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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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証の箱(中)
 


+ + + + + + + + + +
「な、・・・ヒル魔くん、私の話聞いてた?!」
「テメェの夢は糞保母か糞教師。どっちもガキの面倒見てぇってことだろ」
「え? ・・・うん、そういうこと」
「だったら俺の仕事を手伝え」
「だったら、の後がつながってないじゃない」
一体何が言いたいのか判らず、まもりは眉を寄せたまま呟く。
けれど、もしかしたらまた言われるのか、という気もあった。
「テメェは労働力として従順に働け」
ああ。その一言に、まもりは瞑目して俯いた。
「・・・まだそれ引きずるの」
いつものように食って掛かってこないまもりに、ヒル魔も不審そうに眉を寄せた。
「何が不満だ」
「・・・私の夢にまで言及しないでよ」
声は低く、唸るようだった。
「テメェこそ俺の話聞いてたか?」
「聞いてるからこそ嫌なんじゃない!!」
まもりはがばっと顔を上げ、声を荒げてヒル魔をにらみ据える。
「人のこと、便利な労働力としてしか見てないくせに! 何の権限があって私の将来まで縛り付けようとするわけ!?」
「誰がだ」
「ヒル魔くんがでしょ!!」
まもりはヒル魔を押しのけて台所から出ようとする。
入り口を塞いでいる彼の隣をすり抜けようとしたが、それは肩を掴まれあっさりと遮られた。
「離してよ!!」
「落ち着け、糞マネ」
「落ち着く必要ないでしょ! もう帰る! もうヒル魔くんの面倒なんて見ない! もう知らない!!」
強引に彼を振り払って外に出ようとするまもりの耳元に、ヒル魔は顔を寄せる。
「まもり」
「ッ!?!?」
びくん、と驚き赤面して動きを止めたまもりを、ヒル魔は引きずるようにしてリビングへと連れ込む。
黒いソファにぽんと彼女を座らせ、その隣に彼も座る。
「誰がテメェを糞労働力としてしか見てないと?」
「ヒル魔くん」
「糞労働力としてしか見てないんなら、自宅に上げねぇ」
「上がってるじゃない」
「部屋の物も触らせねぇ」
「しょっちゅう片付けさせるのに、今更?」
どうにもかみ合わない会話に、ヒル魔の眉が寄った。
「テメェ頭のいいキャラじゃなかったのか」
「何それ。キャラなんて知りません」
「言葉の裏を読むのが日本人の特性だろうが。テメェそこだけ糞アメリカ人気取る気か」
「何なのよ、一体!」
苛々しながら彼の言わんとすることを考えたまもりは、それでも訳が分からず首を傾げるばかり。
しかしそれはヒル魔も同じようで、一見ポーカーフェイスだがその実微妙な顔つきになっている。
なんだかよく判らない沈黙が満ちたまま、二人は視線を下に向け、黙りこくっていた。
まもりはヒル魔との会話を思い返す。
彼はまもりが自分の会社に入ることが夢を諦めることとは違うと言った。
まもりの夢は保母か先生だ。子供の面倒が見たいのだ。間違ってもヒル魔の傍らで事務がやりたい訳ではない。
やっぱりかみ合わない。
「テメェは俺の何なんだ」
ぽつりと落とされた言葉に、まもりはそろりと顔を上げる。
「それは私が聞きたいわ」
「ア?」
「家政婦のつもりなのか、マネージャーなのか、腐れ縁の友達なのか」
眉を寄せたままのまもりに、ヒル魔はぴん、と片眉を上げた。
「誰と誰がいつ友達のカテゴリーに収まった。糞気色悪いこと抜かすんじゃねぇ」
「うん、それはごめんなさい」
ともだち、のくだりは言っていて気色が悪かったとまもりは素直に反省する。
「やっぱり全てひっくるめて便利な労働力が適切かしら」
「なんでそうなる」
「そうとしか考えられないから」
ヒル魔は小さく舌打ちをする。
それがやっぱり判らなくて、まもりはヒル魔に向かって降参だと両手を挙げた。
「じゃあヒル魔くんはこの先、私に何を求めるわけ?」
ヒル魔はまじまじとまもりを見つめ、それから何か気づいたようにぱちりと瞬いた。
「ああ、テメェ拗ねてんのか」
「なんでそうなったの!! 今、どこでどう、私が、拗ねたの!!」
ヒル魔の思考回路は危険だが読み切れないほどではなかったはずだ、とまもりはこめかみを押さえた。
「拗ねてんだろ」
まもりが叫んでも尚、ヒル魔は平然としていた。
「え」
彼の腕がまもりを捕らえた。
「ええ!?」
ひょい、と載せられた。ヒル魔の膝の上に。
「何この体勢!?」
「これなら糞鈍いテメェでも判るだろ」
「はい?! 一体何言ってるの?」
本気で判らず半分涙目になったまもりに、ヒル魔は盛大に舌打ちした。

<続>
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