旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
結局、全員が呆然としたまま自宅に戻ったのは、その日の夜のこと。
たった一日で全てが終わって、日常に戻ってきた。
子供たちは言葉少なに自らの部屋に戻っていき、あかりも慣れない環境で疲れたのだろう、すぐに眠ってしまった。
そうして、全てが終わって。
寝室に入ると、ヒル魔は明りもつけないまま無言でベッドに腰掛け、しばらく沈黙してから小さく呟く。
「できの悪い舞台みたいだったな」
ヒル魔はそう呟いたきり押し黙った。
まもりも黙ってその隣にそっと座る。
昨日の夜からろくに眠っていないのだから、眠気が襲ってきてもおかしくないはずだった。
けれど変に高ぶった意識は眠りとはほど遠く、ただ薄い闇が滲んだ寝室で横たわることもなくベッドに座るだけ。
まもりは色々と言葉を探したが、どれもふさわしくないと打ち消し続ける。
こんな時、何を言えばいいのだろう。
身近な、血を分けた家族を失ったというのは精神的に多大な負担だ。
それがたとえ何年も会っていなかったり、不仲であっても程度に差はあれ誰もが衝撃を受ける。
もし自らの両親に不幸があったら。
少し想像しただけで、息が詰まりそうになる。
底なし沼に放り込まれてしまいそうな、恐怖がある。
両親は絶対に死なないとどこかで無条件に信じ切っている部分がある。
常識的に考えて、親に限らず人であれば必ず死ぬし、逃げられることはないのに。
「・・・お義母さまは、お義父さまとどこに行ったの?」
「サアネ」
ヒル魔はいつもの調子でそう応じるだけだ。
僅かに微笑んでさえ見せたあの気丈な女性は、気配もなくするりと失せた。
「あの糞ババァについちゃ糞親父も気にするなっつってた」
「そうは言ったって・・・」
伴侶を失ったのだ。その喪失感はどれほどのものだろうか。
自らの立場に置き換えたなら。この、隣にいる彼を失うのだということだ。
もっと何かを言おうとして。
そうして、まもりはぴたりと動きを止めた。
その頬が濡れているように見えたのだ。
室内は暗く、明りはなく、その確証はない。ただ、頬に触れて感触を確かめれば確実だろう。
まもりはそっと手を持ち上げたが、その手はヒル魔の頬を通り過ぎ、彼の頭を捕らえた。
かつては天を突いていた髪は色こそその時のままだが緩く下がり、まもりの手を傷つけることはない。
そっと、自分の子を撫でるときのような気持ちで彼の頭に触れる。
そしておもむろにベッドの上で膝立ちになり、彼の頭を自らの胸に押し当てた。
さしものヒル魔も一瞬固まったようだが、するりとまもりの背に腕が回る。
「・・・泣いてもいいのよ?」
「誰が泣くか」
すかさず返された言葉に、まもりは小さく笑う。
出会ったときから涙なんて持っていないと言わんばかりの彼。
本当は泣きたいときなど沢山あっただろうに、誰の前でも泣いたことはない。
他人に泣く姿を見せることが彼の矜恃を傷つけるというのなら、この胸の中でくらい泣けばいいと思う。
「私からは泣いても見えないわ」
「ホー」
ヒル魔の声は相変わらず乾いていて、素っ気ない。
「悲しいときは、泣いて」
その頭を撫でて、囁く。
「泣くと、色々わだかまりとか混乱した気持ちとかが落ち着くのよ」
泣くことは悪いことじゃないの、と。
再三まもりは繰り返す。
不意にヒル魔が顔を上げた。その眸は濡れておらず、まもりはまったく意地っ張りなんだから、と内心呟いてしまう。
「あっ」
ぐい、と体を引き寄せられ、ヒル魔の腕の中に。
先ほどとは体勢が逆になって、まもりは彼を見上げようとしたが、頭を押さえられてしまい叶わない。
仕方なく彼の体にしがみついてその胸に頬を寄せる。
心音はいつもと同じようにゆったりと響いて、まもりをひどく安心させた。
「―――テメェらがいて、よかった」
「!?」
不意に降りてきた声に、まもりは硬直した。それに気づいているだろうが、ヒル魔はなおも続ける。
「家族がいる、ってのがこんなにありがたいとは正直思ってなかった」
包み込む腕。けれど、これは彼が縋り付く腕でもあるのだ、と。
思い当たって、まもりの胸にこみ上げるものがある。
それでも泣きたいのは彼の方だ、と思って必死で我慢していたのに。
「まもり」
「っ!!」
今度こそヒル魔の手を払いのけて、まもりは彼の顔を見つめる。
初めて見たときから変わらない、人を食ったような表情で、彼は口を開く。
その一言で、まもりの瞳からぼろっと大粒の涙がこぼれ落ちた。
そんな、夜明け前の、ひととき。
***
実はリクエスト作品だったというこの話。
20万キリ番を踏んでくださったれい子さまより『ヒル魔がまもりの名を呼ぶ話』でした。
どんな場面で呼ぶかな、と思っていたらこんな内容に。
少々・・・いやかなり凹ませないと弱みは見せないヒル魔さん。
実は時々まもりと名前でごくたまーに不意打ちのように呼ぶのではと思ってます。
リクエストありがとうございましたー!
たった一日で全てが終わって、日常に戻ってきた。
子供たちは言葉少なに自らの部屋に戻っていき、あかりも慣れない環境で疲れたのだろう、すぐに眠ってしまった。
そうして、全てが終わって。
寝室に入ると、ヒル魔は明りもつけないまま無言でベッドに腰掛け、しばらく沈黙してから小さく呟く。
「できの悪い舞台みたいだったな」
ヒル魔はそう呟いたきり押し黙った。
まもりも黙ってその隣にそっと座る。
昨日の夜からろくに眠っていないのだから、眠気が襲ってきてもおかしくないはずだった。
けれど変に高ぶった意識は眠りとはほど遠く、ただ薄い闇が滲んだ寝室で横たわることもなくベッドに座るだけ。
まもりは色々と言葉を探したが、どれもふさわしくないと打ち消し続ける。
こんな時、何を言えばいいのだろう。
身近な、血を分けた家族を失ったというのは精神的に多大な負担だ。
それがたとえ何年も会っていなかったり、不仲であっても程度に差はあれ誰もが衝撃を受ける。
もし自らの両親に不幸があったら。
少し想像しただけで、息が詰まりそうになる。
底なし沼に放り込まれてしまいそうな、恐怖がある。
両親は絶対に死なないとどこかで無条件に信じ切っている部分がある。
常識的に考えて、親に限らず人であれば必ず死ぬし、逃げられることはないのに。
「・・・お義母さまは、お義父さまとどこに行ったの?」
「サアネ」
ヒル魔はいつもの調子でそう応じるだけだ。
僅かに微笑んでさえ見せたあの気丈な女性は、気配もなくするりと失せた。
「あの糞ババァについちゃ糞親父も気にするなっつってた」
「そうは言ったって・・・」
伴侶を失ったのだ。その喪失感はどれほどのものだろうか。
自らの立場に置き換えたなら。この、隣にいる彼を失うのだということだ。
もっと何かを言おうとして。
そうして、まもりはぴたりと動きを止めた。
その頬が濡れているように見えたのだ。
室内は暗く、明りはなく、その確証はない。ただ、頬に触れて感触を確かめれば確実だろう。
まもりはそっと手を持ち上げたが、その手はヒル魔の頬を通り過ぎ、彼の頭を捕らえた。
かつては天を突いていた髪は色こそその時のままだが緩く下がり、まもりの手を傷つけることはない。
そっと、自分の子を撫でるときのような気持ちで彼の頭に触れる。
そしておもむろにベッドの上で膝立ちになり、彼の頭を自らの胸に押し当てた。
さしものヒル魔も一瞬固まったようだが、するりとまもりの背に腕が回る。
「・・・泣いてもいいのよ?」
「誰が泣くか」
すかさず返された言葉に、まもりは小さく笑う。
出会ったときから涙なんて持っていないと言わんばかりの彼。
本当は泣きたいときなど沢山あっただろうに、誰の前でも泣いたことはない。
他人に泣く姿を見せることが彼の矜恃を傷つけるというのなら、この胸の中でくらい泣けばいいと思う。
「私からは泣いても見えないわ」
「ホー」
ヒル魔の声は相変わらず乾いていて、素っ気ない。
「悲しいときは、泣いて」
その頭を撫でて、囁く。
「泣くと、色々わだかまりとか混乱した気持ちとかが落ち着くのよ」
泣くことは悪いことじゃないの、と。
再三まもりは繰り返す。
不意にヒル魔が顔を上げた。その眸は濡れておらず、まもりはまったく意地っ張りなんだから、と内心呟いてしまう。
「あっ」
ぐい、と体を引き寄せられ、ヒル魔の腕の中に。
先ほどとは体勢が逆になって、まもりは彼を見上げようとしたが、頭を押さえられてしまい叶わない。
仕方なく彼の体にしがみついてその胸に頬を寄せる。
心音はいつもと同じようにゆったりと響いて、まもりをひどく安心させた。
「―――テメェらがいて、よかった」
「!?」
不意に降りてきた声に、まもりは硬直した。それに気づいているだろうが、ヒル魔はなおも続ける。
「家族がいる、ってのがこんなにありがたいとは正直思ってなかった」
包み込む腕。けれど、これは彼が縋り付く腕でもあるのだ、と。
思い当たって、まもりの胸にこみ上げるものがある。
それでも泣きたいのは彼の方だ、と思って必死で我慢していたのに。
「まもり」
「っ!!」
今度こそヒル魔の手を払いのけて、まもりは彼の顔を見つめる。
初めて見たときから変わらない、人を食ったような表情で、彼は口を開く。
その一言で、まもりの瞳からぼろっと大粒の涙がこぼれ落ちた。
そんな、夜明け前の、ひととき。
***
実はリクエスト作品だったというこの話。
20万キリ番を踏んでくださったれい子さまより『ヒル魔がまもりの名を呼ぶ話』でした。
どんな場面で呼ぶかな、と思っていたらこんな内容に。
少々・・・いやかなり凹ませないと弱みは見せないヒル魔さん。
実は時々まもりと名前でごくたまーに不意打ちのように呼ぶのではと思ってます。
リクエストありがとうございましたー!
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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