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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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血よりも(中)



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ヒル魔の声が彼女の声を遮った。
「こいつの名前は姉崎まもり。俺の姉になろうという糞命知らずだ」
途端にまもりの顔が曇る。
けれどヒル魔の言葉の意味深な説明に、部員は食いつく。
「姉に・・・なろうと?」
「え? どういうことッスか?」
「言葉通りだ! テメェらいいからさっさと・・・」
ヒル魔はおもむろに銃を天に向ける。
「練習に、戻れ―――!!!」
「ぎゃあああ!!」
「ひぃいいいいい!?」
部員たちの阿鼻叫喚が響く中。
やはり慣れているムサシと栗田は逃げ惑うことなく傍らに立ち尽くす。
そんな彼らに直接銃口が向けられたあたりで、白い手がヒル魔を止めようと伸ばされた。
勢い余った彼女はヒル魔にしがみつく形だ。
「そんな危ないことしちゃダメ! 妖くん!!」
「そんな糞甘臭ェ呼び方すんじゃねぇ!」
「妖くんは妖くんでしょ!」
ムサシと栗田はちらりと互いに視線を交わして。
それぞれヒル魔の銃と、まもりの手にあった包みを取り上げる。
「え?!」
「糞?! 何しやがる!」
「とりあえず、これは俺たちが預かる」
「お話なら部室でしたらどう? ほら、みんなこっちが気になっちゃってるみたいだし」
言われれば、部員たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げたはずなのにまた懲りずに顔を寄せ合いひそひそ話をしている。
あれでは練習続行は無理だろう。
ヒル魔は舌打ちすると、しがみついたままだったまもりをひょいと肩に担いですたすたと歩いて行く。
「ごゆっくりー」
「鍵閉めておけよ」
からかいを含んだ声に、ヒル魔の眉が寄る。
「糞!! テメェらサボんなよ!!」
ヒル魔は実に苦々しげにそう告げると、部室へと姿を消した。


ヒル魔は険しい顔のまま、部室の椅子に彼女を下ろした。
彼にしては丁寧な、他の人が見たのなら目を疑うような恭しささえ見えたのだけれど、彼女には分からないようだった。
「んもう! いつも妖くんがお世話になってるから、ご挨拶したかったのに・・・」
「いつもあいつらの面倒見てんのは俺の方だ。テメェが出しゃばる必要なんざこれっっっぽっちもねぇんだよ」
「でも・・・」
「ったく、練習の邪魔しやがって」
ケッと言い捨てると、まもりはしゅんと俯く。
その様子にヒル魔は口角を上げて見せつつも、内心嘆息した。

ヒル魔の父が再婚した。
それはいい。母を病気で亡くし、男やもめで長いこと過ごしていた父がやっと新たな伴侶を求めたのだから。
その女性は美しく気立てもよく、家事全般を得意とし、なぜ今まで結婚しなかったのかが不思議なくらいだった。
父の相手として申し分ないその相手には、ヒル魔よりも年上の娘がいるという。
それを聞いたヒル魔は一人暮らしをすると言い出したのだが、彼女も一人っ子で、弟が出来ることを心底喜んでいるためそれは困ると父と義母に頭を下げられてしまったのだ。
そうして初めて顔を合わせたとき。
『はじめまして、姉崎まもりです』
口から生まれたと表現されるほどの彼が、言葉を失ったのだった。
義理の母に似たその女は、それこそ神様が気合いを入れて作ったのではないか、と思えるほどの美貌。
その類い希なる容姿に加え、頭脳明晰。しかも家事全般も得意で性格もよく、おおよそ難点が見つからないという女だった。
少々どころかかなり一般的な外見から遠いヒル魔を見ても物怖じするどころか、笑顔で抱きついてきたまもり。
その行動にヒル魔はらしくもなく動揺した。
だが、次いで掛けられた言葉に、一気に不機嫌になった。
『弟が出来て嬉しい! ね、私のことはお姉ちゃんって呼んでね』
先だって両親に言われていたとおりの内容だったのだけれど。
改めてこの女が『家族』として、『姉』として側にやってくるのだと思っただけでやりきれない気持ちになったのだ。
『やなこった』
そう言い放つと、彼女はそれはそれは悲しそうな顔をしたのだけれど。
ヒル魔はそれを取り消す気は毛頭なかった。
弟なんて、そんな立場になんてなるものか、と。
絶対に。

<続>
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