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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ユグドラシル(2)



+ + + + + + + + + +
唐突にやってきた、関西からの使者。
あれほど熱い戦いを繰り広げてから一ヶ月も経たないのに、なぜだか随分と懐かしい気分になった。
彼らのためにコーヒーを淹れようと、コーヒーメーカーに近寄った。
綺麗に掃除されたそれにスイッチを入れ、それが随分懐かしいような気分になって一人驚いた。
クリスマスボウルの前日にヒル魔にカップを差し出して以来、一度も使っていなかったのだと思い出したから。
一連の動作は身に染みているから、今更粉の量を間違えるとか、水の量を間違えるといったことはない。
けれどこれが三ヶ月後なら? 一年後なら?
今は当たり前でも、もう説明書なしでは淹れられなくなるかもしれない。
セナたちと共に全員が立ち去った後、床を掃き清めながら部室を見渡す。
当たり前のように見ているこの場所も、着ている制服も、あと一年と少しの後には遠い風景になる。
『遠く離れたって、また逢えるよ』
そんな風に言っていた中学校の頃の同級生とはたった二年しか離れていないのに、もう記憶が曖昧になってきている。
こうやって、全てが遠くなって。
今の当たり前が当たり前ではなくなる。
「っ」
不意に滲んだ視界に、まもりは慌てて俯いて瞬いた。
近頃不意にやってきてはまもりを浚う感情の奔流。
苛まれるのは彼女個人の問題で、他の誰も影響してはいない。
きつく瞑った瞼の裏に閃く金色、細い指。
まもりは箒の柄を握りしめ、立ち尽くした。
一人で、じっと。


その日もヒル魔はいないまま。
セナが電話を掛けたけれどつながらない、と言っていた。
夜、まもりは携帯電話を手に、机に向かった。
ここに入っている番号は、実は連絡網に載っているのと違うものだ。
直通だ、と言われて他のはどこかを経由しているのか、と当時は空恐ろしい気持ちになったのだが。
普段からあれほど大量に携帯電話を持ち歩かないだろうから、遠出しているのならきっと複数個だけ手元にあるのだろう。
セナが通じないと言っていたけれど、これならば通じるかもしれない。
彼の番号を呼び出し、通話ボタンを押そうとして、躊躇う。
もし通じたら、セナが連絡を欲しがっていたとそう告げれば良いだけだ。
けれど、通じなかったら?
いつの間にか、この番号が解約されていたら?
『ひょっこり帰って来るよ』という言葉にだって、本当は根拠なんてない。
もう、帰ってこないつもりだったら?
嫌な想像だけがぐるぐると巡り、まもりは結局電話を机の上に置く。
考えても考えても出口は見えてこない。
ぐるぐるとはまり込む感覚。ああ、懐かしいとどこか他人事のように考える。
そう遠くない昔、同じように感じたな、と考えて。
それが風の強い日の―――あのセナが仮面を脱いだときのことを思い出す。
ああ、あれだ。
あの時、真実を知って、動けなくなった時の感情そのもの。
深く渦巻いた後悔と悲哀と衝撃と怒りと、あらゆる感情がない交ぜになって泣いた。
結局、あの時はヒル魔の計らいで完全に落ち込む前に引き上げられたけれど。
今、は。
まもりは鞄を手元に引き寄せる。
今日の帰り道に目について、つい買ってしまった。
黒い包装紙の、無糖ガム。
甘さのかけらもないそれは、まもりの嗜好とは遠く隔たっている。
ぺり、と包装紙を剥いて取り出す。粒タイプもあるのに、彼は板の方を好んだ。
つんと鼻を突くのは嗅ぎ慣れたミント。
完全には口に入れず、歯を立てる。
途端に舌先を突き刺す辛さに眉を寄せ、口から離した。
やっぱり無理だった、と早々に諦め、勿体ないとは思いつつも歯形の付いたガムはゴミ箱へ。
机の上に残るガムを指先でつつく。
「どこに行ったのかなあ」
呟いても、当然彼からの答えはない。
ぼんやりしていたら、不意に思い出した。

<続>
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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