旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
深い森に、まるで人目を避けるように建てられた一件の家。
小さなそれは、昼日中に見つけたときには白雪姫に出てくる小人の家か、とはしゃげるようなかわいらしさがあっただろう。
けれど、この時間帯に加えて呼び出された内容が内容だ。
車から降りて、ヒル魔はすたすたとためらいもなく近づいていく。
他の家族がついてこないことに気づいて、彼は振り返り手を伸ばす。
「来い。ここは正面からなら仕掛けはねぇよ」
「正面じゃないところはどうなってるの」
「試すなら俺らの目の届かないところからやれ。命の保証はない」
「・・・へー」
その手をとり、まもりはきょろきょろとあたりを伺う。
他に家はない。完全なる孤立状態だ。
ヒル魔がその扉をためらいもなく開く。鍵はかかっていなかった。
挨拶もなく入るヒル魔に引きずられるようにまもりも中に足を踏み入れる。
小さくお邪魔します、と免罪符のように呟いてみたが、聞き入れる人はいない。
と。
「妖一」
音もなく現れたのは、彼の母だった。
一瞬身を引きかけたまもりの手を強く握り、ヒル魔は彼女に近づく。
「糞親父は」
「虫の息」
「どこだ」
「右の奥の部屋」
久々の対面だろうに、挨拶も何もない。
けれど彼の母がひどく憔悴して見えるのは夜明け前だからばかりではなさそうだ。
ヒル魔の指が閃く。
それに子供たちがぴくりと反応した。
「おばあさん、あかりを寝かせられる場所はある?」
「僕、お茶が飲みたい」
孫にあたる妖介と護が口々に言いながら彼女に近づく。
彼女はヒル魔にちらりと視線を向けてから彼らを引き連れ台所へと向かった。
「お義母さまは一緒じゃなくていいの?」
「一緒に行く気なら先導くらいする」
まもりだけを引き連れ、ヒル魔は指示された部屋へと歩いて行く。
そうして、ノックもなく扉を開いた。
「妖一か」
途端に響いた声は明瞭で。
まもりは一瞬、やっぱりあの義父が仕掛けたたちの悪い冗談なのだと安堵しかけた。
だが。
ヒル魔が灯した明りに照らされたその姿に、まもりはその顔を強ばらせた。
「明りを消してくれないか」
眩しい、と呟くその顔は。
何度となく見た義父の顔ではあったが、ひどく窶れて細くなっていた。
あからさまなその様子に、冗談ではないのだと、これが悪い夢ではないのだと、ようやく理解して。
まもりは無意識にヒル魔の腕に縋った。
「テメェの死に目見るのに暗くちゃなァ」
「明りなど必要ないだろうに」
どこかたちの悪い笑みを浮かべた彼に、ヒル魔は小さく嘆息して続けた。
「―――もう、ろくに見えちゃいねぇんだろ」
その言葉に、まもりはびくりと震えた。
はは、と彼は短く笑う。
「医者は」
ヒル魔の短い問いに、彼は視線だけ別の箇所に向ける。
「いるさ。そこに」
まるで隠れるようにして、医者が一人と看護師が一人、ひっそりと座っている。
彼らは『その時』がくるのをただ待つだけの存在となっていた。
本来なら、ここが病院なら、彼らは全力で彼を助けるべく奔走しただろう。
けれどここは彼の別宅で。
そうして、彼はどこか達観したように静かに横たわっていて。
「・・・まもりさん」
「はいっ?!」
少しの間の後、唐突に名を呼ばれてまもりは飛び上がるような勢いで応じた。
それに小さく笑って、彼は続ける。
「悪いが、妖一と二人にさせてくれないかな」
まもりはヒル魔を見上げると、小さく頷いたので彼女も頷いてそっとヒル魔の腕を離す。
「ありがとう」
「いえ」
それ以上の言葉が探せず、まもりは逡巡しつつもそっとその部屋を去った。
途端にヒル魔は室内の明りを落とす。
安堵したようにヒル魔の父は嘆息した。
「あの子は、お前の『目』の事を知らないのか」
「ああ」
ヒル魔は横たわる父親の姿を見つめる。
滲むような闇。まといつくそれは彼の全身を覆っている。
―――それが『死相』というものだと、ヒル魔はよくよく理解していた。
「妖介は医者になるそうだね」
「そうだ」
「止めなかったのか?」
医者になるということは、人の死を目の前で見る機会が多いということだ。
手を尽くしてもこぼれ落ちる命があることを、自分の力が及ばないことを、誰よりも間近で見続ける過酷な仕事。
それが、常人よりももっとずっとはっきりと見えるのならば、なおさら。
ヒル魔は口角を上げる。
「言ったところで聞かねぇよ。俺と姉崎の子だぞ」
「違いない」
低く、彼は笑う。
「糞ババァはどうすんだ」
「あけみなら、うまくやっていける。お前のところに転がり込むようなことはないさ」
「どうだか」
「今まで、この私の伴侶として生きてきた女だからね。それより」
不意に彼は言葉を切った。
<続>
小さなそれは、昼日中に見つけたときには白雪姫に出てくる小人の家か、とはしゃげるようなかわいらしさがあっただろう。
けれど、この時間帯に加えて呼び出された内容が内容だ。
車から降りて、ヒル魔はすたすたとためらいもなく近づいていく。
他の家族がついてこないことに気づいて、彼は振り返り手を伸ばす。
「来い。ここは正面からなら仕掛けはねぇよ」
「正面じゃないところはどうなってるの」
「試すなら俺らの目の届かないところからやれ。命の保証はない」
「・・・へー」
その手をとり、まもりはきょろきょろとあたりを伺う。
他に家はない。完全なる孤立状態だ。
ヒル魔がその扉をためらいもなく開く。鍵はかかっていなかった。
挨拶もなく入るヒル魔に引きずられるようにまもりも中に足を踏み入れる。
小さくお邪魔します、と免罪符のように呟いてみたが、聞き入れる人はいない。
と。
「妖一」
音もなく現れたのは、彼の母だった。
一瞬身を引きかけたまもりの手を強く握り、ヒル魔は彼女に近づく。
「糞親父は」
「虫の息」
「どこだ」
「右の奥の部屋」
久々の対面だろうに、挨拶も何もない。
けれど彼の母がひどく憔悴して見えるのは夜明け前だからばかりではなさそうだ。
ヒル魔の指が閃く。
それに子供たちがぴくりと反応した。
「おばあさん、あかりを寝かせられる場所はある?」
「僕、お茶が飲みたい」
孫にあたる妖介と護が口々に言いながら彼女に近づく。
彼女はヒル魔にちらりと視線を向けてから彼らを引き連れ台所へと向かった。
「お義母さまは一緒じゃなくていいの?」
「一緒に行く気なら先導くらいする」
まもりだけを引き連れ、ヒル魔は指示された部屋へと歩いて行く。
そうして、ノックもなく扉を開いた。
「妖一か」
途端に響いた声は明瞭で。
まもりは一瞬、やっぱりあの義父が仕掛けたたちの悪い冗談なのだと安堵しかけた。
だが。
ヒル魔が灯した明りに照らされたその姿に、まもりはその顔を強ばらせた。
「明りを消してくれないか」
眩しい、と呟くその顔は。
何度となく見た義父の顔ではあったが、ひどく窶れて細くなっていた。
あからさまなその様子に、冗談ではないのだと、これが悪い夢ではないのだと、ようやく理解して。
まもりは無意識にヒル魔の腕に縋った。
「テメェの死に目見るのに暗くちゃなァ」
「明りなど必要ないだろうに」
どこかたちの悪い笑みを浮かべた彼に、ヒル魔は小さく嘆息して続けた。
「―――もう、ろくに見えちゃいねぇんだろ」
その言葉に、まもりはびくりと震えた。
はは、と彼は短く笑う。
「医者は」
ヒル魔の短い問いに、彼は視線だけ別の箇所に向ける。
「いるさ。そこに」
まるで隠れるようにして、医者が一人と看護師が一人、ひっそりと座っている。
彼らは『その時』がくるのをただ待つだけの存在となっていた。
本来なら、ここが病院なら、彼らは全力で彼を助けるべく奔走しただろう。
けれどここは彼の別宅で。
そうして、彼はどこか達観したように静かに横たわっていて。
「・・・まもりさん」
「はいっ?!」
少しの間の後、唐突に名を呼ばれてまもりは飛び上がるような勢いで応じた。
それに小さく笑って、彼は続ける。
「悪いが、妖一と二人にさせてくれないかな」
まもりはヒル魔を見上げると、小さく頷いたので彼女も頷いてそっとヒル魔の腕を離す。
「ありがとう」
「いえ」
それ以上の言葉が探せず、まもりは逡巡しつつもそっとその部屋を去った。
途端にヒル魔は室内の明りを落とす。
安堵したようにヒル魔の父は嘆息した。
「あの子は、お前の『目』の事を知らないのか」
「ああ」
ヒル魔は横たわる父親の姿を見つめる。
滲むような闇。まといつくそれは彼の全身を覆っている。
―――それが『死相』というものだと、ヒル魔はよくよく理解していた。
「妖介は医者になるそうだね」
「そうだ」
「止めなかったのか?」
医者になるということは、人の死を目の前で見る機会が多いということだ。
手を尽くしてもこぼれ落ちる命があることを、自分の力が及ばないことを、誰よりも間近で見続ける過酷な仕事。
それが、常人よりももっとずっとはっきりと見えるのならば、なおさら。
ヒル魔は口角を上げる。
「言ったところで聞かねぇよ。俺と姉崎の子だぞ」
「違いない」
低く、彼は笑う。
「糞ババァはどうすんだ」
「あけみなら、うまくやっていける。お前のところに転がり込むようなことはないさ」
「どうだか」
「今まで、この私の伴侶として生きてきた女だからね。それより」
不意に彼は言葉を切った。
<続>
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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