙が立ち上る、戦場跡。
敵軍の裏を掻き、あり得ないと思われた場所から攻め込んだヒル魔たち一行はさしたる抵抗も受けず、あっという間に全てを制圧した。
「・・・すごい」
まもりはヒル魔の言うとおり、目の前で自分の作戦が遂行される様を彼の隣で見た。
中途半端で使いようがないと思っていた隊員たちはそれぞれの個性にあった戦い方を身につけ、己の役割を果たし、その結果優秀と言ってもいいくらいの一個隊となっていた。
「使いようだ、っつったろ」
ふふん、と勝ち誇ったように笑われて、まもりは苦々しく隣を見て―――目を見開く。
「死ねぇ!!」
隠れて隙を伺っていた敵の一人が、ヒル魔に向かって飛びかかってきた。至近距離の思わぬ襲撃に、誰もが咄嗟に反応できない。
「ヒル魔さん!!」
一番足が速い隊員のセナが突っ込むが、間に合わない。ヒル魔も咄嗟に振り上げた腕でどうにか防ごうとした瞬間。
「哈!!」
「ぐわっ!」
まもりの鋭い声と共に出現した光の壁に敵が吹き飛ばされる。
もんどり打って地面に叩きつけられた敵は、すぐさま他の隊員たちに取り押さえられた。
「今の・・・」
「『術』?」
「・・・副隊長って、お飾りじゃなかったのか・・・?」
呆然とする隊員たちの前で、まもりは渋い顔になる。
咄嗟にヒル魔を庇ってしまった。虫が好かない、と思っていたのに。
対照的に、ヒル魔はにやりと笑う。
「テメェは後方防御の要だな。これからは後方に就かせる」
「ちょ、ちょっと!? 何よ、私一人に後ろ全部任せるの?!」
「俺は前線に立つ」
「常識で物を言いなさいよ! 指揮官が前線に立ってどうするの!」
「前線部隊の指揮は俺が執る。テメェは作戦立ててんだし役職は大佐だから後方で全体指揮を執ってろ」
「えぇ?!」
驚き呆れるまもりに、ヒル魔はひたりと視線を当てた。
今まで向けられたどの場面でも見られなかった真摯な色合いに、まもりは口をつぐむ。
「俺の背後を預ける。しっかり守れよ、姉崎」
「―――――――――・・・」
その色は、信頼。
まもりは背筋をぴりりと走る感覚に忙しなく瞬きを繰り返す。
こんな風に、まもりを認める者はいままでいなかった。
親の七光りのお飾り大佐、と揶揄され続けたまもり自身の才能を見抜き、認め、そして背中を預けるとまで言った。
こんなのは知らない。
不思議と嬉しくて誇らしくて次も彼と共に戦地に赴くことに何の疑問も持たなくなるような、そんな感情。
――――――――なるほど、これなら皆が彼に傾倒するのも頷ける。
「これからは楽しくなるぞ?」
ケケケ、と笑う悪魔のような男の横で、まもりはじわじわと浮かんでくる笑みを噛み殺すのにしばし苦労した。


***
5/20 16:28 以前にも~様リクエスト『いざ、戦場へ続編』でした。
実はこのシリーズ、まもりちゃんが笑ってないんですよ。むっすー、としてとっつきにくい女軍人なのです。
大体片づけ手伝う段階でヒル魔さんじゃない気もするし、これはキャラの名を借りた完全別物ですね(苦笑) 
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