旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
朝食が二人の間に並べられる。給仕の女性が下がってから、ヒル魔はコーヒーに手を伸ばした。
まもりは、丁寧に淹れられた紅茶に口を付ける。
「美味しい」
返事はなく、彼は黙々と食事を摂っている。
「一つ聞いてもいい?」
「一つでいいのか?」
「・・・いくつか聞いてもいいでしょうか」
「・・・・・・」
沈黙は肯定らしい、と勝手に判断してまもりは口を開いた。
「貴方の名前を教えてください」
「先に名前か。優等生みたなヤツだな、お前」
「あ、私は姉崎まもり」
「・・・蛭魔妖一」
ぼそっと呟かれた名前に、まもりは目を丸くする。
その様子を見て、ヒル魔はにやりと笑って見せた。
どうやら場末の女であっても、その名は聞いたことがあるらしい。
「・・・本物?」
「偽物が名乗ってたら、そいつは即座に蜂の巣だな」
にやにや、という表現がぴったりの表情を前に、まもりははぁ、と気の抜けた声しか出せなかった。
蛭魔妖一。
魔の名を抱く彼は、その通り悪魔である。
人心掌握術に長けているといえば聞こえはいいが、実際はどこからどう手に入れるのかとんでもない量の銃火器と、人には知られたくない類の情報を使いながら悪事の限りを尽くしている。と、聞いている。
奴隷と称する部下たちを操り、表にはほとんど姿を現さない蛭魔妖一。
憶測が憶測を呼ぶ、とんでもない男であるという認識だけが人々の間で根強い。
「実在したんだ・・・」
「人をなんだと思ってるんだ」
「悪魔」
「いい根性してるなオマエ」
「オマエじゃありません。姉崎まもりです」
「よーっし判った糞女」
「ファ・・・?!」
「テメェの値段だが」
ぴた、とそこでまもりの動きが止まる。
昨日から今までの行動を反芻する。運転だけはしたが、上手だったわけではない。
閨の相手をしたわけでもない。というか、ただ寝ていただけ。今、朝食を食べさせて貰っている。
・・・むしろこっちがお金を払うべきなんじゃないかしら・・・いくら持っていたっけ、私。
脳裏で所持金を数えるまもりの目の前に、細く長い指がぴっと立った。
一本。
「百」
「ひゃく? ・・・えっ、百円?! 私の値段って百円!?」
「そこですぐ百円か発想が貧乏すぎるぞコラ。それだとゼロが4つ足りねぇ」
「ゼロ4つ!? ・・・えーとえーと、百万円!?」
ニヤリ、と再び目の前で彼は笑った。真実、彼は悪魔に見える。
「契約をしようじゃねぇか」
「魂は渡せません!!」
「テメェの魂なんぞ貰ったところで使いようがねぇだろうが」
即答を即答で返される。いっそ小気味よいくらいだ。気分は最悪だが。
「・・・ひどい」
「まあ聞け」
ニヤニヤと悪魔のような笑顔を浮かべたまま、ヒル魔は続けた。
「一ヶ月、俺と行動を共にしろ。必要経費は全部こっちもち。少々オベンキョウしてもらう必要があるが、それもまあ平気だろ」
「一ヶ月?! そんなに?!」
「タダとは言わねぇ。百万円だ」
「・・・一ヶ月で百万円か・・・」
悪くはない。日々の稼ぎを考えたら破格だ。ただ、この男に拘束されることを考えたら、リスクの方が大きそうだ。
「あ? 何言ってやがる」
「え?」
「一日百万円。一ヶ月で三千万円。最終日に全額現金で払ってやる」
「・・・・・・!!」
「ただし途中で逃げ出したら金は払わねぇ。大まかにはこんな感じだ。細かいことは契約が成立した後に説明してやる」
「・・・その細かいことが気になるんですけど・・・」
「なんだ? やめるか? やめるなら昨日の手当分で五万くらいなら出してやる」
・・・微妙な金額に心が揺れる。
三千万円なんて額、まもり一人で稼ぐには至難の業だ。現に今、生活も苦しい。
「三千万円あれば、オマエの借金はすぐに完済だし当面弟の面倒も見られる。一石二鳥どころじゃねぇだろ」
「!!」
彼は黒い手帳を片手にニヤニヤとこちらを伺っている。
「姉崎まもり、20歳。私立泥門高校を主席で卒業後、家業がうまくいかないのを気にして進学せず就職した。が、両親が相次いで死去、一人残った弟のセナを養っているが両親が残した借金の返済で生活は苦しい。ついでに言えば先週キャバ嬢を始めたがあまりに男あしらいが下手で二日でクビになった」
ぐうの音も出ない。
そう、まもりは借金を抱えていた。こつこつと返しているが、返済の目処は全く立たない。
昼間に働くだけでは到底まかなえなくて夜の仕事も始めたのだ。
いつの間に調べたのだろうか。背後に見えるパソコンをちらりと見て、何となく察してため息をついた。
彼はとても頭が良く、そして言うだけの財力はあるようだ。
ついでに言えば、金額だけではなく契約をまもりに飲ませるだけの用意はしてあるように思えた。
たった数時間の会話でも、それくらいは想像できる。
「でも、そんなうまい話はないんでしょ? というか、選択権ってあるの?」
察しのいい彼女の答えに、彼はケケケ、と声を上げて笑った。
「YA―HA―! 理解が早くて助かるな。とうにオマエの職場には退職する旨連絡済。ついでにテメェの小汚ねぇアパートもさっぱり引き払っておいたぜ!」
「やっぱりー!! ちょっと、セナは?!」
「あぁ? 糞ガキなら糞デブの寺だ」
「ファ・・・デブって・・・」
「孟蓮宗の総本山。知ってるだろ、テメーの両親の菩提寺だ。いるだろ、俺らぐらいの年の糞デブが」
「・・・・・・なんでお寺」
「昔からの知り合いだ」
「ふぅん」
「あそこなら借金取りも迂闊に近づけねぇだろ」
嫌な予感ほど的中するものだ。まもりは怒りながらも退路を断たれ、更にセナの安全が確保されたことで自分の進む道が決まったことを理解した。
それならば、後は進むだけだ。そういう切り替えは速い方だと自覚している。
「指」
す、とまもりは彼に手を伸ばす。唐突な会話の切り替えに、彼はぴく、と片方の眉を上げる。
「ア?」
「約束なら、指切りげんまんするもんでしょ?」
「約束じゃねぇ。契約だから書面にサインしろ」
「うん、その前に一つ約束して欲しいの」
「・・・・・・」
「それ」
「?」
「沈黙は肯定だってなんとなく理解したんだけど、やっぱり判りづらいの。だから返事が欲しいの。思ったことは言って欲しいの」
「・・・めんどくせぇ」
「いいじゃない、それくらい。人の人生狂わそうっていうんだから、これくらい約束して!」
「狂ってねぇじゃねぇか。むしろ感謝しろ」
「やーくーそーくー!」
「・・・チッ」
盛大に舌打ちしながらも、彼はだるそうに手をこちらに伸ばした。やる気のない指を無理矢理絡めて呟く。
「ゆーびきーりげーんまーん、ウソついたらハリセンボンのーます、指切った。・・・約束よ?」
「ハイハイ。糞女はめんどくせぇこって」
「ファ・・・そ、そんな呼び方は止めて!」
「ケケケうるせぇ糞女、いいから今度はこっちの書類にサインしやがれ!」
そこには、一ヶ月間の仕事の内容が記載されている。色々書かれているが、要約すると主文は一つだった。
「これって、要は『婚約者のフリをすること』?」
「ちょっと仕事で必要なんでな。やるか?」
「・・・やるしかないんでしょうが。や・り・ま・す!」
「YA-HA-!! 契約成立!!」
そうして、この奇妙な生活がスタートしたのでした。
<続>
まもりは、丁寧に淹れられた紅茶に口を付ける。
「美味しい」
返事はなく、彼は黙々と食事を摂っている。
「一つ聞いてもいい?」
「一つでいいのか?」
「・・・いくつか聞いてもいいでしょうか」
「・・・・・・」
沈黙は肯定らしい、と勝手に判断してまもりは口を開いた。
「貴方の名前を教えてください」
「先に名前か。優等生みたなヤツだな、お前」
「あ、私は姉崎まもり」
「・・・蛭魔妖一」
ぼそっと呟かれた名前に、まもりは目を丸くする。
その様子を見て、ヒル魔はにやりと笑って見せた。
どうやら場末の女であっても、その名は聞いたことがあるらしい。
「・・・本物?」
「偽物が名乗ってたら、そいつは即座に蜂の巣だな」
にやにや、という表現がぴったりの表情を前に、まもりははぁ、と気の抜けた声しか出せなかった。
蛭魔妖一。
魔の名を抱く彼は、その通り悪魔である。
人心掌握術に長けているといえば聞こえはいいが、実際はどこからどう手に入れるのかとんでもない量の銃火器と、人には知られたくない類の情報を使いながら悪事の限りを尽くしている。と、聞いている。
奴隷と称する部下たちを操り、表にはほとんど姿を現さない蛭魔妖一。
憶測が憶測を呼ぶ、とんでもない男であるという認識だけが人々の間で根強い。
「実在したんだ・・・」
「人をなんだと思ってるんだ」
「悪魔」
「いい根性してるなオマエ」
「オマエじゃありません。姉崎まもりです」
「よーっし判った糞女」
「ファ・・・?!」
「テメェの値段だが」
ぴた、とそこでまもりの動きが止まる。
昨日から今までの行動を反芻する。運転だけはしたが、上手だったわけではない。
閨の相手をしたわけでもない。というか、ただ寝ていただけ。今、朝食を食べさせて貰っている。
・・・むしろこっちがお金を払うべきなんじゃないかしら・・・いくら持っていたっけ、私。
脳裏で所持金を数えるまもりの目の前に、細く長い指がぴっと立った。
一本。
「百」
「ひゃく? ・・・えっ、百円?! 私の値段って百円!?」
「そこですぐ百円か発想が貧乏すぎるぞコラ。それだとゼロが4つ足りねぇ」
「ゼロ4つ!? ・・・えーとえーと、百万円!?」
ニヤリ、と再び目の前で彼は笑った。真実、彼は悪魔に見える。
「契約をしようじゃねぇか」
「魂は渡せません!!」
「テメェの魂なんぞ貰ったところで使いようがねぇだろうが」
即答を即答で返される。いっそ小気味よいくらいだ。気分は最悪だが。
「・・・ひどい」
「まあ聞け」
ニヤニヤと悪魔のような笑顔を浮かべたまま、ヒル魔は続けた。
「一ヶ月、俺と行動を共にしろ。必要経費は全部こっちもち。少々オベンキョウしてもらう必要があるが、それもまあ平気だろ」
「一ヶ月?! そんなに?!」
「タダとは言わねぇ。百万円だ」
「・・・一ヶ月で百万円か・・・」
悪くはない。日々の稼ぎを考えたら破格だ。ただ、この男に拘束されることを考えたら、リスクの方が大きそうだ。
「あ? 何言ってやがる」
「え?」
「一日百万円。一ヶ月で三千万円。最終日に全額現金で払ってやる」
「・・・・・・!!」
「ただし途中で逃げ出したら金は払わねぇ。大まかにはこんな感じだ。細かいことは契約が成立した後に説明してやる」
「・・・その細かいことが気になるんですけど・・・」
「なんだ? やめるか? やめるなら昨日の手当分で五万くらいなら出してやる」
・・・微妙な金額に心が揺れる。
三千万円なんて額、まもり一人で稼ぐには至難の業だ。現に今、生活も苦しい。
「三千万円あれば、オマエの借金はすぐに完済だし当面弟の面倒も見られる。一石二鳥どころじゃねぇだろ」
「!!」
彼は黒い手帳を片手にニヤニヤとこちらを伺っている。
「姉崎まもり、20歳。私立泥門高校を主席で卒業後、家業がうまくいかないのを気にして進学せず就職した。が、両親が相次いで死去、一人残った弟のセナを養っているが両親が残した借金の返済で生活は苦しい。ついでに言えば先週キャバ嬢を始めたがあまりに男あしらいが下手で二日でクビになった」
ぐうの音も出ない。
そう、まもりは借金を抱えていた。こつこつと返しているが、返済の目処は全く立たない。
昼間に働くだけでは到底まかなえなくて夜の仕事も始めたのだ。
いつの間に調べたのだろうか。背後に見えるパソコンをちらりと見て、何となく察してため息をついた。
彼はとても頭が良く、そして言うだけの財力はあるようだ。
ついでに言えば、金額だけではなく契約をまもりに飲ませるだけの用意はしてあるように思えた。
たった数時間の会話でも、それくらいは想像できる。
「でも、そんなうまい話はないんでしょ? というか、選択権ってあるの?」
察しのいい彼女の答えに、彼はケケケ、と声を上げて笑った。
「YA―HA―! 理解が早くて助かるな。とうにオマエの職場には退職する旨連絡済。ついでにテメェの小汚ねぇアパートもさっぱり引き払っておいたぜ!」
「やっぱりー!! ちょっと、セナは?!」
「あぁ? 糞ガキなら糞デブの寺だ」
「ファ・・・デブって・・・」
「孟蓮宗の総本山。知ってるだろ、テメーの両親の菩提寺だ。いるだろ、俺らぐらいの年の糞デブが」
「・・・・・・なんでお寺」
「昔からの知り合いだ」
「ふぅん」
「あそこなら借金取りも迂闊に近づけねぇだろ」
嫌な予感ほど的中するものだ。まもりは怒りながらも退路を断たれ、更にセナの安全が確保されたことで自分の進む道が決まったことを理解した。
それならば、後は進むだけだ。そういう切り替えは速い方だと自覚している。
「指」
す、とまもりは彼に手を伸ばす。唐突な会話の切り替えに、彼はぴく、と片方の眉を上げる。
「ア?」
「約束なら、指切りげんまんするもんでしょ?」
「約束じゃねぇ。契約だから書面にサインしろ」
「うん、その前に一つ約束して欲しいの」
「・・・・・・」
「それ」
「?」
「沈黙は肯定だってなんとなく理解したんだけど、やっぱり判りづらいの。だから返事が欲しいの。思ったことは言って欲しいの」
「・・・めんどくせぇ」
「いいじゃない、それくらい。人の人生狂わそうっていうんだから、これくらい約束して!」
「狂ってねぇじゃねぇか。むしろ感謝しろ」
「やーくーそーくー!」
「・・・チッ」
盛大に舌打ちしながらも、彼はだるそうに手をこちらに伸ばした。やる気のない指を無理矢理絡めて呟く。
「ゆーびきーりげーんまーん、ウソついたらハリセンボンのーます、指切った。・・・約束よ?」
「ハイハイ。糞女はめんどくせぇこって」
「ファ・・・そ、そんな呼び方は止めて!」
「ケケケうるせぇ糞女、いいから今度はこっちの書類にサインしやがれ!」
そこには、一ヶ月間の仕事の内容が記載されている。色々書かれているが、要約すると主文は一つだった。
「これって、要は『婚約者のフリをすること』?」
「ちょっと仕事で必要なんでな。やるか?」
「・・・やるしかないんでしょうが。や・り・ま・す!」
「YA-HA-!! 契約成立!!」
そうして、この奇妙な生活がスタートしたのでした。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
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