旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ホテルのスカイビューラウンジ。
美しい夜景を見下ろしながら、高級フレンチを頂く。
「一日の予定としちゃまだまだだな」
「これでまだまだなの・・・!?」
エステに行ったまもりは結局頭の天辺から爪の先まで美しく、を本当にやられて正直くたくただった。
マニキュアを塗られている間も、髪を結われている間も、傅かれる感覚になれないまもりはどこか気を張ってしまう。
美しく着飾った人々の中でも、この二人は群を抜いた。
方や金髪を逆立ててピアスをして、細身のスーツに身を包んでいてどう見ても堅気ではないような外見なのに軽薄さを与えないという不思議な男性。
「経済学についてはどうだ」
方や茶色の髪を美しく結い上げ、白磁のような肌を見せつつも品の良さを感じさせる美女。
「高校で習う程度しか知らないわ。必要なら勉強する」
ただ少し会話は刺々しい感じがするのだが。
「明日は行儀見習いのところだ。見たところテーブルマナーも悪くはなさそうだが、プロトコールの研修を受けておけ」
「・・・国際儀礼まで必要なの」
「総合的に学ぶにゃ一番だ。一つずつちんたらやってちゃ先に進まねぇんだよ。英語は使えるか」
「日常会話くらいなら」
写真で見たなら一見似合わないようでいてお似合いのカップル・・・と言えるだろうけれど、不穏な空気が漂っていてはそれも怪しい。
それでもウェイターは表情を変えることなく給仕する。
「パソコンは使えるか」
「全然。デジタル関係は全く駄目」
「・・・チッ」
結局最後のデザートには目もくれず、ヒル魔はコーヒーをブラックのまま口に運んでいる。
まもりは綺麗に全て食べ終えた後、紅茶に砂糖とミルクをこれでもか、とばかりに入れて口を付ける。
「甘臭ぇ奴」
「なによ、疲れてるの。糖分は必要よ」
「過剰に取ると太るぞ」
喋りながらヒル魔は色々考えているようだった。
質問を繰り返し、情報を修正しながら幾つもシミュレートしている。
そんな様子を見ながら、ふと気が付いたようにまもりは口を開いた。
「…ねぇ、私、貴方のことなんて呼べばいいの?」
「あぁ?!」
思考を中断させられ、ヒル魔は眉間に皺を寄せながら目の前の女を見る。
「だって、貴方のことどう呼ぶのがふさわしいか聞いてなかったし、ご主人様はダメみたいだし」
「貴方、でいいじゃねぇか」
「普段はいいけど、他の人と話すとき使えないでしょ。あの人、とかあの方、でずっと通すのもどこか変だし」
二人だけなら問題ない。第三者も客と店なら問題なかった。だが、ヒル魔が提示したまもりの役は『婚約者』だ。他人と彼について話すこともあるだろう。
「お前はどうやって呼びたい」
「・・・んー、さん付け、とか?」
「疑問形か。呼んでみろ」
「ヒル魔さん。・・・変なの」
呼んだまもりも呼ばれたヒル魔も微妙な顔になる。
「なんで名字なんだ。こういう場合、名前だろ」
妙に他人行儀に感じられた。いや、他人なのだけれど、とまもりは思う。
「妖一さん」
「・・・まあ仕方ないか」
なんとなくしっくり来ないが、対外的にはそれで事足りるだろう。
「じゃあ糞女、これから俺を呼ぶときに貴方って呼ぶのは禁止な」
「だからそんな名前じゃないってば! それになんで貴方って呼ぶのを禁止にするの!」
「普段から呼び慣れておかないとぼろが出る。反復練習が大事なんだよ」
意外に地味なことを言うものだから、まもりは一瞬耳を疑った。だが彼は真面目な顔でまもりを見ている。
「・・・その理屈で言うなら、あな・・・じゃない、妖一さんも私を名前で呼ぶようにしてね」
「うるせー糞女。俺がそんなへまするかよ」
「もう!」
ぷー、とむくれて見せたらヒル魔は実に楽しそうに笑った。
「さあ、これからのスケジュールを組むぞ。部屋だ」
「はーい」
部屋へ向かう途中、ヒル魔は思い出したように左腕をまもりへ出した。
「え? 何?」
「俺に掴まる練習しておけ」
「え?!」
「本番でぎくしゃくされると困るんでな」
「それくらい出来るわよ!」
「ほれ」
その腕に掴まってみるが、うまくいかない。歩幅が違う人の足に合わせるのは難しい。
「ちょっと、もうちょっとゆっくり歩いて!」
「お前ももう少し近寄れ。そんなに離れちゃおかしいだろうが」
「こ、こう?」
「違う、こう」
スウィートに巣喰う、悪魔と呼ばれる男が商売女を連れてきたとはドアマンたちから既にホテル中の従業員に伝達されていた。
興味半分恐怖半分。
しかし身形はさほどではない、と注釈があったのに、今の女性は間違いなく美女だった。
姿形、身形だけではなく、仕草や雰囲気がどこか可愛らしい。
情報はまた更新されるだろう。
おっかなびっくり腕を組んで歩く様を、レストランから何人かの店員が微笑ましそうに見送っていた。
ヒル魔が出してきた予定表。
提示された一ヶ月、過たずその最終日に『会合』とあった。
「この日に婚約者を連れて行くのが会合参加の条件。それまでにやれることは山積みだ」
「・・・すごいスケジュール・・・」
朝から晩までみっちり研修やら勉強やらが詰められている。
よくもまあこれほどまでにやることがあるものだ。
「逃げるなよ。逃げたら三千万がパア! だからな」
ふざけた調子でまもりの負けず嫌いな性格を煽るヒル魔にまもりは挑むように切り返した。
「逃げないわよ!」
威勢のいいまもりをヒル魔はにやりと見下ろす。
「テメェはあっちの部屋を使え。今日寝てたところだ」
まもりはそれを聞いて少し首を傾げた。
だが、それを尋ねると墓穴を掘りそうで、まもりはそそくさと立ち上がり、あてがわれた部屋へと向かう。
「ああそうだ」
「っ! な、なに?」
「俺は忙しいから、夜這いなんざするんじゃねぇぞ」
「・・・・・ッ!?」
途端に真っ赤になるまもりに、ヒル魔はにたりと笑って追い払うように手を振った。
「~~~~お、おやすみなさいっ!!」
「おー」
踵を返し、足音荒く歩くまもりの姿を見て、ヒル魔は低く喉で笑った。
<続>
美しい夜景を見下ろしながら、高級フレンチを頂く。
「一日の予定としちゃまだまだだな」
「これでまだまだなの・・・!?」
エステに行ったまもりは結局頭の天辺から爪の先まで美しく、を本当にやられて正直くたくただった。
マニキュアを塗られている間も、髪を結われている間も、傅かれる感覚になれないまもりはどこか気を張ってしまう。
美しく着飾った人々の中でも、この二人は群を抜いた。
方や金髪を逆立ててピアスをして、細身のスーツに身を包んでいてどう見ても堅気ではないような外見なのに軽薄さを与えないという不思議な男性。
「経済学についてはどうだ」
方や茶色の髪を美しく結い上げ、白磁のような肌を見せつつも品の良さを感じさせる美女。
「高校で習う程度しか知らないわ。必要なら勉強する」
ただ少し会話は刺々しい感じがするのだが。
「明日は行儀見習いのところだ。見たところテーブルマナーも悪くはなさそうだが、プロトコールの研修を受けておけ」
「・・・国際儀礼まで必要なの」
「総合的に学ぶにゃ一番だ。一つずつちんたらやってちゃ先に進まねぇんだよ。英語は使えるか」
「日常会話くらいなら」
写真で見たなら一見似合わないようでいてお似合いのカップル・・・と言えるだろうけれど、不穏な空気が漂っていてはそれも怪しい。
それでもウェイターは表情を変えることなく給仕する。
「パソコンは使えるか」
「全然。デジタル関係は全く駄目」
「・・・チッ」
結局最後のデザートには目もくれず、ヒル魔はコーヒーをブラックのまま口に運んでいる。
まもりは綺麗に全て食べ終えた後、紅茶に砂糖とミルクをこれでもか、とばかりに入れて口を付ける。
「甘臭ぇ奴」
「なによ、疲れてるの。糖分は必要よ」
「過剰に取ると太るぞ」
喋りながらヒル魔は色々考えているようだった。
質問を繰り返し、情報を修正しながら幾つもシミュレートしている。
そんな様子を見ながら、ふと気が付いたようにまもりは口を開いた。
「…ねぇ、私、貴方のことなんて呼べばいいの?」
「あぁ?!」
思考を中断させられ、ヒル魔は眉間に皺を寄せながら目の前の女を見る。
「だって、貴方のことどう呼ぶのがふさわしいか聞いてなかったし、ご主人様はダメみたいだし」
「貴方、でいいじゃねぇか」
「普段はいいけど、他の人と話すとき使えないでしょ。あの人、とかあの方、でずっと通すのもどこか変だし」
二人だけなら問題ない。第三者も客と店なら問題なかった。だが、ヒル魔が提示したまもりの役は『婚約者』だ。他人と彼について話すこともあるだろう。
「お前はどうやって呼びたい」
「・・・んー、さん付け、とか?」
「疑問形か。呼んでみろ」
「ヒル魔さん。・・・変なの」
呼んだまもりも呼ばれたヒル魔も微妙な顔になる。
「なんで名字なんだ。こういう場合、名前だろ」
妙に他人行儀に感じられた。いや、他人なのだけれど、とまもりは思う。
「妖一さん」
「・・・まあ仕方ないか」
なんとなくしっくり来ないが、対外的にはそれで事足りるだろう。
「じゃあ糞女、これから俺を呼ぶときに貴方って呼ぶのは禁止な」
「だからそんな名前じゃないってば! それになんで貴方って呼ぶのを禁止にするの!」
「普段から呼び慣れておかないとぼろが出る。反復練習が大事なんだよ」
意外に地味なことを言うものだから、まもりは一瞬耳を疑った。だが彼は真面目な顔でまもりを見ている。
「・・・その理屈で言うなら、あな・・・じゃない、妖一さんも私を名前で呼ぶようにしてね」
「うるせー糞女。俺がそんなへまするかよ」
「もう!」
ぷー、とむくれて見せたらヒル魔は実に楽しそうに笑った。
「さあ、これからのスケジュールを組むぞ。部屋だ」
「はーい」
部屋へ向かう途中、ヒル魔は思い出したように左腕をまもりへ出した。
「え? 何?」
「俺に掴まる練習しておけ」
「え?!」
「本番でぎくしゃくされると困るんでな」
「それくらい出来るわよ!」
「ほれ」
その腕に掴まってみるが、うまくいかない。歩幅が違う人の足に合わせるのは難しい。
「ちょっと、もうちょっとゆっくり歩いて!」
「お前ももう少し近寄れ。そんなに離れちゃおかしいだろうが」
「こ、こう?」
「違う、こう」
スウィートに巣喰う、悪魔と呼ばれる男が商売女を連れてきたとはドアマンたちから既にホテル中の従業員に伝達されていた。
興味半分恐怖半分。
しかし身形はさほどではない、と注釈があったのに、今の女性は間違いなく美女だった。
姿形、身形だけではなく、仕草や雰囲気がどこか可愛らしい。
情報はまた更新されるだろう。
おっかなびっくり腕を組んで歩く様を、レストランから何人かの店員が微笑ましそうに見送っていた。
ヒル魔が出してきた予定表。
提示された一ヶ月、過たずその最終日に『会合』とあった。
「この日に婚約者を連れて行くのが会合参加の条件。それまでにやれることは山積みだ」
「・・・すごいスケジュール・・・」
朝から晩までみっちり研修やら勉強やらが詰められている。
よくもまあこれほどまでにやることがあるものだ。
「逃げるなよ。逃げたら三千万がパア! だからな」
ふざけた調子でまもりの負けず嫌いな性格を煽るヒル魔にまもりは挑むように切り返した。
「逃げないわよ!」
威勢のいいまもりをヒル魔はにやりと見下ろす。
「テメェはあっちの部屋を使え。今日寝てたところだ」
まもりはそれを聞いて少し首を傾げた。
だが、それを尋ねると墓穴を掘りそうで、まもりはそそくさと立ち上がり、あてがわれた部屋へと向かう。
「ああそうだ」
「っ! な、なに?」
「俺は忙しいから、夜這いなんざするんじゃねぇぞ」
「・・・・・ッ!?」
途端に真っ赤になるまもりに、ヒル魔はにたりと笑って追い払うように手を振った。
「~~~~お、おやすみなさいっ!!」
「おー」
踵を返し、足音荒く歩くまもりの姿を見て、ヒル魔は低く喉で笑った。
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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