イシマール王国にやってきたヒル魔は、さっさと石丸国王を丸め込み、軍隊の総指揮権を手に入れた。
しかし軍隊の装備の貧弱さに盛大に嘆いてしまう。
なにしろ倉庫に押し込められた武器・防具の大部分はボロボロで到底使えそうになかったのだ。
「こんなんで王宮の護衛軍だなんて、随分と平和ボケした国だな」
「酷い言われようだわ」
「ア? じゃあテメェはこのカビは生えるわ穴は開くわの皮の鎧なんざ着られるのか?」
「うっ」
「こりゃ、まずは資金集めだな」
ため息をついたヒル魔に、まもりは謝る義理もないのだが一応ごめんなさい、と謝った。
「そういえばヒル魔くんは軽装よね」
まもりは戦乙女という立場上、ちゃんとした甲冑と槍を持っている。
しかしヒル魔はあまりがっしりした鎧を付けていない。
ちなみに、最初にまもりがヒル魔王子と呼んだら字面が気にくわないから止めろ、と言われ、呼び捨てにも出来ず結局この呼び方が定着した。
「神職だからな」
ヒル魔は神剣を扱えるが、元々神職者なのであまり重い鎧をつけられないのだ。
「そっか。その服が最強装備なの?」
「神職系で買えるのとしては最高値だろうな」
一見してなんの変哲もない黒い衣だが、見る者が見ればすぐ判る付加魔法がついている。
彼も曲がりなりにも王子なのだろうから、色々と持っていてもおかしくないのだけれど。
「そういえば、資金集めってどうするの?」
なにしろここは産業も興業も目立ったことがない、なにごともほどほど地味が目安のイシマール王国なのだ。
主力は農業でほぼ自給自足に近いという地味さ故に現金収入などほぼ無いに等しい。
「決まってるだろ」
「え?」
「こういうときは、ダンジョン攻略だ」
「え??」
言うが早いが、ヒル魔はまもりを連れてケルベロスに跨り、一路南へと下った。
ほどなくしてたどり着いた、そこは山に囲まれたおどろおどろしい雰囲気の洞窟だった。
「ここって?」
「ここは通称無限洞窟っつーダンジョンだ。下層に降りる程敵は強くなるが金や財宝も増える」
「そんなのがあるんだ~。え、でもここ、見るからに昔からありそうだけど、地図とかないの?」
「それがこの洞窟の不思議なところでな。入る度その地形が入れ替わる」
「ええ?!」
「おそらく何かの幻術が絡んでるんだろうが、俺にもそれは判らねぇ。ただ、ここで得た金や財宝、経験値は外に出ても消えることはねぇんだ」
「そうなんだ・・・」
まもりはちらりと洞窟を見る。
やはりなんの変哲もないように見えるが、ヒル魔がそういうのならそういう存在なのだろう。
神職者同士とはいえ、悔しいがヒル魔は圧倒的にまもりよりも知識が豊富だった。
生い立ちにも起因するところはあるだろうが。
「行くぞ」
「ええ」
二人は果敢に洞窟に飛び込んでいった。
一階はなんの変哲もない洞窟だった。出てくるのも道ばたで出会えば相手の方が逃げる程の雑魚ばかり。
総じて手に入れられる財宝も大したことはない。
サクサクと進んでいき、降り続けること四十階を過ぎたあたりから敵も段々手強くなってきた。
ヒル魔は相変わらず剣でばっさばっさと敵を切り裂き、まもりも槍を使って敵を倒していく。
もっとも、腕力があまり無いまもりにとって、槍はほとんど呪文を唱えるときの杖代わりとして使用するので、一撃で倒せずヒル魔に嫌な顔をされるのだけれど。
「糞姫、もうちょっと攻撃で使える魔法はねぇのか」
「その呼び方嫌よ! だって私、神職だし、攻撃する必要なんてあんまりないんだもの!」
「俺だって神職だぞ」
「ヒル魔くんは剣を使ってるじゃない!」
「俺は呪文だって・・・」
二人でぎゃあぎゃあ言い合いながらふと踏み入れた洞窟の一室。
ざわざわざわざわ。
「きゃ!」
そこは魔物の巣窟だった。床といい壁といい犇めくたくさんの魔物に、まもりは悲鳴を上げて後ずさる。
しかし背後からも魔物の息づかい。まもりはどちらに動くことも出来ず、息を呑んだ。
「おい、糞姫」
呼び方に対してツッコミする事も出来ず固まったまもりの前でヒル魔の落ち着いた声。
「神職だろうがこれくらいの呪文は使えるもんなんだよ」
見てろ、と言うと。
ヒル魔が淡々と紡いだ呪文により、魔物の巣窟の床に巨大な魔法陣が現れる。
「・・・!!」
そこから光り輝く赤い蝙蝠が現れた。室内を埋め尽くす程のそれが巨大な羽を羽ばたかせると魔物たちは一瞬で燃え尽き、消え去ってしまう。
「どけ」
「っ」
それを見届けると、ヒル魔はまもりを引き寄せ抱き留め、その背後にいた魔物に銀色の刃を突き立てた。
悲鳴と共に魔物は灰になる。
あっという間の出来事だった。
「い、いまの、あれ、せ、精霊魔法?!」
「おー」
「あ、んな巨大な、の、初めて見た・・・」
精霊魔法は性質柄そんなに大きなものを使うことは出来ないはずなのだ。
そもそも世界を構成する一部である精霊を使役すると周囲にも影響が出る。
そのため様々な契約・制約などがつきまとい、使用するには複雑でまもりには到底出来ないのに。
「洞窟内、それもこんな風に閉じた空間ならデカいの呼びつけても影響はねぇんだよ」
「そうなんだ・・・」
まもりはそこまで聞いて、今の状況にはたと気が付く。
狭い通路内、すれ違うのがやっとというくらいの広さのところで抱き合っている不自然さに気づいて離れようとしてもうまくいかず、足をもつれさせてしまう。
「あ・・・」
「チッ、暴れんな」
ヒル魔がまもりを抱えたまま先ほどまで魔物が犇めいていた場所に足を踏み入れる。
そこには魔物が持っていた財宝や金品がざらざらと散っていた。中程まで進んでまもりを離す。
へたりこむまもりにヒル魔は片眉を上げた。
「何にそんなに動揺してんだか」
「なっ、なんでもないっ!!」
どう見てもなんでもないという風情ではないのに、と内心苦笑しながらもヒル魔は飛び散っている宝物をざくざくと拾い集める。
その中に一際美しい紺碧の宝玉があった。見たところ雷の性質を帯びた宝玉らしい。
「おい、糞姫」
「だからその呼び方・・・」
「その槍貸せ」
「槍?」
ヒル魔はまもりの槍を取り上げると、その刃と持ち手の部分の境目に宝玉を当てた。
何か呪文を唱えると、宝玉がゆっくりとその槍に吸い込まれていく。
「わ・・・!」
「これでテメェも雷系の呪文が使える」
「え?! ほ、ホントに?!」
まもりは手に帰ってきた槍を見つめる。宝玉が嵌め込まれたほかにはなんの変哲もない。
「おー。道具として使え。ただし大して強くないがな」
「うん!」
まもりは槍を抱きしめ、にっこりと笑顔を浮かべる。
すっかり財宝を室内の回収し尽くしたヒル魔はまだへたり込んだままのまもりの手を引き、立ち上がらせる。
再び行くぞ、と言ってまもりを引きつれ狭い洞窟内を歩いていく。
ここが並び立つのが出来ない程狭い洞窟で良かった、とまもりは嘆息し、先ほどの一幕を思い出す。
赤い蝙蝠が巻き起こした炎、その火の粉がきらきらと飛び散って、ヒル魔の横顔を照らした。
圧倒的な力を見せつけるヒル魔の姿に、落ち着かない気分になった。
神職で細身で、けれど男の体躯はまもりなど易々と抱き留めるものであると思い知って。
そういえば背中もまもりよりずっと広い。
・・・クラクラする。
まもりは今までに感じたことのない感情と、激しく主張する心臓を扱いかねて、そっと胸に手を置いた。
***
ヒジリ様リクエスト『ゲーム×ゲームの続編』でした!既に魔王と戦っている以上、この二人はこれから強い敵を探して戦うよりレベル上げ(資金集め)しそうだよな、という考えからダンジョンに潜って頂きました。見せ場を作るのに悩んで『風/来/の/シ/レ/ン』等の不/思/議/な/ダ/ン/ジ/ョ/ンと銘打たれているシリーズを元にしました。
楽しく書けました♪リクエストありがとうございましたー!!
ヒジリ様のみお持ち帰り可。
リクエスト内容(作品と合っているかどうか確認のために置きます)以下反転して下さい。
『「『ゲーム×ゲーム』の続編でまもりがヒル魔に対する恋心を自覚する話」をお願いします。強くて格好良いヒル魔王子にくらくらするまもりが見たいなあ、と思いまして。』・・・か、かっこよくならなくてすみませんでした(汗)ヒル魔さんこんなすごい魔法も使えるんだよ!というのが書きたくて書いたら変なことに!まもりも自覚したのか微妙なところで申し訳ないですー。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。