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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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長編連載『カワイイヒト』/1

(ヒルまもパロ)
※20000HITお礼企画

+ + + + + + + + + +
チッ、と舌打ちする。
誰に聞かせるでもないそれは、熱が既に引き始めた夜の街に空しく響く。
こんな日に限って。
黒塗りの車を見下ろし、男はもう一度舌打ちした。
 
 
天を突くように逆立てられた金髪、尖った耳には二連のピアス、凶悪そうな三白眼、つり上がった口角は耳元まで裂け、そこからは尖った牙が覗いている。
彼の名は蛭魔妖一、通称ヒル魔。
どこからどう見ても人外だが、一応人の部類ではある。
その証拠のように、酒精によって頬に幽かな赤みが差している。
 
携帯電話を取り出し、ディスプレイに表示されるいくつかの番号を眺める。
だが、どれにかけるでもなく視線を外した。
全くもって迂闊としか言いようがなかった。
運転手として雇っている男が、自分から連絡がないのをいいことに酔いつぶれて寝てしまっていたのだ。
今から呼び出して飲酒運転をさせるわけにもいかない。
かといって、この車を運転させる適任もこの近くには存在しない。
車を置いていこうにも幅のある車だけに置き場所に困る。間違いなく駐禁切符を切られる位置なのだ。
いっそ自分で運転しようかとも思うが、最近のオーバーワークで明らかに判断力が低下している自覚がある。
それに加えて少なくない量の酒を摂取してしまっている。自殺願望はないのでそれは却下だ。
こんな日に限って運転代行の業者も捕まらない。ああもう、どうしたらいい。
酒なんか飲むんじゃなかったと後悔しても後の祭り。
 
動くに動けず、いっそ車で夜明かしか、いやそれもまずい明日の仕事に差し障る、と動きの鈍い頭で考えていると、背後から女の足音が聞こえてきた。
何気なく目線をやると、そこには安っぽい化粧と安っぽい衣装に身を包んだ、どう見てもその手の仕事をしているとしか見えない女が立っていた。
髪は茶色でしかもその瞳は青。見るからに日本人ではなさそうだ。
女は車の側に恐る恐る、といった雰囲気で近寄ってきた。
「・・・あの」
「・・・・・・・」
面倒ごとには関わらないスタンスのヒル魔は女を一瞥しただけですぐ自分の思考へと沈み込む。
正直なところ、車なんて放っておいてさっさと根城にしているホテルに戻って眠ってしまいたい。
「・・・あの・・・」
しかし今は色々と下準備をしなければならない時期だ。些細なミスですら命取りになりかねない。
「・・・あのっ!」
「うるせー」
いつもならどれほど周囲で騒がれても気にならないのに、耳が勝手に女の声を拾う。
酒で精神が乱れているせいだ、と冷静に自己判断しつつ、このまとまらない思考をさらに乱そうとする声の主にやっと視線を向ける。
先ほどよりも近い位置で、女がこちらを見ていた。
よく見れば、端整な顔立ちをしている。安い化粧が台無しにしているが。
「あ…の」
煩いと一蹴したはずなのに、彼女は長い睫を瞬かせて更に言葉を重ねた。
「私を、買いませんか?」
「断る」
さっくりと切って捨てる。さてこの女はどうするのだろうか。
この手の商売をしているなら、さっさと見切りを付けて別の男を探しに行くべきだろう。
ああでも、この時間でひとりフラフラしているのならそんな切り替えが下手ということか。
眠気のピークが来ているせいで、そんなことをぼんやり考えながら女を見ていた。
女は、ヒル魔の予想外の動きをした。
「買ってください」
踵を返すどころか、距離を詰めてこちらを見上げてきたのだ。
流暢な言葉に、こいつは日本人だと認識を改める。
「聞こえなかったのか、断ると言った」
「あなた、車の側でずっと立ってたわね。携帯電話を見て色々考えてたみたいだけど、結局いい考えが思いつかないで途方に暮れてるみたいだった」
「・・・・・・・」
何が言いたいのか。視線だけで先を促すと、女は真剣な顔で言った。
「お酒を飲んだから、車の運転が出来ない。友達もいないし、業者もつかまらない。でも車は置いていけない。そんなところでしょ」
「・・・・・・で?」
「運転してあげる。だから私を買ってください」
「テメェ、これが運転できるのか?」
そもそも免許を持っているのだろうか。
彼女は小さな鞄から小学生が使うようなパスケースに入った免許証を取り出した。
そこには『姉崎まもり』という名が書かれている。
「免許のあるなしじゃねぇ。慣れねぇ車を運転できるかって聞いてるんだ」
「車は車でしょう。運転するわ」
凄むような口調で言われても、彼女はさらっと流す。
「で、どうするの? 私は買って貰えるの?」
安っぽい化粧。安っぽい衣装。だが、中身はそう捨てたものではないような、気が、した。
少々の沈黙の後、車の鍵が夜空に舞う。
「・・・運転しろ」

危なげはないが、慣れているとも言えない運転でまもりは指示されたホテルまでたどり着いた。
近づけば近づくほど全容が見えなくなる巨大さでもって、ホテルは二人を出迎えた。
エントランスまでなんとか車を運ぶと、ポーターがやってくる。
「いつもの通りだ」
「かしこまりました」
慣れた仕草で車の鍵を預け、彼は振り返りもせず開かれたドアに向かう。
「ま、待って!」
慣れない車の運転に強ばってしまった手足をぶらぶらと振っていたまもりは、素っ気なく行ってしまう彼を慌てて追いかける。
どう見てもこのホテルには縁のなさそうな姿の女性に、ドアマンたちは逡巡したが、ちらりと視線を彼女にやったヒル魔が足を止めたので、彼らは職務を忠実に果たした。
 
「・・・このホテル、初めて入ったわ」
きょろきょろと物珍しそうに辺りを見回すまもりに小さく舌打ちする。
「きょろきょろしてんるんじゃねぇ。さっさとこっちに来い」
迷うことなく彼はエレベーターホールに向かう。取り出したカードキーを差し込み、最上階のボタンを押した。
「それ、何?」
「・・・テメーまさか、カードキーの存在すら知らねぇとか言うか」
「それくらい知ってるわ。なんでエレベーターに差し込んでるか聞きたかったの」
「差し込まねぇと動かねぇんだよ。一般的なセキュリティだ。それくらい知っておけ」
「ふーん」
最上階までエレベーターは止まることなく進み、ドアが開いた先は、まもりの想像を遙かに超えるものだった。
「ナニこれ! 床がふかふか!!」
絨毯の質が、あからさまにホールにあったところと違う。
降りてすぐのところに大きなドア。先ほども見たカードキーを差し込むと、それは滑らかに開いた。
「わ・・・!」
広い部屋。今まで見たホテルは入り口をくぐるとすぐベッド、なんてところばかりだったのに、足を踏み入れたその場は玄関さながらの造りで。そのまま躊躇いもなく進む男の後を追うと、次の間は応接室、次の間がリビング、といったように目まぐるしく部屋が変わっていく。調度品も見事で、まもりは全てに目を奪われた。
「おい」
きょろきょろしながら進んだ先で、ヒル魔はようやく振り返った。
そこは寝室。キングサイズのベッドが鎮座する場所だった。
「俺はもう寝る。金は明日払うから、好きにしてろ」
「え、ちょっと!」
言うが早いか、彼はさっさと服を脱ぐとベッドへ潜り込んでしまった。
口を挟む余地もない。もうベッドからは寝息が聞こえてくる。
・・・さてどうしよう。
さほど悩まず、まもりはとりあえずこの見慣れない高級な部屋を探索するのもいいではないか、という結論に達した。多分ここはスイートルームだ。こんな所に入れるなんてこの先ないかもしれない。
開いても開いても次々ドアが見つかる。
楽しくて色々見て回るうちに、もう一つベッドルームがあるのを発見した。
こちらも先ほどの場所に負けず劣らず豪華な造りだ。
ベッドに触ってみると、今まで感じたことがない柔らかな感触。
まもりはここに横になってしまいたい衝動に駆られる。
ぐるりと見回すと、シャワーブースがあり、アメニティもある。
まもりは少し考えたが、ベッドに用意されていたパジャマを手に取ると、鼻歌交じりでシャワーブースへと足を運んだ。
 
目覚めて身支度を調え、あたりをつけたベッドルームへと歩いていく。
見下ろすとそこには昨日運転を命じた女がすこすこと寝転けていた。
好きにしてろと言ったが、大層な神経の持ち主だ。
まじまじと見ていたら、ぱち、と音を立てて女の瞼が開いた。
昨日のは見間違いじゃなかった、と再度確認してしまった瞳の色をまじまじと見つめかえす。
さて、こいつはなんと言うのだろうか。
寝起きの第一声を待つ彼の目の前で、二、三度瞬きしたその瞳が、柔らかく細められる。
「・・・おはようございます」
予想通りだ。


<続>
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