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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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under the rose(下)

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「・・・くん、十文字くん」
「・・・?」
耳を擽る柔らかい声。ぼんやりとその声に引かれて瞼を上げる。
なんでこんなに頭が重いんだ、くそ。
「大丈夫?」
心配そうに覗き込むのは緑掛かった青い瞳。
天井と蛍光灯とが目に入った。
そして額に冷たい感触。
「おでこにぶつけた跡があったから冷やしてみたんだけど、痛くない?」
「ぶつけた・・・」
自分でも、なんだか随分ともったりしたしゃべり方になってんな、と考えた。
「ったく、何転けてんだよ」
糞鈍臭ェな、と呆れたような口調で覗き込んできたもう一つの顔。
同時に額を突かれ、響いた痛みに飛び上がった。
「! 痛ッ」
「んもう! ヒル魔くん、十文字くんは怪我人よ!」
触らないの、と怒るマネージャーの声を聞いてもヒル魔はケケケとあの特徴的な声で笑うばかり。
「俺、なんで倒れて」
「私が部室に戻ったら十文字くんが転んでて、てっきりヒル魔くんが何かしでかしたのかと思ったんだけど」
「単に糞長男の注意力不足だ」
「足下に段ボール箱があったのよ。お花が贈られてきたときの。それに引っかかったみたいよ」
そう言われて俺はそうなのか、とぼんやり納得した。
「糞次男と糞三男がもうすぐ来る」
ヒル魔が携帯を閉じてそう告げる。どうやらわざわざ迎えを呼んでくれたらしい。
悪魔らしからぬ気遣いだ。
そもそもどうして俺が戸叶や黒木と別れてここにいるのか。
忘れ物。そう、忘れ物を取りに来た。
そしたら部室にヒル魔が残っていて、・・・。
不意に頭の中に靄が掛かる。目の前が白くなるのではない。
記憶の一部が、急に混濁したのだ。
次の記憶は、次に目が覚めたとき。
―――さっき、一体、何が起きた?
「ちゃーす! 十文字ィ、生きてる?」
「カカカ! 転んで気ィ失うなんてなあ」
考え込む俺の耳に、聞き慣れた二人の声が響く。
「なんか顔色悪ィなあ。そんなに今日の練習きつかったかァ?」
「立てるか? 掴まるか?」
「・・・ああ、立てる」
立ち上がった瞬間、ぐらりと頭が揺れたがどうにか持ち直した。
「気をつけてね」
マネージャーがしきりに心配しているのを、糞小学生じゃねぇんだぞ、とからかうヒル魔の声。
何かがおかしい。
けれど何がおかしいかが判らない。
妙な感覚が抜けきらないまま、俺は二人に挟まれるようにしてよろよろと帰路に就いた。



三兄弟が立ち去った後、まもりはふっと肩の力を抜いた。
「・・・危なかった・・・」
はあ、と嘆息したまもりにヒル魔は冷たい視線を送る。
「吸い過ぎただろ、テメェ」
あからさまに十文字は貧血を起こしていた。
血の気の多い男だからすぐ回復するだろうけれど。
「適量だと思ったんだけど」
記憶操作も普段からやってないからダメね、と肩をすくめる軽い仕草にヒル魔は舌打ちする。
「されてたまるか」
それにまもりは艶然と微笑む。普段は青い瞳が緑に瞬き、きらりと牙が光った。

姉崎まもりと名乗っているこの女。
こいつが吸血鬼だと知ったのはそう前のことではない。
色々と囁かれている伝承とはほど遠く、日の光も十字架も大蒜も流れ水もこいつを止めることは出来ない。
ただ、薔薇だけ。
それにだけは、触れない。

「記憶操作しようとしても出来ないんだもの。ヒル魔くんも大概、精神力が尋常じゃないわよね」
ヒル魔がちらりと見やったゴミ箱の中に、粉々になった茶色い薔薇。
精気を吸われた哀れな花の末路。
普段であればヒル魔が触れても枯れることはない。
今回ヒル魔が触れたことで枯れたのは、彼がまもりに血を吸われた直後だったからだ。
多少なりとも影響が出て、血を吸われた後はやはり身体が思うように動かず、思考も鈍くなる。
まさか薔薇が枯れるとは思わず、あの時十文字に対して表情を作ることさえ出来なかった。
「お褒めに預かり光栄デス」
椅子に座ったヒル魔の隣に、まもりも座る。
そうして彼の方に身を乗り出した。
「吸血鬼の力が欲しいと思わない?」
緑の瞳が柔らかく細められる。
「怪我をしても一瞬で治る。病気にも掛からないし、飛躍的に身体能力が上がる。それに」
慈愛の表情で、悪魔の言葉を口にする。
「永遠に、若いままで生きられる」
誰しもが求める永遠への誘惑。
ヒル魔は鼻で笑った。
「断る」
緑の瞳が楽しそうに笑う。
この女が存在するためにどれだけの血が、精気が奪われたことだろう。
先程の、怯えて逃げようとした十文字の首筋にまもりが食らいついた光景を思い出す。
仕方がないことだとは言え、正直なところ気分が悪かった。
もし、ヒル魔が吸血鬼になったなら、彼はもう獲物ではなくなる。
まもりがこうやって執拗にヒル魔に誘惑を仕掛けることもなくなる。
そんなヒル魔の心を読み取ったように、まもりは口角をつり上げる。
「べつに」
血のように赤い唇から零れる甘い声。
「私は、薔薇だけでもいいのよ」
アナタヲテニイレルコトガデキルナラ。

ぞっとするほど美しい女の誘惑を前に、それでもヒル魔はにやにやと笑うだけだった。


***
吸血鬼の話が書きたくなったのですが、ヒル魔さんが吸血鬼じゃまんまなのでちょっと捻りました。
あー楽しかった!
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