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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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NOT EAT

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
その日、まもりは気味が悪いくらいの笑顔で通学路を歩いていた。
「まもりさーん!」
彼女の後ろから、元気な声が掛かる。
「あら、モン太くん。セナも。おはよう!」
立ち止まり、くるりと振り返ったまもりの顔を見て。
「ムキャー! ききき今日もお美しい・・・!」
感動するモン太の隣で、セナは引きつった笑みを浮かべ、こそりと声を掛ける。
「・・・どうしたの、まもり姉ちゃん・・・」
「うん? なんでもないわよ?」
隣にいるセナが無駄に怯えるような表情をしておいて、なんでもないもへったくれもない。
けれど手元に通学鞄とは別のサイドバックを持っている。
そこには大抵ハチミツレモンだとか、クッキーだとかケーキだとか、とにかく皆が好きなモノが入っている。
それはほぼ間違いない高確率で。
となれば、これを持っていくことで相変わらず勃発するであろう例の喧嘩のことでも考えているのだろうか。
何はともあれ、触らぬ神に祟りなし。
セナはそっとまもりの顔から視線を逸らし、モン太の『バナナがいかに優秀か』という熱い語りに耳を傾けた。

部室には既にヒル魔が来ていた。
グラウンドでは栗田と小結が早朝午前二時からの練習をしているので一番とは言わないが、部室で作業する人としては一番早いのが彼である。
大概はまもりがその次、セナとモン太がその後に続くのが恒例で、まもりとセナが一緒に登校することは滅多にない。
けれど今日はたまたまセナとモン太、まもりが同時に登校となった。
「おはようございます」
「おはようございMAX!」
「おはよう、ヒル魔くん」
その三者三様の言葉にも、ヒル魔はただ彼らを見ただけだ。
けれど視線があるだけまだマシだろう。
だが、セナは不思議そうに小首を傾げた。
大概そんな反応をするヒル魔に、言っても無駄だと思う人が多い中で彼女だけは口を酸っぱくして挨拶はちゃんとしろ、と言っているのに。
それは最早習慣と言ってもいいくらいだった。
だが、彼女は笑みを浮かべたままコーヒーを落としにいってしまった。
けれどいつもと違うまもりに対してもヒル魔は特に反応しない。
ということは。
「着替え行こうぜ、セナ」
モン太の声に思考を中断されたセナは、彼に向かって曖昧に頷いて口を開く。
「う、うん・・・。ちょっと用事あるから、先に行っててくれる?」
「? ああ、じゃあ先に行くぞ!」
深くは尋ねず一人ロッカールームに向かったモン太を見送り、セナはヒル魔に対して口を開いた。
「・・・何か、喧嘩でもしたんですか?」
「ア?」
セナの声に、ヒル魔のキーボードを叩く音がぴたりと止まった。
ああ、これは間違いない、何かまた痴話喧嘩と呼ばれる類のことをしたのだろう、とセナは内心嘆息する。
二人が付き合っていることは、最早公然の秘密だ。
けれど知ってか知らずか、それとも知っていても認めたくないか、というモン太の前でだけはこの会話は御法度なのだ。
だから彼だけ先に行かせたのだ。
「テメェには関係ねぇだろ」
「まもり姉ちゃんの事なら、関係あると思います」
強気の口調に、ヒル魔の片眉が跳ね上がる。
「僕だけじゃなくて、部活全体に被害が出ますから」
それは間違いない。
例えばそれは見ていて肝が冷えるような言葉の応酬や、絶対零度まで下がった無言の部室の空気にさらされることだったりする。
蓋を開ければくだらない内容だったりするので、その痴話喧嘩に巻き込まれて神経をすり減らすのは勘弁願いたい。
それに反論しようとしたヒル魔の前に、静かにカップが置かれた。
「はいどうぞ、コーヒーよ。それと」
更に並んだモノに、セナは目を瞠った。
「ケーキ?!」
いかにも甘ったるい匂いを放つそれは、綺麗に切り分けられたシフォンケーキ。
生クリームが添えられ、上にはミントの葉も置かれている。
ヒル魔の眉がキリキリとつり上がる。
「ヒル魔くん用に、特別に焼いたの」
虫も殺さぬような美しい笑みを浮かべた彼女に、ヒル魔は視線を向ける。
笑みに細められた瞳が、実は全く笑ってないと気づく人はどれくらいいるんだろうか、と。
余計な口を挟んだことを死ぬ程後悔しているセナを余所に、会話は続いていく。
「食べてみて。甘くないから」
「・・・ホー」
本来なら一瞥するなり『こんな糞甘ぇ代物喰えるか糞!!』とか言って銃で粉々にするか手を付けないか無視するヒル魔が、添えられていたフォークを手に取った。
「え」
まさか、と目を瞠るセナの目の前で、ヒル魔は自らそのケーキを口にした。
「・・・!」
そして、そのまま固まる。
「どう? お砂糖とお塩を入れ替えたケーキの味は」
ふふふ、と楽しそうに笑うまもりに構わず、ヒル魔は傍らに置いてあったコーヒーに口を付けて。
「・・・!!」
再び固まった。
その硬直具合がまるで良くできた人形のようにも見えて、これは何か悪い夢ではないか、とセナは思わず自らの頬をつねってしまった。
痛い。夢じゃない。
「どう? 判った?」
勝ち誇ったようなまもりの声に視線を向けると、彼女は別のカップにコーヒーを淹れて持ってきたところだった。
まだヒル魔が持ったままのカップを取り上げ、代わりにそれを握らせる。
「・・・」
口も開かず、じっと漆黒の水面を見る彼に、まもりは肩をすくめる。
「大丈夫よ、今度はお砂糖入れなかったから」
それを聞いて、恐る恐る、という風にヒル魔は口を付けた。
事実まもりの言葉通りだったのだろう、彼は一口目の後はすぐ半分程カップを空けた。
「お砂糖は偉大なのよ」
勝ち誇ったような声で胸を張るまもりをちらりと見たヒル魔は、無言のまま背後のセナに視線を向けた。
その顔が全くの無表情だったが、セナはすーっと血の気を失う。
「・・・わかり、ました」
「え? 何が?」
きょとんとするまもりの前で、青ざめ冷や汗を流すセナは頷き、後ずさって部室を飛び出した。
途端に響くのは鍵が掛かる音。
それにもセナは思わず首を竦めた。


その後窓から投げ出された件のケーキに近づいたケルベロスは。
「・・・ガッフォ」
呆れたように一声鳴いて、自らの小屋へと戻ったのだった。

***
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」という典型ですね。最初に悪かったのはヒル魔さんで間違いないでしょう。
砂糖と塩の逆転したケーキ、食べた人の話だと、「世界が一瞬で一回転するくらい衝撃的」だそうです。
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