旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
明け方の電話というのは得てしていい話ではない。
ましてや、自分たちもそれなりに年を経て、いい大人と呼ばれる部類になったからには。
『妖一』
その声に、ヒル魔はゆるく瞬きをして、視線を窓の外に投げた。
空の色は未だ深い闇、光は遠く。
『お父さんがね』
彼の眸が、静かに細められた。
まもりは違和感に瞼を持ち上げた。
まだ体は眠りを欲しているし、意識も混濁している。
それでも。
「ア?」
ヒル魔の短い声に、まもりはゆるゆると体を起こした。
「・・・おはよう」
「まだ夜中だ」
「出かけ、るんでしょう」
寝起きのかすれた声で応じて、それでもまもりは瞼を擦り、彼を見上げた。
パジャマを脱ぎかけたその様子、出された衣服。
彼も眠ったのはつい先頃だろうに、その顔には眠気のかけらもない。
そうして、まもりの目前でも調子を変えず、黙々と身支度を調えた。
「何かあったんでしょう」
未だぬくもりを残し、安らかな眠りに引き込もうとする寝具を振り払って、まもりは立ち上がる。
次第に眠気が失せる声が紡ぐ言葉は、彼に問いかけるようで、けれどすべて断定の響きを伴っていた。
「・・・」
「子供たちはどうするの? 起こしたほうがいい?」
「・・・ああ。いや、いい。テメェは自分の格好どうにかしろ」
一度応じてから、ヒル魔はまもりを制して廊下へと出て行く。
それも珍しいことだけれど。
(・・・ああ)
まもりは違和感の正体に気づいた。
足音。
普段、意識しないでも彼は足音を立てずに歩いていた。
ずっとそういうふうにしていたから、彼の足音なんて何年も耳にしていない。
彼がわざと立てない限り、足音はしなかったのに。
今、出て行くときに、足音が。
密やかなきしみを立ててこの部屋を出て行く音が。
ただならぬ様子なのを何よりも雄弁に伝えていて。
「・・・」
まもりはぎゅっと手を握り込むと、足早に顔を洗うべく洗面台へと向かった。
子供たちはただならぬ様子にたたき起こされたことにも不平不満を言うことなく、身支度を調えて車へと集まった。
あかりだけはまだ夢の中だが、妖介が抱きかかえて連れて来ていた。
「行くぞ」
「はい」
子供たちの応じる声が固い。まもりは助手席に座り、ヒル魔を見つめる。
「糞親父だ」
「・・・そう」
詳しくは知らないが、ヒル魔の父はまもりの父と年齢的にそう変わりないはずだった。
まもりの両親は共に健在で特に問題なく今まで交流があるが、ヒル魔の方の両親とはそうもいかなかった。
結婚の挨拶をしてから今の今まで、顔を合わせたのはまもりでさえ数えられるほど少ない回数だ。
「お義父さま、前から具合が悪かったの?」
「さあ」
「さあ、って・・・」
まもりは運転する彼の横顔を見て、口をつぐんだ。
ヒル魔は本当に父親の不調を知らなかったのだろう。
常に不適な笑みを浮かべているのが当然な彼が、今ばかりは余裕のない表情をしている。
傍目から見れば普通の顔かも知れないが、僅かに荒れる運転に余裕のなさが透けて見える。
「本当に?」
暗にたちの悪い冗談ではないか、と小さく護が呟いた。けれどそれにヒル魔は沈黙で応じる。
それが何よりも本当だと言っていて、護は妖介と顔を見合わせ、そっとうなだれた。
まもりはアヤに連絡すべきかどうかを考えたが、察してヒル魔が口を開く。
「アヤにはメールで連絡しとけ」
「メールでいいの?」
「気づけばあっちから連絡がくる」
「じゃあ僕が連絡するよ」
護が即座にメールを打つ。
早いなあ、と変なところに感心する妖介を尻目にさっさと送信してすぐ、着信があった。
通話ボタンを押し、護は通話先の状況を思って密やかに言葉を紡いだ。
明け方の道路はまるで夢の中のようだ。
誰もいないのに、明かりばかりが皎々と輝いている。
ぼんやりとその光景を目で追っていたら、不意に車が脇道に逸れた。
車は細い道を止まることなく走り、深い森を分け入っていく。
普通の道ではない、いわゆる獣道に近い状態。
地元民でもないかぎり、おそらくここを普通に通るのは無理だと思われた。
けれど彼は迷わないのだ。
「ヒル魔くん、ここに来たことあるの?」
「一度な」
「じゃあ、何で」
病院に行ったことがあるのなら、というまもりの言葉にヒル魔は小さく首を振った。
「この先にあるのは病院じゃねぇよ」
「じゃあ、何なの?」
「糞親父が持ってる別宅の一つがここにある」
「別宅・・・」
観光地でもない場所だ。隠れ家と称してもいいだろう。
視界に流れ込んでくる緑は深すぎて、底なしの沼のようにも見える。
意識が曖昧になってしまいそうだ。
「もうすぐだ」
そんな中、ヒル魔の声だけが、妙にはっきりと聞こえた。
<続>
ましてや、自分たちもそれなりに年を経て、いい大人と呼ばれる部類になったからには。
『妖一』
その声に、ヒル魔はゆるく瞬きをして、視線を窓の外に投げた。
空の色は未だ深い闇、光は遠く。
『お父さんがね』
彼の眸が、静かに細められた。
まもりは違和感に瞼を持ち上げた。
まだ体は眠りを欲しているし、意識も混濁している。
それでも。
「ア?」
ヒル魔の短い声に、まもりはゆるゆると体を起こした。
「・・・おはよう」
「まだ夜中だ」
「出かけ、るんでしょう」
寝起きのかすれた声で応じて、それでもまもりは瞼を擦り、彼を見上げた。
パジャマを脱ぎかけたその様子、出された衣服。
彼も眠ったのはつい先頃だろうに、その顔には眠気のかけらもない。
そうして、まもりの目前でも調子を変えず、黙々と身支度を調えた。
「何かあったんでしょう」
未だぬくもりを残し、安らかな眠りに引き込もうとする寝具を振り払って、まもりは立ち上がる。
次第に眠気が失せる声が紡ぐ言葉は、彼に問いかけるようで、けれどすべて断定の響きを伴っていた。
「・・・」
「子供たちはどうするの? 起こしたほうがいい?」
「・・・ああ。いや、いい。テメェは自分の格好どうにかしろ」
一度応じてから、ヒル魔はまもりを制して廊下へと出て行く。
それも珍しいことだけれど。
(・・・ああ)
まもりは違和感の正体に気づいた。
足音。
普段、意識しないでも彼は足音を立てずに歩いていた。
ずっとそういうふうにしていたから、彼の足音なんて何年も耳にしていない。
彼がわざと立てない限り、足音はしなかったのに。
今、出て行くときに、足音が。
密やかなきしみを立ててこの部屋を出て行く音が。
ただならぬ様子なのを何よりも雄弁に伝えていて。
「・・・」
まもりはぎゅっと手を握り込むと、足早に顔を洗うべく洗面台へと向かった。
子供たちはただならぬ様子にたたき起こされたことにも不平不満を言うことなく、身支度を調えて車へと集まった。
あかりだけはまだ夢の中だが、妖介が抱きかかえて連れて来ていた。
「行くぞ」
「はい」
子供たちの応じる声が固い。まもりは助手席に座り、ヒル魔を見つめる。
「糞親父だ」
「・・・そう」
詳しくは知らないが、ヒル魔の父はまもりの父と年齢的にそう変わりないはずだった。
まもりの両親は共に健在で特に問題なく今まで交流があるが、ヒル魔の方の両親とはそうもいかなかった。
結婚の挨拶をしてから今の今まで、顔を合わせたのはまもりでさえ数えられるほど少ない回数だ。
「お義父さま、前から具合が悪かったの?」
「さあ」
「さあ、って・・・」
まもりは運転する彼の横顔を見て、口をつぐんだ。
ヒル魔は本当に父親の不調を知らなかったのだろう。
常に不適な笑みを浮かべているのが当然な彼が、今ばかりは余裕のない表情をしている。
傍目から見れば普通の顔かも知れないが、僅かに荒れる運転に余裕のなさが透けて見える。
「本当に?」
暗にたちの悪い冗談ではないか、と小さく護が呟いた。けれどそれにヒル魔は沈黙で応じる。
それが何よりも本当だと言っていて、護は妖介と顔を見合わせ、そっとうなだれた。
まもりはアヤに連絡すべきかどうかを考えたが、察してヒル魔が口を開く。
「アヤにはメールで連絡しとけ」
「メールでいいの?」
「気づけばあっちから連絡がくる」
「じゃあ僕が連絡するよ」
護が即座にメールを打つ。
早いなあ、と変なところに感心する妖介を尻目にさっさと送信してすぐ、着信があった。
通話ボタンを押し、護は通話先の状況を思って密やかに言葉を紡いだ。
明け方の道路はまるで夢の中のようだ。
誰もいないのに、明かりばかりが皎々と輝いている。
ぼんやりとその光景を目で追っていたら、不意に車が脇道に逸れた。
車は細い道を止まることなく走り、深い森を分け入っていく。
普通の道ではない、いわゆる獣道に近い状態。
地元民でもないかぎり、おそらくここを普通に通るのは無理だと思われた。
けれど彼は迷わないのだ。
「ヒル魔くん、ここに来たことあるの?」
「一度な」
「じゃあ、何で」
病院に行ったことがあるのなら、というまもりの言葉にヒル魔は小さく首を振った。
「この先にあるのは病院じゃねぇよ」
「じゃあ、何なの?」
「糞親父が持ってる別宅の一つがここにある」
「別宅・・・」
観光地でもない場所だ。隠れ家と称してもいいだろう。
視界に流れ込んでくる緑は深すぎて、底なしの沼のようにも見える。
意識が曖昧になってしまいそうだ。
「もうすぐだ」
そんな中、ヒル魔の声だけが、妙にはっきりと聞こえた。
<続>
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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