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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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朱嘴鸛(2)


+ + + + + + + + + +
青白い顔をして出て行ったことはまもりの母も気づいていたようで、ヒル魔が彼女を抱えてきたのを見ても取り乱しはしなかった。
けれど普段なら、ヒル魔はまもり一人を置いて自分はさっさと部活に向かってしまうのに、そうはせず共に靴を脱いで上がった。
それを見て彼女は何かただならぬ事があったのだろうと察したようだ。
「どうしたの?」
「・・・気分が悪くなって」
「そう・・・」
まもりの母がちらりとヒル魔に視線を向ける。それに気づいた彼はまもりへ先に自室へ戻るよう告げる。
「さっさと着替えて寝てろ」
「でも、熱があるわけじゃ」
「いいから」
戸惑うまもりを強引に二階へと行かせて、ヒル魔は廊下でまもりの母と対峙する。
「まもりはどうしたの?」
ヒル魔は視線をそらすこともなく、まっすぐに告げた。
「妊娠したかもしれません」
その一言に、まもりの母は微妙な表情を浮かべて。
ただ、ヒル魔に向かって苦笑する。
「話し合いは・・・してないわよね」
それでもこの家に連れてきたのなら、彼は逃げも隠れもしないということだ。
幼少の頃から家族ぐるみで付き合いのある彼のことをまもりの母はよく理解している。
現に彼の家は誰もおらず、人に聞かれたくない話をするのならそちらに連れ込むものを。
まもりの精神が不安定なのを見越して、住み慣れた部屋へと連れてきたのだと容易に推測できる。
「じゃあまずまもりと話して来なさいな」
「はい」
「その間に私は検査薬を買ってくるわ」
「お願いします」
二人きりにしてくれたのに感謝し、ヒル魔はまもりの部屋へと向かう。
「入るぞ」
らしくもなく一言かけて扉を開いた彼の前に、制服姿のままベッドの上で蹲るまもりの姿。
「おい」
「・・・ど、しよ・・・」
まもりの表情が悲痛に歪む。
「に、妊娠、しちゃってたら・・・」
そう呟いたきり、立てた膝に顔を埋めて泣き声を押し殺すまもりに、ヒル魔は派手に舌打ちした。
大股に近寄り、その前にどかりとあぐらをかいて座る。
「いつ、気づいた」
「・・・昨日」
そういえば来ていない、前回はいつだっただろうか―――そんな風にふと思ったのだ。
まもりの体は規則正しい生活の賜か、滅多に月経のリズムが狂うことがない。
だから、その事実に気づいた瞬間、奈落の底に突き落とされたような衝撃を受けたのだ。
「で? 何でそれですぐ俺に相談しなかった」
まもりは泣きながら肩を震わせ、ヒル魔を見ることはない。
ただ首を振って答えないまもりに、これでは埒が明かない、とばかり。
「や・・・!」
強引にまもりの腕をとり、引き寄せる。
唐突なことにバランスを崩したまもりは勢いのままにヒル魔の胸に飛び込む形になった。
その顔を上げさせ、視線を捉える。
「怖かったなら、何で俺に言わなかった」
泣き濡れた頬を撫でてやれば、まもりはひくりと喉を震わせる。
見上げた彼の顔に怒りや戸惑いはない。
「怒って、ないの?」
「何で怒る必要があるんだ」
「だって・・・」
妊娠してしまえば。二人ともまだ高校生だ、子供を産むことは出来ないだろう。
そうなれば堕胎せねばならず、金銭的にも肉体的にも負担が大きい。
なにより、それを彼が煩わしいと思ってしまったなら。
ただでさえクリスマスボウルという大きな目標を終えて、アメリカでNFL入を逃し、この先進むべき道がどこなのかが判然としない彼の、妨げになってしまったら。
彼が、離れてしまったら。
何より、まもりを厭わしいと思ったのなら。
―――そうしたら、この先、どんな顔をして生きていけばいいのか。
「言え」
心で渦巻く言葉をはき出せず瞳を伏せたがるのを強引に引き上げ、ヒル魔はその唇に己のそれを重ねる。
「聞いてやる」
あやすような声、背中を撫でる手。
まもりはぱちぱちと瞬きし、涙を振り落としてようやく口を開く。
「妊娠、してたら・・・ヒル魔くん、困るでしょ。面倒だって、邪魔だって、思う、でしょ」
引き攣れる呼吸を一生懸命押さえながら綴る言葉に、ヒル魔の眉間に僅かに皺が寄った。
「ほら、そんな顔、するし。・・・でも、堕ろすなら、どうしたらいいのか、・・・お母さんやお父さんにどう説明したら、って」
言いながらまもりの心中に激しい嵐が吹き荒れる。
ヒル魔の眉間の皺も徐々に深くなっていく。
まもりが震えながら握りしめた手は、ヒル魔のシャツにきつく食い込んで。
ほんの僅かの間だったろうに、沈黙はとてつもなく長く感じられた。
そうして、それはとても痛くて。
どうにかこの沈黙を打ち消そうとしたまもりを、ヒル魔の腕がきつく抱きしめた。

<続>
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