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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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絶対勝者(上)

(ヒルまも)
※まもり視点


+ + + + + + + + + +
勢いよく引かれる二の腕をまるで他人事のように眺める。
でも掴まれた部分は熱くて少し痛くて、当然のことながら腕だけ連れて行かれる訳でもないので、身体も引きずられるようについて行く。
上手に歩けない。姿勢を保てない。
腕を一方的に引かれて歩くっていうのがこんなに歩きづらいものなんだって、初めて知った。
「あの」
目の前の緑の背中に声を掛ける。女の私とは全く違う、きっちりと鍛えられた広い背中。
腕を掴む手のひらは大きくて、二の腕に食い込んだ指は鋭い。
ゆらりと揺れる逆立った金髪。
「ヒル魔くん」
尖った耳にある、ちかりと光を弾くピアスまでまじまじと見る。
うん、見慣れたヒル魔くんに違いない。けれど、この状況はなんだろう。
今は朝の登校時間。
部活を引退して、学校に朝早く行くこともなくなった。
風紀委員はまだ続けているのだけれど、三年生の冬ともなれば受験で実質参加出来ない。
ヒル魔くんとは希望する学部が違うのでクラスも当然違う。
部活絡みで後輩が教室まで質問に来ることはあっても、私たちが部室まで出向くことはないから、そういえばヒル魔くんとはこのところ殆ど顔を合わせてなかった。
「どうしたの?」
私のクラスにいきなりやってきたヒル魔くんは、一言も話すことなく私の席の前に立った。
そして私がおはよう、と挨拶をしたのに特に返事もせずじっとこちらを凝視していた。
挨拶の返事がないことは今まで通りだったので、特に感慨があるわけじゃなく、ああ相変わらず返事しないのね、くらいの感想だった。
その時だ。ヒル魔くんが、私の腕をいきなり掴んだのは。
そうして殆ど持ち上げられるくらいの勢いで立たされて、そうしていきなりクラスから連れ出されたのだ。
廊下を歩くヒル魔くんと、引きずられるような私の姿に、他の生徒達は一体何事か、という顔をするんだけれど声を掛けてくる人はいない。みんな異様だとは思っているようなんだけれど、声を掛ける前に視線を反らし、逃げる人が続出する。
混雑する時間帯なのに、ヒル魔くんが通るだけでざあっと人波が割れてまっすぐに道が出来る光景は何度見ても圧巻だ。
ヒル魔くんにこの学年で話掛けられる人は、私を除くとムサシくんと栗田くんと雪光くんの三人だけ。
きょろきょろと周囲を見てそれらしき人影を探すけれど、見慣れた姿は視界に入らない。
まだ登校してないんだろうか。あり得る話だわ。
「っ」
ぎり、と音がしたようだった。ヒル魔くんの手に力が籠もる。
「痛いわ、ヒル魔くん」
あの大きなアメフトボールを片手で掴んで遠くまで投げる彼の手。当然ながら女の私とは比べものにならない。
痛いと訴えたら僅かに力が緩んだ。けれど手を離すという選択肢はないみたい。
ヒル魔くんは朝が早い。
部活を引退したらそんなに早く来ることはなくなるだろうと思っていたのに、今でも意外なほど彼は早く学校に来ている。
勿論朝早く来て部活に出たり勉強したりラッシュを避けたりしているわけじゃない。
でも、その理由を私は知らない。部活を引退した後、他愛ない話をするほど近くにいなかったから。
部活ってすごいな、と引退してつくづく思う。
本来ならこんなにも接点がないはずの人と、毎日毎日飽きもせず顔を合わせて共に過ごせていたんだから。
ぐいぐい引っ張られながら私は彼の目的地を考える。
最初は私を教室から引っ張り出したいだけかと思っていたのだけれど、廊下に出てからも歩みは止まらない。
ヒル魔くんは速度を落とすことなくすたすたと―――相変わらず足音はしない―――階段にさしかかった。
このままこの階段を上りきると、屋上に出る。
これから授業が始まるのだから生徒の数もまばらだろう。
実際、人の気配が徐々になくなりつつある。
周囲を伺ったら、またヒル魔くんの手に力がこもった。
「痛い!」
今度は遠慮無く尖った声が出た。多分周りに人がいないのが判ったから。
こういう時、私自身は可愛くない性格だとつくづく思ってしまう。
負けず嫌いもほどほどにしないと、と咲蘭やアコを始めとした友達たちに何度言われただろう。
ほんの少し力を緩めてくれる。けれど、やはり離して貰えない。
「んもう、ヒル魔くん! 授業サボる気?」
とは言っても、実はまだ授業が始まるまで三十分はある。
本気で走ればヒル魔くんの40ヤード5秒1には及ばなくても、そこそこの脚力がある私だったら五分で戻れる距離。
「ねえ、何か言って」
ヒル魔くんはずっと無言のままだ。
歩くのが止まらないからまだいいけれど、立ち止まっても無言のままだったらどうしょうかと不安になる。
「ヒル魔くん・・・」
風邪を引いたりとか、体調がおかしいとか、そういった不調は感じられない。
伊達に一年近くマネージャーをやっていた訳じゃない。
けれど、ここ数ヶ月殆ど口を利いていないだけでその自信もあまり根拠がない。
まあ、本当に調子が悪かったら学校には来ないだろうし、そもそも私の腕を掴むことはないでしょう。
腕、そろそろ痺れそうな気がする。痛いわ。
そこから伝わる手の熱は異常ではない。
そこまで考えて慌てて頭を振る。違う違う違う、異常なのは熱じゃないわ。
ヒル魔くんが私に触れている。それが異常。
何がどうあってもヒル魔くんが私に触れる事なんてなかった。
私から触れることは手当の関係とかであったけれど、ヒル魔くんからはただの一度だって。
いや、一度あった。ムサシくんのことで口を塞がれたわ。でもそれだけだわ。
それだけ。
ひたすら階段だけを見つめていたら、鉄の扉が開く音がした。
いつの間にか屋上に到達。空が遠くまで澄み切っていて、風が全身の熱をあっという間に奪っていく。
「寒い」
けれど、ヒル魔くんが握っている私の腕だけは熱い。
沈黙する彼と私の間を、冷たい風が通り抜けていく。
ついさっき、腕を掴まれる一瞬前にだけ見た眸は相変わらず冴えたもので、何もおかしいところはなかったのに。
今の私とヒル魔くんの距離はすごく遠い気がする。
「言わねぇんだな」
ようやく告げられた言葉と共に、くる、とヒル魔くんが振り返る。
相変わらずのポーカーフェイス。ただ、極端に取り繕ったような気がする表情に私は困惑した。

<続>
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