旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ムサシはふと顔を上げた。
グラウンドの端に見慣れない女が一人、立っている。
泥門高生ではないことは明白だ。あの緑の制服でも、体操着でも、その他の制服でもない。
わざわざそう並べ立てたのは、ちょっとこの辺では見ないような美人だったからだ。
当然教師でもない。見たところ、女子大生だろうか。
色の白さが人種の違いを思い知らせるような、そんな白さだった。
髪も赤茶色とくれば、瞳もきっと薄い色なのだろう。
残念ながら、目鼻立ちをようよう確認できるくらいなので、瞳の色までは知れないが。
彼女はこちらを伺っているが、きょろきょろと首を動かしている。誰か探しているのだろう。
それが自分ではないことだけは確かだ。
「あれ? ムサシ、どうしたの?」
普段なら到着するなり道具の準備をする後輩たちの元に向かい、分かりづらい敬意を払われながら手伝うのに。
小テストの点数が悪かった、という理由で教師からのお小言を食らっていた栗田が遅れてやってきてそう尋ねるまで。
ムサシはずっとその女を眺めていた。
「・・・知り合いの人?」
「いや・・・」
もし見たことがあれば忘れないはずだ、あんな美人。
不意に。
「オラ糞ジジイ! 糞デブ!! テメェら何ぼけっと突っ立ってやがんだ!!」
もうすっかり聞き慣れてしまった銃声が、悪魔の怒号と共に耳に飛び込んできた。
先に練習を始めていたらしいヒル魔は、いつまで経っても来ない二人に業を煮やしたらしい。
「おい、ヒル魔」
「あの人、見覚えある?」
「ア?」
視線でちらりと示した先。
その時、女も声を上げたのが分かった。
「妖くん!」
途端、ムサシと栗田は硬直した。
ヨウクン。
なんだ、その呼び方。
そんな風に呼ぶ女がいるのか、こいつに。
この悪魔を、そんな呼び方出来る命知らずな女が、おそらくは母親以外に。
一瞬で言葉通り絶句したムサシたちを尻目に、ヒル魔は僅かに眉を寄せて手を挙げた。
「あ」
栗田が目を丸くする。
それは東京大会を勝ち抜く途中、突然使い出した手話だったからだ。
それから唐突に情報の流れが明確になったから、きっと客席側に味方が出来たのだ、と思っていたのだが。
では、彼女が。
手話で示した言葉はきっと何か否定的なことだったのだろう。
彼女は逡巡したような動きを見せたが、きっと顔を上げてこちらへと歩いてきた。
途端、ヒル魔は大きな舌打ちをする。
それが聞こえていたのかいないのか―――おそらくは聞こえていた―――彼女は臆せずヒル魔の前に立った。
やはり、相当な美人だ。目鼻立ちも整い、肌のきめも細かい。
それ以上に目を引いたのは、長い睫に縁取られた大きな青い瞳だった。
昔どの家にも一体はあったフランス人形のような色合い。
けれど生身の、感情のきらめく瞳はそれ以上に美しい。
「お母さんが皆さんに、って」
差し出されたのは大きな包み。
ヒル魔の眉間の皺が一層深くなった。
「もう、そんな顔しないでよ。妖くんのことだからきっと嫌がる、って言ったんだけど、どうしてもって」
「・・・テメェは手伝ったのか」
「また! そんな呼び方して! お姉ちゃんって呼んでよ」
「だ・れ・が! 呼ぶか!!」
「私が作ると! 妖くんが食べてくれないから! お母さんが一から十まで作りましたっ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に栗田は素っ頓狂な声を上げた。
「お姉さん!? ヒル魔、お姉さんがいたの!?」
その声にグラウンドに散っていた部員たちが飛び上がって一斉に集合した。
「ええ?! ヒル魔先輩のお姉さんですか?!」
「すっげ・・・メチャクチャ美人!!」
「キレー・・・え、血がつながってんですか?! ホントに!?」
「お名前は!?」
その怒濤の勢いにもかかわらず、彼女はおっとりと笑って見せた。
「私は・・・」
<続>
グラウンドの端に見慣れない女が一人、立っている。
泥門高生ではないことは明白だ。あの緑の制服でも、体操着でも、その他の制服でもない。
わざわざそう並べ立てたのは、ちょっとこの辺では見ないような美人だったからだ。
当然教師でもない。見たところ、女子大生だろうか。
色の白さが人種の違いを思い知らせるような、そんな白さだった。
髪も赤茶色とくれば、瞳もきっと薄い色なのだろう。
残念ながら、目鼻立ちをようよう確認できるくらいなので、瞳の色までは知れないが。
彼女はこちらを伺っているが、きょろきょろと首を動かしている。誰か探しているのだろう。
それが自分ではないことだけは確かだ。
「あれ? ムサシ、どうしたの?」
普段なら到着するなり道具の準備をする後輩たちの元に向かい、分かりづらい敬意を払われながら手伝うのに。
小テストの点数が悪かった、という理由で教師からのお小言を食らっていた栗田が遅れてやってきてそう尋ねるまで。
ムサシはずっとその女を眺めていた。
「・・・知り合いの人?」
「いや・・・」
もし見たことがあれば忘れないはずだ、あんな美人。
不意に。
「オラ糞ジジイ! 糞デブ!! テメェら何ぼけっと突っ立ってやがんだ!!」
もうすっかり聞き慣れてしまった銃声が、悪魔の怒号と共に耳に飛び込んできた。
先に練習を始めていたらしいヒル魔は、いつまで経っても来ない二人に業を煮やしたらしい。
「おい、ヒル魔」
「あの人、見覚えある?」
「ア?」
視線でちらりと示した先。
その時、女も声を上げたのが分かった。
「妖くん!」
途端、ムサシと栗田は硬直した。
ヨウクン。
なんだ、その呼び方。
そんな風に呼ぶ女がいるのか、こいつに。
この悪魔を、そんな呼び方出来る命知らずな女が、おそらくは母親以外に。
一瞬で言葉通り絶句したムサシたちを尻目に、ヒル魔は僅かに眉を寄せて手を挙げた。
「あ」
栗田が目を丸くする。
それは東京大会を勝ち抜く途中、突然使い出した手話だったからだ。
それから唐突に情報の流れが明確になったから、きっと客席側に味方が出来たのだ、と思っていたのだが。
では、彼女が。
手話で示した言葉はきっと何か否定的なことだったのだろう。
彼女は逡巡したような動きを見せたが、きっと顔を上げてこちらへと歩いてきた。
途端、ヒル魔は大きな舌打ちをする。
それが聞こえていたのかいないのか―――おそらくは聞こえていた―――彼女は臆せずヒル魔の前に立った。
やはり、相当な美人だ。目鼻立ちも整い、肌のきめも細かい。
それ以上に目を引いたのは、長い睫に縁取られた大きな青い瞳だった。
昔どの家にも一体はあったフランス人形のような色合い。
けれど生身の、感情のきらめく瞳はそれ以上に美しい。
「お母さんが皆さんに、って」
差し出されたのは大きな包み。
ヒル魔の眉間の皺が一層深くなった。
「もう、そんな顔しないでよ。妖くんのことだからきっと嫌がる、って言ったんだけど、どうしてもって」
「・・・テメェは手伝ったのか」
「また! そんな呼び方して! お姉ちゃんって呼んでよ」
「だ・れ・が! 呼ぶか!!」
「私が作ると! 妖くんが食べてくれないから! お母さんが一から十まで作りましたっ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に栗田は素っ頓狂な声を上げた。
「お姉さん!? ヒル魔、お姉さんがいたの!?」
その声にグラウンドに散っていた部員たちが飛び上がって一斉に集合した。
「ええ?! ヒル魔先輩のお姉さんですか?!」
「すっげ・・・メチャクチャ美人!!」
「キレー・・・え、血がつながってんですか?! ホントに!?」
「お名前は!?」
その怒濤の勢いにもかかわらず、彼女はおっとりと笑って見せた。
「私は・・・」
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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