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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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under the rose(上)

(ヒルまもパロ)
※遅ればせながらハロウィンにちなんで。


+ + + + + + + + + +
尖った耳、つり上がった眦。
鋭い牙が覗く口は常に笑みの形。
そんな男を初めて見たときの感想は悪魔、それだけだった。
実際に部活に強制的に入れられて強制的に練習させられている段階でもその認識は変わらなかった。
蛭魔妖一は正真正銘、悪魔だと信じて疑わなかった。

それがいつの間にか仲良くアメリカ合宿という名のデス・マーチなんざやっちまって、気がつけばトガと黒木共々部活に熱中して大会を勝ち抜くようになっちまった。
中学までの俺しか知らない奴は、今の俺を見たら絶対驚くだろう。
自分で言うのも何だが、青春しちまってるからな。
そんな中、俺のヒル魔認識は悪魔と人間が半々くらいになった。
とりあえず悪魔はあんなに汗だくになって走り回らねぇだろう。
それでも考え方とか時々とんでもねぇから、やっぱりあいつ悪魔だと思うことはなくならねぇ。

それでもまあ、頭のどこかで思ってたんだよ。
どれだけ常識外れでも、どれだけ悪魔じみてても、人間には違いねぇだろって。

「・・・」

たった今。
目の前で、あいつが触った薔薇が、まるで早送りの動画見てるみてぇに、あっという間に枯れるのを見るまでは。


ヒル魔が薔薇なんて触る機会、まずねぇだろ。
基本花なんぞとは対極にある泥臭いアメフト部だぞ。
たまにマネージャーが気を遣って花を飾るくらいのことはしてもいいが、それをわざわざ触る男じゃねぇ。
だから今まで誰も気づかなかったんだ。
白秋の野郎が、なぜだかあんなに大量の花を寄越した。
部室の床といい壁といい、とんでもない量の花が積み上げられ、マネージャーの機転により招集された女子生徒達がくるまでは本当に花臭い地獄の部室だった。それでも一つくらいはカワイイから取っておこうね、なんてどっちが可愛いのか判らない言葉を呟きながらマネージャーが花籠を一つテーブルに置いていた。
そうだ、その花。
その中に紛れていた薔薇。真っ赤な、血のようなそれの花びらにあの悪魔の指が触れたのだ。

そのとき部室にいたのは、なぜだか俺とヒル魔の二人だけだった。
だからこそ、余計に今見たものが現実かどうかが判らなくなった。
まず普段、二人になることがない。今日に限ってたまたま部室に忘れ物をしたから取りに戻ったんだった。
そうしたらヒル魔がパソコンを閉じるところだった。
どうやら帰るつもりらしい。タイミングがいいんだか悪いんだか。
「・・・忘れ物」
「糞粗忽者」
視線を上げもせずすぱっと言われて肩をすくめる。
殆ど憎まれ口で出来ているヒル魔の言葉だが、今のは当たっているので怒る場面ではない。
俺は自分のロッカーを覗き込む。やっぱりここだった、と内心呟きながら携帯電話を拾い上げて振り返った。
別に俺は狙って振り返った訳じゃねぇし、ヒル魔も立ち上がって机にあったパソコンを取ろうとしただけだったんだ。
その時だ。
あいつの指が薔薇に触れたのは。

吸血鬼の伝説。
大蒜が苦手とか、鏡に映らねぇとか、流れ水を渡れねぇとか、日の光が苦手とか、色々あるだろ。
もう一つある。
吸血鬼は、薔薇に触れねぇんだ。
触ると枯れちまうから。

俺は無意識に後退った。
何か、頭は冷静に見たことを処理しているのに、感情が伴わない。
ヒル魔は無表情にこちらを見ている。
笑いもせず、怒りもせず、まるで能面のように微動だにしない。
それがまた異質だった。表情を消したヒル魔なんて、今まで一度も見たことがない。
ヒル魔はこちらを見ているだけで、何をするわけでもない。
銃を手に持つ訳でもないし、飛びかかってくるわけでもない。
じわじわと煽られ、腹の底から全身に駆け巡る黒い感情。
―――恐怖。
空気が薄くなり、立っている場所が脆くなる。
気のせいだと言い聞かせるには、全てが異質すぎた。

逃  ゲ  ロ

その瞬間、俺はその場から走って逃げ出そうとして振り返った瞬間。
煌めく緑が、俺の視界を覆った。


<続>
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