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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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heartburn(5)/完結

+ + + + + + + + + +
その時、たき火の明かりがかすかに照らす辺りを動く人影。
「・・・護?」
そっと妖介の背後から近寄る影。
「ていっ!!」
派手な水音と共に、ガランと金属音を立ててバケツが転がる。
「っっっっっつ、冷てぇええ!!」
バケツ一杯にくんできた川の水を妖介に頭から浴びせたのだ。
川の水は冷たく、更に不意打ちで驚きは倍増。
悲鳴を上げて怯んだ妖介の脳天に、ヒル魔の拳骨が炸裂した。
「イッ・・・!」
頭を抱えて妖介はその場にしゃがみ込んだ。
「この糞阿呆が!!」
「・・・え?」
ぱち、と瞬いて妖介はその場の皆を見渡す。
幸い、一気に酔いが覚めたようだ。
「・・・なに、どうしたの? みんななんか怖い顔してるけど」
きょとんとした顔に、全員がため息と共に肩の力を抜く。
「兄ちゃん、それ飲んだでしょ」
「え?」
護に先ほど飲み干した缶を指さされ、妖介は小首を傾げる。
「ジュースじゃないの?」
「よく見ろ。酒だ」
「・・・え」
さあっと彼の顔色がなくなった。
酒癖が悪いというのは本人の記憶にないにしろ、周囲から散々言われていて気をつけていたつもりだったのに。
うっかり暗くてジュースと見間違えてしまったのだ、と気づいたようだ。
「ご、ごめんなさい! 暗くて見間違えました!!」
「酒の味しただろーが」
「や、あんまり・・・甘かったから気づかなくて」
申し訳なさそうにしゅんと小さくなる様はまもりにそっくりだ。
まもりはほっと安堵の息をつき、あかりに乾いたタオルを手渡した。
「妖兄~」
まもりに指示され、あかりがタオルを手に近寄る。
大丈夫? 痛くない? と心配そうに頭を撫でられて妖介は苦笑する。
「ありがと、あかり。・・・ふぇっくしょん!!」
「ああ、ほらたき火に当たりなさい。なんなら温泉に入ってくる?」
「そうする。うう、寒・・・っ」
近寄ってきたまもりの言葉に頷き、妖介は震えながら着替えを取りにコテージへ向かう。
「さて。〆に何か作ろうかしら。何食べたい?」
「もう散々食ったから必要ねぇよ。なあ、あかり」
「あかり、アイス食べたい」
「後でな」
「そう? ムサシくんは足りた?」
「ああ。アヤと護は?」
「私も大丈夫」
「僕もアイス食べたいかな」
じゃあ温泉に入りに行くか、というヒル魔の一言で火の始末をし、全員が立ち上がった。



「明日はアスレチックで勝負しよ!」
風呂上がり、コテージに戻る道すがら名案とばかり提案した妖介の言葉に。
「誰と。僕やだ」
「誰と。私やだ」
護とアヤが同じようにすぱっと断る。
「冷たい二人とも!!」
酷いよ-、と騒ぐ妖介にあかりが近寄ってその手を握る。
「じゃあ、あかりがしょうぶするー」
にっこりと笑うあかりに妖介は何とも言えず微妙な顔になった。
その顔を見て護とアヤが吹き出す。
「あかりが相手ならいいじゃないか」
「うん、がんばる!」
「いやあいい勝負が見られそうだな」
「・・・これっぽっちも心のこもらない感想ありがとう」
せっかく全力で暴れられると思ったのに、と言いたげな妖介の背中をヒル魔が蹴り飛ばす。
「しっかり勝負しろよ」
「父さんまで・・・んもう」
みんな人任せなんだから、などとぶつぶつ言いながらもあかりを無下にすることはない。
流石にあの年で子供相手にムキになるような大人げない事はしないのだろう。
ちらり、と隣を伺えば賑やかな家族を穏やかな顔で見守るまもりの姿。
「どうしたの、ムサシくん」
視線が合うと実に幸せそうに笑う。
ああ、幸せという言葉が形になったらこんな風になるのか、と。
そんな事を考えていたら。
「姉崎」
「うん? どうしたの?」
ぐい、と姉崎との間に割り込むようにヒル魔が近寄った。
しかも腕にはあかりを抱いて。
じろりとこちらに物言いたげな視線を投げつけて。
思わず緩みそうになる口元を掌で覆う。
「厳さん」
アヤが呼ぶので、そちらに足を向ける。
するりと絡む白い腕。
背後がどうなっているのかは、こちらの奥を見て呆れたような息子二人の顔を見れば言わずと知れた。


皆がコテージに戻った後、念のためと先程始末した火の元に向かう。
ところが、消したはずの火が燃えていた。
不審に思って近寄ると、傍らに座って火を見る人影。
「・・・お前か」
「おう」
ヒル魔はひょいと相変わらずのコントロールでビールを投げた。
ビールを投げるな、と言ったところで聞きやしねぇんだろうな。
多少吹きこぼれるのには目を瞑ってプルタブを引き上げる。
「相変わらずお前の家族は賑やかだな」
「おー」
けれど決して煩いとは言わないのだ、この男は。
話すことがないわけじゃない。だが、この場で矢継ぎ早に話すような空気でもない。
火がぱちぱちとはじける様を見ているだけで、言葉はなくとも落ち着いた気分になる。
「アヤは」
「ん?」
「変わりねぇか」
「ああ」
そうか、と。
父親の顔で、ヒル魔は一つ息を吐いた。
千里眼なのでは、と疑うほど人のことを見抜くヒル魔なら本当に大丈夫かどうかは一目瞭然だろう。
それでも親心では尋ねたくなるのだろうか。
「テメェ、何ニヤついてやがる」
「ん? そう見えたか」
けれどそれ以上追求するわけでもない。
他愛ない会話をぽつりぽつりと零しては沈黙する、その繰り返し。
ただ炎の揺らめきを見つめ、夜は更けていく。



翌朝、満面の笑みを浮かべてカブトムシやらクワガタムシやらを沢山捕まえてきた護とあかり。
引きつり悲鳴を上げて逃げたまもりを余所に、あかりは会心の笑みを浮かべてヒル魔に駆け寄った。
「お父さんにプレゼントしたかったの!」
「そーか」
ヒル魔がこれ以上ない甘い顔(多分そうだろう)を見せた瞬間をうっかり目撃してしまい。
「・・・うぇ」
「げ、厳さん?!」
しばらく妙な物を食った後みたいに気分が優れなかったのは、アヤには内緒だったりする。

***
mochiko様リクエスト『ヒルまも一家、ムサシとアヤ』+かぐや様リクエスト『ひるまも一家の家族旅行やお出かけ』+公子様リクエスト『ヒルまも一家、あかりを溺愛するヒル魔の姿を見たメンバー』でした。かなり無理矢理な感じですみません・・・。でも楽しく書きました。視点をムサシさんにすると一人称が出てこないという不思議な病(?)が発症するのが唯一の難点でした。
あかり溺愛については本当におまけみたいな形になってしまったので、後で別のリクエストと一緒に溺愛っぷりを書きたいと思います!
リクエストありがとうございましたーw
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