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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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感情を君に

(音大でヴァイオリン専攻のヒルまも)
※15000HITお礼企画作品
※の/だ/めとは関係ありません。
※3/23アップ『情熱の歌』の続きです。

+ + + + + + + + + +
その音を聞いたのは偶然だった。
まるで録音したかのように完璧な演奏。
けれどどこか楽しそうな。
CDでも流してるのか、と周囲を見渡したけれどどこにも機械は見あたらない。
ヒル魔は内心首を傾げつつ土手を歩いていた。

ヒル魔はヴァイオリニストとして技巧的に優れ、天才と言われる青年だった。
先ほど珍しく講師と意見が衝突したのでその後の講義を受ける気がせず、気分転換に来たのだ。
糞面倒臭ェ、と舌打ちする。
講師は彼に言った。君には感情が足りない、と。
ヴァイオリンに対する情熱なら存分に込めている。
それを聞き取れないテメェの耳がおかしいんじゃねぇか、と言い返したがにべもない。
君だって判ってるだろう。君の感情は稀薄すぎて、音に含まれていないのだと。
実は、ヒル魔はそれが自分に欠如しているのだという自覚があった。
昔からヴァイオリンはとても自分の性格に合った。
周囲もそう言ったし、自分でもそう思った。
昔から思った通りの音が出た。技術としては拙くても、とても深くと願えば深く、甘くと願えば甘く。
技術がそれに追いつくようになると、音は一層美しさを増して聞く者を虜にした。
だがそれと反比例して、ヒル魔の心は冷めていく。
極めれば極める程、不可能な部分が狭まって、発展の可能性が感じられなくなる。
いつしか技巧的にも最高レベルまで達してしまうと、ヒル魔はそのことに少なからず絶望した。
ヴァイオリンを奏でると誰もが褒め称える。演奏を聞いた別の奏者が弓を折りたくなると嘆く。
ヒル魔が奏でる音は感情が伴わなくても美しく滑らかだ。
音だけが一人歩きして評価されていく現実。
結果、いつしか感情を込めず淡々と演奏するようになってしまった。
それで周囲は満足していたし、ヒル魔も何も感じなくなっていた。
そこを講師に突っ込まれてしまったのだ。よく見てやがる、と感心しつつもやはり気分は良くない。
長く淡々と過ごした感情はすっかり沈静化して、怒濤のような勢いなどもはや出しようがない。
派手に尖った外見とは裏腹の、静かな感情と気配は丸く丸く収まって弾けることはなく。

不意に歓声が聞こえてきた。視線を向けると、川縁にヴァイオリンを持った女が一人。
その足下に小さな子供たちが五、六人集まっている。
「おねえちゃん、次は『キラキラ星』がいい!」
「いいわよ! お歌は歌える?」
歌えるー、と子供たちが手を挙げる。じゃあいくわよ、と言って女が演奏を開始した。
(ホー?)
子供たちが合唱する中を、先ほどから聞こえていたヴァイオリンの音色が伸びやかに流れていく。
楽しそうに、実に楽しそうに女は演奏していた。音自体は美しいし、技巧も悪くない。
これだけの演奏が出来るなら名前を聞きそうなのに、生憎とヒル魔の記憶にはない女だった。
子供たちとひとしきり戯れた後、女は名残惜しそうな子供に手を振った。
子供たちが立ち去った後、彼女はおもむろにヴァイオリンを構える。
途端。
先ほどの音とは桁違いの運指で、彼女は凄まじい勢いの演奏をしだした。
途端に響く音に、ヒル魔は思わず顔を顰めた。
(・・・オイオイ)
なんだそりゃ。悲鳴か。
確かに技巧的には凄い、と言われるレベルだが、音が全然ダメだ。
さっきまでの伸びやかな音はどこに行ったのか。
ひとしきり演奏を終えて彼女はヴァイオリンを下ろし、土手に座る。
ため息をついているのが背中だけ見ても判る。
(変な女・・・)
この場所で練習しているし今の技巧、おそらく同じ音大のヴァイオリニストだろう。
顔が見えればまだ調べようがあるのだが。
まるでそう思ったのが聞こえたかのように、女がふとこちら側に顔を向けた。
ヒル魔を見ているわけではないようで、視線が絡むことはない。
青い瞳。
整った顔立ち。
愁いを帯びたその顔から、ヒル魔は目が離せなかった。
女はもう一度ヴァイオリンを構えて課題曲を弾き出したが、やはり先ほどの悲鳴のような音で。
自身も納得がいかないようで手を止めてため息をつく。
女が三度ヴァイオリンを構えたのを見て、俺は踵を返す。
なぜか、今ならいい演奏が出来そうな気がしてきた。
耳障りとしか聞こえない音を聞いたのにもかかわらず、気分も悪くない。
悪くないどころか、上々だ。
小さく疼く感情にヒル魔は薄く笑った。


それから、ヒル魔は天気がいい日に土手を歩くようになった。
大抵あの女はここに来ていて、毎回完璧と言える程技巧的には優れた演奏をしている。
けれどやはりそれは悲鳴のように聞こえて。
聞く度にヒル魔の中で小さく疼いていた感情が大きくなっていく。
漠然としたそれを認めるのが躊躇われて、ヒル魔は女の名前を調べるまでには未だ至っていなかった。

「・・・素晴らしい!!」
パンパン、と手を叩いて絶賛する講師に、ヒル魔はぴん、と片眉を上げる。
「えらい変わりようじゃねぇか。こないだの意見は撤回か?」
「何を言うんだ? 君の演奏が変わったんだよ」
「ア?」
「まさか自覚なしかい?」
にこにこと笑う講師の質が悪いのは当初からだが、その思わせぶりな口調に、ヒル魔の眉間に皺が寄る。
「君も感情が稀薄すぎる節があるから、どうかとは思ったが・・・何か切っ掛けがあったみたいだね」
その言葉に引っかかった。
「も?」
「ああ、僕の受け持っている生徒に一人技巧がすごいけど感情がどうも上手く表現できない子がいてね」
「・・・茶髪で碧眼の女か」
「そうそう! なんだ、知り合いかい?」
「ベツニ」
「ふーん」
にやにやと笑う講師にヒル魔は余計なことを言った、と内心舌打ちする。
「今度彼女にも今の演奏を聴かせてあげてよ」
「アァ? ヤダネ、面倒臭ェ」
「そう言わずにさ」
なおも言いつのろうとする講師にヒル魔は弓をあげて黙らせる。
演奏が変わった? 俺の?
ヒル魔は無意識に演奏していた先ほどとは違い、慎重に音を奏でていく。
途端に心中に渦巻くのはあの女を見たときから疼き出した感情。
小さな疼きはやがて大きくなり、奔流となってヒル魔の中から音として弾けていく。
はけ口を求めるように、熱い音へと変わっていく。
演奏を終え、ヒル魔は今、自分がいかに激しい感情を叩きつけるような演奏をしたか、思い知る。
なんとなく気恥ずかしささえ感じるが、鉄面皮の下に感情は押し殺した。
「・・・ほらね」
けれど何もかもを見透かしたような講師の声に、舌打ちする。
「君は彼女に聞かせたいんじゃないの? 僕じゃなくてさ」
「・・・煩ェ糞講師」
「彼女の名前は姉崎まもり。明日、僕の授業があるんだ」
ちらりと視線を向けると、講師はにやりと笑った。
質の悪さを存分に自覚した含み笑いにヒル魔は思い切り眉間に皺を寄せた。
「明日の二限目だ。よろしくね」
「・・・糞!」


そうしてヒル魔は女と対峙する。
整ったその顔が絶望に彩られて、それさえも綺麗だと思ってしまった自分自身。
それに薄く笑って、ヒル魔はようやく認めることにした。

この感情を、人は、恋と呼ぶようだ。

***
5/18 23:00 パラレルの~様リクエスト『パラレルの情熱の歌がお気に入りなのでヒル魔がまもりを見初めた(笑)時の話をお願いします。』でした。書いてみたらヒル魔さんの自覚が思ったより遅かったです。ちなみに講師は高見さんのつもりで書きました。先生役とか似合うのでよくそんな役回りをあてがってしまいます。
リクエストありがとうございましたー!!

パラレルの~様のみお持ち帰り可。
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