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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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heartburn(1)

(ヒルまも一家)
※『天使育成計画』のあたり
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
連日連夜の暑さにそろそろ精神的に参りそうだ、と。
ぼやきというよりは呟きに近かった・・・と思いたい愚痴をこぼした翌朝、久しぶりの連休。
「厳さん」
呼ぶのはアヤ。眠気がまだ残る瞼を無理矢理上げて見れば、ふんわりと笑ってこちらを伺っている。
「おはようございます。朝ですよ」
「・・・ああ。おはよう」
仕事柄、朝は早いし休みでも遅くまで寝ることはない。
それでももう少し寝ていたかったな、という顔をしたのが判ったのかアヤが僅かに眉を下げた。
「お疲れですね。もうちょっと寝てた方がよかったですか?」
「いや。そんなに寝てられん」
頭を掻きながら洗面台に向かい、こざっぱりして出てきた時には朝食の準備が出来ている。
お袋が健在だった頃には台所一切を取り仕切っていたが、今は彼女の独壇場だ。
食卓につくと慣れたタイミングでアヤが箸を差し出した。
「今日も暑そうですね」
「そうだな」
窓からは暑さを感じさせる強烈な日差しが送り込まれている。
雨が降れば建設現場は基本的に休める。だが、この夏は雨が殆ど降らず、夕立すら稀で工事がはかどりすぎる。
酷暑と呼ばれるほどの気温だから無理はしないようにしていても、だ。
体力がある連中だから過信しすぎることも多々あり、昨日は一人熱中症で倒れた。
幸い軽症だったが全員が夏疲労で限界だと見て取って、会社全体で今日明日と連休にした。
突然の連休を昨日告げられたアヤはきょとんとしていた。
ちらりと味噌汁を啜る彼女を見れば、いつも通り端正な顔立ちをしている。
見られているのに気づいたのだろう、アヤは笑みを浮かべて小首を傾げる。
「どうしました?」
「いや。今日はどうしようかと考えてた」
「どう?」
「どこか出かけたいとかないか?」
困ったように俯いたアヤに内心やっぱりな、と思いつつ思考を巡らせる。
アヤはあまり人出のあるところの外出を好まない。
アメフトの試合くらいなら見に行くが、基本的にインドア派なのだ。
若い娘―――実際まだ二十歳だ―――の割に、海外旅行やアミューズメントパークよりも温泉が好きだ。
それもひなびた温泉街だと、なおいい。そう告げると誰もが驚く。
見た目に日本人離れした美人で迫力があり、性格も物怖じしないから社交的だと思われがちで、そのギャップに皆戸惑うらしい。
実際職場の旅行に同伴したときもかなり気疲れしていた。
つらつらと色々考えていて、アヤが何か言いたげなのに気づくのが遅れた。
「あの」
「ん?」
視線を向ければ、困ったような顔をしたアヤだ。
「実は、昨日厳さんが言ってたことなんですけど」
一体アヤが何をさして言っているのか判らず、まじまじとアヤを見つめる。
「・・・ほら、毎日暑くて仕方ないって」
「ああ」
だが、それがそんな顔をさせる理由になるだろうか。
「俺が暑いから涼しいところに行きたいっていう訳じゃ」
「ないですよね」
そこでため息。
実は出かけたいのかとも思う。けれどアヤの顔は希望があるときの表情ではない。
夫婦なのだし、アヤとてしたいことがあれば躊躇いがちにでも口にする。
本気で何か、困ったことがあるかのような表情。
「何かあるのか」
「何か・・・というか・・・」
アヤはかなり逡巡した後、顔を上げた。
「何気ない話のつもりだったんですけど、昨日母と電話で話していてつい言っちゃったんです」
「何を」
「厳さんが明日から突発の連休だということと、暑くて仕方ないって言っていた、と」
「・・・それが何か不味いのか?」
そこまでアヤが困ったようになるのが本気で判らない。
アヤは冷蔵庫からよく冷えた麦茶をグラスに注いで差し出してきた。
「母に言ってしまったんです」
大事なことなので二回言いました、という顔でアヤは続けた。
「母に言ったことは、父の耳にも入ります」
「・・・」
その瞬間に思い至り、手にした麦茶のグラスを危うく取り落としそうになった。
特徴的なシルエットが脳裏に浮かぶ。
「だが、今あいつは泥門でアメフト部のコーチをやってるんだろう。そうだ、護だって」
家族全員が揃うのは無理だろう、と言ったがアヤは首を振る。
「あんまり暑いので、部活動も制限されていて護も父も今週末は家にいるんです」
しかも、と続ける。
「母も昨日、毎日あかりと一緒に出かけるのは大変だと零していました」
ということは、だ。
「・・・来るな」
「・・・ええ」
まだ早朝で時間はある。だが、いつ襲撃があってもおかしくない。
アヤは壊滅的に片付けがヘタなので、それだけは自分の仕事と割り切ってやっている掃除だけはしておきたいと思って時計を見る。
「とりあえずざっと片付けだけはやっちまおう。皿だけシンクに置いておいてくれ」
「はい。着替えを出してきますね」
そうと決めたなら、身軽に立ち上がり、それぞれの仕事に着手する。
果たしてその一時間後。
二人の読み通り、ヒル魔が運転するワゴン車が自宅前に止まった。

<続>
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