旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
王城の文化祭を見に行き、巨大弓の謎がようやく解けて。
皆が一様にマスクを装着して強大な敵に立ち向かおうとするその後ろで。
まもりはカレンダーを見てひっそりと嘆息した。
11月24日。
この日は、まもりの十七歳の誕生日だ。
それが明日に迫っていた。
記念日の類が好きなまもりは、出来る限り部員達の誕生日を祝ってきた。
季節の行事なども欠かさず行っていたし、元来お祭り騒ぎが好きな性格なのだと自覚している。
それでも・・・自らのことだからか、なかなか誕生日の事は口に出来なかった。
(今は、それどころじゃないし)
因縁の対決と呼んでもいいだろう。
守りの王城対攻撃の泥門。
部員達は日中の騒ぎなどもう忘れたかのように練習に励んでいる。
(誕生日なら、来年だって再来年だってあるし)
十七歳という誕生日は一生に一度だが、そんなことを言えばどの年の誕生日だって一生に一度。
それでも生き続ける限り巡る誕生日と違って、このメンバーで挑めるクリスマスボウルは今年だけしかないのだ。
(今は、そんなこと言っていられないわ)
部員達のサポート、王城の戦力分析、出来る限りの作戦選び、試合の予測。
個々の部員達が表舞台で戦うのなら、まもりも舞台裏で戦わなければならない。
そうしてその戦いこそが勝利の礎になることだってある。
まもりは決意を満たした瞳で、きゅっと唇を引き結んだ。
そして11月24日。
あからさまに誕生日を公言しなかったまもりだが、アコと咲蘭を筆頭としたクラスメイトや、委員会の先輩後輩たちからのプレゼントやメッセージは次々と舞い込んだ。
「まもり、誕生日おめでとう!」
「姉崎先輩、これほんの気持ちです! おめでとうございます!」
あっという間に積み上がるプレゼントに、まもりは満面の笑みを浮かべて礼を述べる。
プレゼントはメッセージカードやお手製の雑貨に始まり、まもりの趣味を知ってかロケットベアーのグッズやシュークリーム、雁屋の商品券まであった。
「モテモテね、まもり」
「なんか悪い気がするわ」
もらってばっかりで、と僅かに眉尻を下げたまもりに、アコが苦笑し背を叩く。
「ばっかねえ! まもりがいつもいつもみんなにしてくれるいろんなことを考えたら少ないくらいよ!」
あまりの勢いに噎せるまもりの背を今度は咲蘭が優しく撫でる。
「そうそう。たまには貰う側に立ったってバチは当たらないわよ?」
大切そうにプレゼントをしまうまもりの周りに、アメフト部の面々はいない。
ちらりとアコや咲蘭が視線を向ければ、ヒル魔は全くまもりに興味がないように見えた。
相も変わらずパソコンに向かっていて、なぜだかマスク姿だ。
「ねえ、まもり。ヒル魔って風邪ひいたの?」
「え? ・・・ああ、あれ特訓なの」
「特訓?」
「濡れたマスクをしたまま日常生活をすると肺活量が鍛えられるみたいよ」
「へえ。口元が隠れてるだけでも大分印象変わるわね」
ひそひそと喋る三人の視界の隅で、ヒル魔が音もなく立ち上がる。
何か言われるのか、と身を固くした彼女らを尻目に、ヒル魔は足音もなく教室を出て行った。
そうして濡れマスクを装着した部員達の息苦しさにつられ、まもりまで息を止めそうな部活が終わり。
皆がよろよろと帰宅するのを見送り、いつも以上に気疲れしたまもりは部室の片付けを終える。
「ヒル魔くん、そろそろ帰ろう」
「おー」
ヒル魔の声もいつもよりくぐもっている。布越しの不明瞭な声を耳に、そういえば今日はコーヒーも所望されなかったな、とぼんやり考えながら手は淀みなく動く。
「大荷物だな」
「え? ああ、うん」
まもりはいつもの鞄の他に用意しておいたマイバッグを抱える。
保存の利かない食料品を詰め込んだそれは結構な重さになっている。
よいしょ、と声を掛けて担いだまもりにヒル魔は小さく舌打ちした。
「あっ」
まもりが何か言う前に、ヒル魔が強引にまもりの荷物を奪い取った。
「ちょ、ちょっと?!」
「糞甘臭ェな」
ぶらぶらと振った手から荷物が落ちそうで、まもりは眉を寄せる。
「落とさないでよ」
「どうすっかなァ」
ぶらぶらと振られる荷物、叩かれる軽口。
そこかしこに僅かに含まれた不機嫌さに、まもりは小首を傾げた。
「・・・ヒル魔くん、機嫌悪い?」
「こんな糞甘臭ェもん抱えて歩く奴の気が知れねぇだけだ」
「そんなに甘いモノばっかりじゃないわよ」
「現に糞シュークリームの箱が見えるが?」
「ヒル魔くんの前で食べてるわけじゃないし、いいでしょ」
常日頃から甘味嫌いを宣言しているヒル魔にとってはシュークリームという文字だけで害悪なのだろう。
それでもまもりの荷物を持って歩いて行くヒル魔に、まもりは違和感を拭えない。
「やっぱり機嫌悪くない? マスクとか、甘いモノのせいだけじゃなくて」
そういえば今日の教室で、ヒル魔はいつになく不機嫌だったと思い返す。
部活以外では殆ど接点のない二人だが、今日は周囲の生徒達が青ざめ胃の不調を訴えるくらいに威圧的な空気を振りまいていた。
目に余るからと注意しに行こうにも、ひっきりなしに訪れるプレゼントを渡す人達に阻まれ、部活に出るまではヒル魔と口を利く暇もなかったのだ。
そして部活に出れば不機嫌さを気にする余裕などなく。
「ベツニ」
ふん、と鼻を鳴らして手にしているまもりの荷物を振り回したヒル魔に、まもりはむっと眉を寄せた。
「丁寧に扱ってよ」
「人に持たせておいて何抜かす」
「勝手に持ってるんじゃない!」
じゃあ返してよ、と手を出しても荷物は戻ってこない。
一体何でこんなに不機嫌なのだ、とまもりは思い返すが訳が分からない。
今日はまもりの誕生日なのだ。
祝って欲しいという一言は勿論、誕生日だという事も部員達には言っていない。
誕生日を理由に不機嫌になるなとは言えないが、よりにもよって今日不機嫌にならなくてもいいではないか、と恨み言を言いたくもなる。
「・・・なよ」
「え?」
低い呟きはマスクにくぐもって聞き取りづらい。
じろ、とヒル魔はまもりを睨め付けた。
「後になって言うんじゃねえぞ」
「何を、よ」
「今日のことだ」
「? ヒル魔くんが不機嫌だったこと?」
チッ、と舌打ちが響く。
そうして、ヒル魔が散々乱暴に扱っていたまもりの荷物がようやく彼女の手に戻ってきた。
「わっ、わわっ」
「糞甘え下手め」
苦々しい声でバーカ、と付け加えてヒル魔はすたすたと歩き去って行く。
「ちょ・・・っ」
あまりの言われように言い返そうと思ったが。
「ああ、まもり! やっと帰ってきたわね!」
「え、お母さん?!」
焦った母の声に振り返ればそこは自宅。
いつの間にやら自宅まで送り届けられていたらしい。
「まもり、早く中に!」
「え? え?」
いつもてきぱきと家事をこなし、どちらかと言えば鷹揚な母親の取り乱しようにまもりは訳も分からず室内に引き込まれる。
「・・・わ・・・!!」
そうして、家中に溢れていたのは。
「ど、どうしたの!? このお花!!」
沢山の花が所狭しと置かれている。
「それがねえ・・・最初、お花のお届け物です、って言うから戸を開けたんだけど」
困惑しきりの母親によれば。
扉を開けるなり、花屋とは似つかわしくない容貌の男達が花を大量に抱えて入ってきたのだという。
勝手に入るなんて、と思ったが全員青ざめた顔で黙々と花を運び続けていて、その悲壮さに声を掛けることさえままならず。
気づけば家中に花が溢れかえったのだという。
「何それ?! 新手の泥棒とかじゃないの?!」
「ううん。ただこの花だけどばーっと置いていっただけよ」
どばーっと、と繰り返す母親は困惑した様子で花を見回している。
大量の花。アレンジメントあり、花束あり、鉢植えあり・・・ありとあらゆる形態の花がそこにある。
「まもりのお友達からかしら、と思ったんだけど・・・」
「私?」
「ほら、あなた今日誕生日でしょう?」
他に心当たりがないのよ、と言われてまもりは考え込む。
「誕生日だからってこんなこと、・・・」
ぴた、とまもりは動きを止めた。
一日中不機嫌だったヒル魔。帰り道でのよく分からない行動。
そうして、最後に交わした会話。
あれは、もしかして。
「思い当たる節があるの?」
「・・・うん、まあ」
「それは、大丈夫なの?」
変な関係じゃないでしょうね、と眉を寄せる母にまもりはぎこちなく笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫、変な関係じゃないわ」
「そう?」
ただし、とまもりは内心で付け加えた。
(相手は悪魔だけど、ね)
翌朝。
強烈すぎる花の匂いでよく眠れなかった、と欠伸をしながら学校に向かうまもりの背後に人影が立つ。
「ヒル魔くん?」
振り返れば見慣れた逆立つ金髪。また口元はマスクで覆われている。
「おー」
「おはよう。あの、昨日」
途端。ヒル魔の大きな手が、まもりの口を覆った。
「むぐ!?」
「テメェは記憶力ねぇのか」
何が、と口を動かしても聞こえるはずもない。
「後で言うな、っつったろ」
「・・・」
考え込んだまもりの口から手が離れる。
「昨日の事って」
「全部」
まもりの言わんとすることを全て先に奪い取って、ヒル魔はすたすたと歩いて行く。
その足取りが昨日と打って変わって上機嫌なのを見て、まもりはふ、と唇を綻ばせた。
今年の誕生日、部員達に祝って貰えないのは仕方ないことだと諦めていた。
毎年誕生日を祝ってくれるセナも余裕などなく、誰もがすっかり忘れていたようだし、わざわざ蒸し返す気もなかった。
それでも、ヒル魔だけは覚えていたか気づいたかして、まもりの誕生日を、多分彼なりに祝ってくれた。
そうしてまもりに気負わせないよう、判りづらく言葉を封じて。
至極嬉しそうに笑うまもりに、ヒル魔はちらりと視線を向けただけ。
けれどそのマスクの下、きっと口角は上がっていることだろう。
「ヒル魔くん、ありがとう」
「ナニガ」
ぴん、と片眉を上げるヒル魔に、まもりはただ笑って、なんでもないと続けた。
そうして、この出来事を踏まえて。
白秋高校から贈られた花を見たとき、まもりはヒル魔の仕業だと思い込んだのだった。
***
まもりちゃんお誕生日おめでとう!
原作の流れでいったら、17歳の誕生日は祝って貰えなかったというか、そういうことを言い出せない雰囲気だったのでは・・・とか色々考えていたらふっと出来上がった話。白秋の花を見たときにヒル魔くんじゃないの、と言ってたまもりちゃんの発言も鳥なりに解釈しました。お花って貰うと嬉しいですよね。でも常識の範疇を越えてますってヒル魔さん!
皆が一様にマスクを装着して強大な敵に立ち向かおうとするその後ろで。
まもりはカレンダーを見てひっそりと嘆息した。
11月24日。
この日は、まもりの十七歳の誕生日だ。
それが明日に迫っていた。
記念日の類が好きなまもりは、出来る限り部員達の誕生日を祝ってきた。
季節の行事なども欠かさず行っていたし、元来お祭り騒ぎが好きな性格なのだと自覚している。
それでも・・・自らのことだからか、なかなか誕生日の事は口に出来なかった。
(今は、それどころじゃないし)
因縁の対決と呼んでもいいだろう。
守りの王城対攻撃の泥門。
部員達は日中の騒ぎなどもう忘れたかのように練習に励んでいる。
(誕生日なら、来年だって再来年だってあるし)
十七歳という誕生日は一生に一度だが、そんなことを言えばどの年の誕生日だって一生に一度。
それでも生き続ける限り巡る誕生日と違って、このメンバーで挑めるクリスマスボウルは今年だけしかないのだ。
(今は、そんなこと言っていられないわ)
部員達のサポート、王城の戦力分析、出来る限りの作戦選び、試合の予測。
個々の部員達が表舞台で戦うのなら、まもりも舞台裏で戦わなければならない。
そうしてその戦いこそが勝利の礎になることだってある。
まもりは決意を満たした瞳で、きゅっと唇を引き結んだ。
そして11月24日。
あからさまに誕生日を公言しなかったまもりだが、アコと咲蘭を筆頭としたクラスメイトや、委員会の先輩後輩たちからのプレゼントやメッセージは次々と舞い込んだ。
「まもり、誕生日おめでとう!」
「姉崎先輩、これほんの気持ちです! おめでとうございます!」
あっという間に積み上がるプレゼントに、まもりは満面の笑みを浮かべて礼を述べる。
プレゼントはメッセージカードやお手製の雑貨に始まり、まもりの趣味を知ってかロケットベアーのグッズやシュークリーム、雁屋の商品券まであった。
「モテモテね、まもり」
「なんか悪い気がするわ」
もらってばっかりで、と僅かに眉尻を下げたまもりに、アコが苦笑し背を叩く。
「ばっかねえ! まもりがいつもいつもみんなにしてくれるいろんなことを考えたら少ないくらいよ!」
あまりの勢いに噎せるまもりの背を今度は咲蘭が優しく撫でる。
「そうそう。たまには貰う側に立ったってバチは当たらないわよ?」
大切そうにプレゼントをしまうまもりの周りに、アメフト部の面々はいない。
ちらりとアコや咲蘭が視線を向ければ、ヒル魔は全くまもりに興味がないように見えた。
相も変わらずパソコンに向かっていて、なぜだかマスク姿だ。
「ねえ、まもり。ヒル魔って風邪ひいたの?」
「え? ・・・ああ、あれ特訓なの」
「特訓?」
「濡れたマスクをしたまま日常生活をすると肺活量が鍛えられるみたいよ」
「へえ。口元が隠れてるだけでも大分印象変わるわね」
ひそひそと喋る三人の視界の隅で、ヒル魔が音もなく立ち上がる。
何か言われるのか、と身を固くした彼女らを尻目に、ヒル魔は足音もなく教室を出て行った。
そうして濡れマスクを装着した部員達の息苦しさにつられ、まもりまで息を止めそうな部活が終わり。
皆がよろよろと帰宅するのを見送り、いつも以上に気疲れしたまもりは部室の片付けを終える。
「ヒル魔くん、そろそろ帰ろう」
「おー」
ヒル魔の声もいつもよりくぐもっている。布越しの不明瞭な声を耳に、そういえば今日はコーヒーも所望されなかったな、とぼんやり考えながら手は淀みなく動く。
「大荷物だな」
「え? ああ、うん」
まもりはいつもの鞄の他に用意しておいたマイバッグを抱える。
保存の利かない食料品を詰め込んだそれは結構な重さになっている。
よいしょ、と声を掛けて担いだまもりにヒル魔は小さく舌打ちした。
「あっ」
まもりが何か言う前に、ヒル魔が強引にまもりの荷物を奪い取った。
「ちょ、ちょっと?!」
「糞甘臭ェな」
ぶらぶらと振った手から荷物が落ちそうで、まもりは眉を寄せる。
「落とさないでよ」
「どうすっかなァ」
ぶらぶらと振られる荷物、叩かれる軽口。
そこかしこに僅かに含まれた不機嫌さに、まもりは小首を傾げた。
「・・・ヒル魔くん、機嫌悪い?」
「こんな糞甘臭ェもん抱えて歩く奴の気が知れねぇだけだ」
「そんなに甘いモノばっかりじゃないわよ」
「現に糞シュークリームの箱が見えるが?」
「ヒル魔くんの前で食べてるわけじゃないし、いいでしょ」
常日頃から甘味嫌いを宣言しているヒル魔にとってはシュークリームという文字だけで害悪なのだろう。
それでもまもりの荷物を持って歩いて行くヒル魔に、まもりは違和感を拭えない。
「やっぱり機嫌悪くない? マスクとか、甘いモノのせいだけじゃなくて」
そういえば今日の教室で、ヒル魔はいつになく不機嫌だったと思い返す。
部活以外では殆ど接点のない二人だが、今日は周囲の生徒達が青ざめ胃の不調を訴えるくらいに威圧的な空気を振りまいていた。
目に余るからと注意しに行こうにも、ひっきりなしに訪れるプレゼントを渡す人達に阻まれ、部活に出るまではヒル魔と口を利く暇もなかったのだ。
そして部活に出れば不機嫌さを気にする余裕などなく。
「ベツニ」
ふん、と鼻を鳴らして手にしているまもりの荷物を振り回したヒル魔に、まもりはむっと眉を寄せた。
「丁寧に扱ってよ」
「人に持たせておいて何抜かす」
「勝手に持ってるんじゃない!」
じゃあ返してよ、と手を出しても荷物は戻ってこない。
一体何でこんなに不機嫌なのだ、とまもりは思い返すが訳が分からない。
今日はまもりの誕生日なのだ。
祝って欲しいという一言は勿論、誕生日だという事も部員達には言っていない。
誕生日を理由に不機嫌になるなとは言えないが、よりにもよって今日不機嫌にならなくてもいいではないか、と恨み言を言いたくもなる。
「・・・なよ」
「え?」
低い呟きはマスクにくぐもって聞き取りづらい。
じろ、とヒル魔はまもりを睨め付けた。
「後になって言うんじゃねえぞ」
「何を、よ」
「今日のことだ」
「? ヒル魔くんが不機嫌だったこと?」
チッ、と舌打ちが響く。
そうして、ヒル魔が散々乱暴に扱っていたまもりの荷物がようやく彼女の手に戻ってきた。
「わっ、わわっ」
「糞甘え下手め」
苦々しい声でバーカ、と付け加えてヒル魔はすたすたと歩き去って行く。
「ちょ・・・っ」
あまりの言われように言い返そうと思ったが。
「ああ、まもり! やっと帰ってきたわね!」
「え、お母さん?!」
焦った母の声に振り返ればそこは自宅。
いつの間にやら自宅まで送り届けられていたらしい。
「まもり、早く中に!」
「え? え?」
いつもてきぱきと家事をこなし、どちらかと言えば鷹揚な母親の取り乱しようにまもりは訳も分からず室内に引き込まれる。
「・・・わ・・・!!」
そうして、家中に溢れていたのは。
「ど、どうしたの!? このお花!!」
沢山の花が所狭しと置かれている。
「それがねえ・・・最初、お花のお届け物です、って言うから戸を開けたんだけど」
困惑しきりの母親によれば。
扉を開けるなり、花屋とは似つかわしくない容貌の男達が花を大量に抱えて入ってきたのだという。
勝手に入るなんて、と思ったが全員青ざめた顔で黙々と花を運び続けていて、その悲壮さに声を掛けることさえままならず。
気づけば家中に花が溢れかえったのだという。
「何それ?! 新手の泥棒とかじゃないの?!」
「ううん。ただこの花だけどばーっと置いていっただけよ」
どばーっと、と繰り返す母親は困惑した様子で花を見回している。
大量の花。アレンジメントあり、花束あり、鉢植えあり・・・ありとあらゆる形態の花がそこにある。
「まもりのお友達からかしら、と思ったんだけど・・・」
「私?」
「ほら、あなた今日誕生日でしょう?」
他に心当たりがないのよ、と言われてまもりは考え込む。
「誕生日だからってこんなこと、・・・」
ぴた、とまもりは動きを止めた。
一日中不機嫌だったヒル魔。帰り道でのよく分からない行動。
そうして、最後に交わした会話。
あれは、もしかして。
「思い当たる節があるの?」
「・・・うん、まあ」
「それは、大丈夫なの?」
変な関係じゃないでしょうね、と眉を寄せる母にまもりはぎこちなく笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫、変な関係じゃないわ」
「そう?」
ただし、とまもりは内心で付け加えた。
(相手は悪魔だけど、ね)
翌朝。
強烈すぎる花の匂いでよく眠れなかった、と欠伸をしながら学校に向かうまもりの背後に人影が立つ。
「ヒル魔くん?」
振り返れば見慣れた逆立つ金髪。また口元はマスクで覆われている。
「おー」
「おはよう。あの、昨日」
途端。ヒル魔の大きな手が、まもりの口を覆った。
「むぐ!?」
「テメェは記憶力ねぇのか」
何が、と口を動かしても聞こえるはずもない。
「後で言うな、っつったろ」
「・・・」
考え込んだまもりの口から手が離れる。
「昨日の事って」
「全部」
まもりの言わんとすることを全て先に奪い取って、ヒル魔はすたすたと歩いて行く。
その足取りが昨日と打って変わって上機嫌なのを見て、まもりはふ、と唇を綻ばせた。
今年の誕生日、部員達に祝って貰えないのは仕方ないことだと諦めていた。
毎年誕生日を祝ってくれるセナも余裕などなく、誰もがすっかり忘れていたようだし、わざわざ蒸し返す気もなかった。
それでも、ヒル魔だけは覚えていたか気づいたかして、まもりの誕生日を、多分彼なりに祝ってくれた。
そうしてまもりに気負わせないよう、判りづらく言葉を封じて。
至極嬉しそうに笑うまもりに、ヒル魔はちらりと視線を向けただけ。
けれどそのマスクの下、きっと口角は上がっていることだろう。
「ヒル魔くん、ありがとう」
「ナニガ」
ぴん、と片眉を上げるヒル魔に、まもりはただ笑って、なんでもないと続けた。
そうして、この出来事を踏まえて。
白秋高校から贈られた花を見たとき、まもりはヒル魔の仕業だと思い込んだのだった。
***
まもりちゃんお誕生日おめでとう!
原作の流れでいったら、17歳の誕生日は祝って貰えなかったというか、そういうことを言い出せない雰囲気だったのでは・・・とか色々考えていたらふっと出来上がった話。白秋の花を見たときにヒル魔くんじゃないの、と言ってたまもりちゃんの発言も鳥なりに解釈しました。お花って貰うと嬉しいですよね。でも常識の範疇を越えてますってヒル魔さん!
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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