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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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混ざり合う記憶

(ヒルまも)

※15000HITお礼企画作品

+ + + + + + + + + +
まもりの目の前で、ヒル魔の顔が何ともいえない表情になる。
どぶろく先生が全財産を太陽高校に賭けた、と聞いたときみたいな顔。
見たことがあるその顔に、まもりは少なからずショックを受けた。
その一方では何その顔、とまもりはこんな時なのに笑いそうになってしまったけれど。
自分を強く見せ、そして意外に優しい性根を見せないために、作られた外見を歪めることは、ほとんど無い。
それくらい衝撃的な発言だったんだろうか。
それとも、まもりがそんな感情をよりによってヒル魔に抱いているなんて予想外だったんだろうか。
色々と言いつのりたいことがあったが、言葉で返事を貰うまではまもりは動く気はなかった。
「・・・俺のこの顔で察してるとは思うが」
しばらくの沈黙の後、まもりがそれでもじっと待っているのを見てヒル魔は渋々口を開いた。
「俺はテメェにそんな気持ちはねぇ」
「・・・そう。ありがとう」
その言葉が意外だったようで、ヒル魔はようやく不機嫌、というレベルまで戻した顔の眉をぴんと跳ね上げた。
「はっきり言って貰えてよかったわ」
「変に断らないことで妄想強く粘られちゃたまったもんじゃねぇからな」
肩をすくめる彼に、まもりは柔らかく笑った。
「大丈夫よ」
ナニガ、と問う声には答えず、まもりは踵を返す。


それから、まもりは部活に顔を出さなくなった。
先日クリスマスボウルは終わった。もう二年生がアメフト部に出る必要は本来ならもうない。
けれど少人数のアメフト部は二年生が抜けてしまえば練習もままならないため、家業を手伝うムサシはほとんど来なかったが、ヒル魔と栗田と雪光はほぼ毎日顔を出していた。そしてマネージャーであるまもりも。
「・・・何かあったのか?」
「ハ? あの悪魔が手酷く振ったんだろ」
「ハァアアア? それであの責任感のカタマリみたいなマネージャーが来なくなるもんか?」
「顔見せづらいっていうのはあると思うけど・・・」
「・・・まもりさん・・・!!」
一年生がユニフォームに着替えながら雑談する。
今日は校外授業があって、一年生は二年生より遅れて練習に駆けつけた。
だからこの場に二年生はいない。
もう部員たちはまもりがヒル魔を好きであろうことは薄々承知していた。
だがヒル魔がそれをどう思っているかは判らなかった。
まもりが来ないということは、きっとうまくいかなかったのだろう。
「アハーハー! 何を言ってるんだい君たち! マドモアゼルまもりは今、傷つく女の子だよ? 来るわけないじゃないか!」
「ハァアアア!? バカに言われたくねぇええ!!」
瀧と黒木の二人が騒ぐのを横目で見つつ、他の二年生も来ているから、新しいマネージャーが入るまでは何も言わずともきっと部活に来てくれる、という感覚は根拠がなかったのだと今更思い知る。 

とりあえずじゃんけんで負けたセナと十文字の二人が皆の分のドリンクとタオルを用意する。
「ハァ・・・それにしてもマネージャーがいないと色々面倒だな」
「今まで全部やってくれてたもんね」
ドリンクの濃度は袋の通りの割合でいいのかと思っていたら、十文字が何かに気づいたように棚へと向かう。
そこへ部誌と共にきちんと並んでいたノートを持ってきた。
「引継書だ」
「・・・まもり姉ちゃん真面目だから・・・」
そこにある濃度は袋の割合より少し薄い。試しに作ってみたら、飲み慣れた味だ。
ノートは様々に細かく書き込まれている。
伝票処理から洗濯のコツ、備品の保存場所と消耗品購入の頻度、その目安。
「これがあれば俺たちでもなんとかなるだろう、っていうことか?」
「でも主務の方が・・・」
戸惑うセナの前にもう一冊ノートが出てきた。
『主務業』と書かれた方にはスコアブックの付け方からビデオ撮影のコツ、さらには常にヒル魔と交わされていた暗号まできちんと書かれている。
「こりゃ本気だな」
「うん」
まもりは多分、こうなることを予想してすべて用意して、それから行動に出たのだ。
でなければこんなにも準備を整えていることはないだろう。
誰にも迷惑が掛からないようにこっそりと用意していたと思われるノート。
それを一人用意していたのだろうと思うと切なくなる。
「・・・どうしたらいいと思う?」
「とりあえず、俺たちは練習するしかねぇだろ」
外からは相変わらずの銃声が響いている。
「それもそうだね」
二人は全員分のドリンクとタオルを抱え、グラウンドへと戻っていった。

ヒル魔は滴る汗を手で拭った。
ドリンクを抱えて来たのが一年生二人なのは、練習にあの二人が出ていないことからすぐに知れた。
別に誰が用意しても同じ物だ。誰がやろうと、どうやろうと一緒。
しばらく全体練習で流した後、休憩を告げてドリンクを手に取る。
ヒル魔の喉を潤したドリンクも、やはりいつもの味だった。
誰がやっても誰が作っても同じ。
あの糞マネである必要はない。今までも、これからも。
「・・・でもね、これの濃度とかのマニュアルもあったよ」
「あー、そういう細けぇことしそうだよなぁ」
「後で見てみようぜ」
「フゴ」
ドリンクを飲みながら一年生たちはまもりの残したノートについて語っている。
そうやって細々としたことを見直すと、そこかしこに彼女の残滓が染みついているような。
彼女一人いなくなってどうということはない。
便利な労働力が不足するのは残念ではあるが、クリスマスボウルが終わった今、引き留める必要もない。
なんでもない。
こんなこと。
どこかで考えようとする意識を振り払い、ヒル魔は声を上げる。
「練習再開するぞ!」
「うーっす」

部活が終わっても、一年生たちは慣れない手つきで洗濯したり掃除したりと部室内をウロウロする。
それが酷く目障りだが、不器用ながらマネージャーの穴を埋めようという行為自体を責めることは出来ない。
むっすりとパソコンに来年度のデータその他を打ち込みながら、部誌を書くセナをちらりと眺める。
今まではその部誌はまもりが埋めていて。
整った文字が一日一日の積み重ねを嬉しそうに報告していたが、これからの部誌にはまもりの字が躍ることはないだろう。
「・・・ヒル魔さん?」
「ッ」
一瞬、不可解な感情に囚われたヒル魔にセナが声を掛ける。
「・・・なんだ」
「いえ・・・僕、これ書き終わったんでもう帰ります。ヒル魔さんは?」
「俺はもう少しかかる」
「そうですか。鍵お願いしてもいいですか?」
「おー」
「じゃ、お先に失礼します」
ぺこりと頭を下げ、セナは部誌をしまって扉を開ける。
ちらりとヒル魔を伺う視線を感じるが、それに応えることはしない。
誰もがまもりの不在の原因を薄々感じているようだが、それはヒル魔のせいでもない。
彼女自身が決着を付けた、その形がこれならば仕方ないだろう。
ふとコーヒーが飲みたくなって、顔を上げた。
いつもなら。
いつもなら部誌を書き終えても、なにかしらの用事をやっていたりして共にあったあの姿がない。
口にする前に、所望するものは目の前にあった。
それは例えばコーヒーだったりした。
「・・・チッ」
自分の生活の一部に、本当にさりげなくとけ込んでいた存在にヒル魔は心底嫌そうに舌打ちした。
リズムが乱れる。
やや乱暴にパソコンの電源を落とし、ヒル魔は立ち上がる。
このままここにいて、居もしない女の残像に気を取られるなんて、愚にも付かない。
帰ろう。
ヒル魔が彼にしては早い時間帯に帰宅していると、その視界の端を茶色い髪が通り過ぎた。
一瞬まもりが通ったのかと思って、視線を向けてしまう。
それは似ても似つかない派手な化粧で己を彩った女子高生で。
ただ茶色い髪だ、というだけで何を自分は。
ヒル魔は派手な舌打ちをすると、自らのねぐらへと戻っていった。



それから一週間経った。
たかが一週間。七日間。168時間。10080分。604800秒。
屋上に寝っ転がって、空を仰ぐ。
目に入るのは青。
それだけで連想するのはあの瞳。
眸を閉じれば黒。
夜道を共に歩んだ時の、細い肩を思い出す。
「・・・アー・・・」
重症だ。
この一週間、どこにいてもどんな時も、気が付けば夢の中でさえ影がちらつく。
そうしてそれを自覚したらしただけ、ヒル魔の中に諦めにも似た気持ちが広がっていく。
諦めなんて。
どうやっても敵わないなんて、知りたくない。
努力して手を尽くして、時には奇跡さえ自分で起こして生きてきたのに。
諦めてしまうなんて。
唸るヒル魔の背後で、屋上のドアが開く音がする。
ヒル魔が昼休みにここにいることは、全校生徒の知るところなので、誰か知り合いでも来たのだろうか。
「・・・ここなら誰も来ない」
幽かに震える、熱を持った声に、ヒル魔はぴんと眉を上げた。
ヒル魔の認識はやや甘かったらしい。こんな風に一般の生徒がやってくるとは。
どうやら告白劇でも展開されるようだ。
男の声だけだと誰だか判らないが、女の声と合わせて聞けばリストにヒットするかも知れない。
クリスマスボウルが終わったとしても、脅迫のネタはいつでも歓迎だ。嬉々として脅迫手帳を取り出す。
「そうかしら」
どこか素っ気ないその声に、ヒル魔はぴしりと音を立てて固まった。
なんでこの女がここにいる。
「俺は・・・君のことが、ずっと」
女の冷めたような反応をものともせず、男は熱の籠もった言葉を吐き出そうとする。
この告白劇が成功しても失敗しても、格好のネタになるだろう。
だが、聞いていられない。
石化が解けたヒル魔は身軽に立ち上がり、わざわざ足音を立ててそちらに向かう。
「っ誰、だ・・・・・・・」
足音に反応して振り返った男は、目に見えて硬直した。
「アアお気遣いなく? 面白そうナンデ、見に来ただけデスヨ?」
ケケケ、と笑って手帳をちらつかせて、ヒル魔は男の顔をじっくり検分する。
告白されようとしている女と同じ風紀委員をやっている男だ。
生真面目を絵に描いたような、ぽっちゃりとした男。
その後ろに見えるのは、ちらりとこちらを伺う、記憶にあるのと同じ青い瞳。
「ヒル魔くん」
久しぶりにその声に呼ばれて、俺は小さくため息をつく。
それが安堵だとこの女には知れただろうか。
もういい。
諦めてやろうじゃねぇか。
「・・・・そ、その・・・俺は・・・俺・・・・」
「ハッキリ言わねぇのか?」
ニヤニヤと笑ってやりながら、一歩前に足を踏み出すと、男は短く悲鳴を上げ、まもりを押しのけるようにして屋上から走り去ってしまった。
「なんのつもり?」
「ア? 脅迫ネタが一つ増えると思ったから顔出しただけだろ」
「ふうん」
興味なさそうに、女は一言呟き、空を仰ぐ。
「知ってる? 失恋したら新しく恋愛するのが立ち直る一番の薬なんだって」
「ホー」
スタスタと近寄っていくと、女は不審そうにこちらを見た。
「というわけで、今絶賛恋愛相手募集中の私に近づかないでくれる?」
「部活を途中で投げ出すようなヤツの言うことは聞けねぇなあ」
「ちゃんと引継書はあるし、もう事実上引退なんだからいいでしょ」
つん、と視線をそらせる女の指先が幽かに震えているのをヒル魔はじっと見ていた。
「・・・なによ」
「俺は可能性があるのに諦める、っつー事が嫌いだ」
「知ってるわ」
どれほどに低い可能性であっても、勝率がある限りは絶対に諦めない。
そんな彼を好きになった女だ。それは百も承知。
「だが、俺は一つ諦めようと思ってな」
「・・・・・!?」
ばっ、とこちらを見る瞳は驚きに見開かれている。
見開かれたそれに自分の姿が映っていることに、ヒル魔は喜びさえ感じた。
「俺は必要なことは記憶していられるし、不必要なことは忘れられる。テメェのことだってそうだ」
必要ないことは纏めて一気にゴミ箱へ入れて忘却の彼方へ。
だから姉崎まもりというこの女のことだって、そうやって様々な雑事と一緒くたに放り込んだはずだった。
けれど彼女は、どこにでも入り込み、混ざり込んで容易く分別できない。
既にヒル魔の中の一部にとけ込んでしまっていて、なかなか離すことが出来ないのだ。
「姉崎」
「!」
「俺はテメェを忘れることは出来るだろうが、それをやるだけの労力が惜しい」
「・・・」
つい一週間前と同じ顔をして、まもりはこちらを見ている。
「だから諦めてやる」
尊大な言葉に、少々沈黙してからまもりは泣き笑いのような表情を浮かべた。
「・・・それって、恋愛感情からなの?」
「サアネ」
そう言いながら、震えていた指先をヒル魔はあっさりと浚ってたぐり寄せた。
初めて意図を持って触れた指は、細くて柔らかい。
いつも遠くから見るだけで、こんなに細いのだと今知った。
「俺を諦めさせた女はテメェくらいなもんだ」
「ヒル魔くんが一週間かかっても忘れないなんて、私の8ヶ月は無駄じゃなかった、ってことかしら」
「アー。自惚れさせてやるからとりあえずコーヒー淹れやがれ」
その言葉に、まもりは極上の笑顔を浮かべてこくりと頷いた。 

***
nana様リクエスト『それぞれすれ違うが最後ハッピーエンドなヒルまも』でした!自覚の遅いヒル魔さん。
ヒル魔さん視点寄りで書いたら自分にとって妙に新鮮でした。やっぱり内心ゴシャゴシャ考えるのはまもりちゃんの先買特許だと思って書いてることが多いからでしょうか。
リクエストありがとうございましたー!!

nana様のみお持ち帰り可。
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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