旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
早朝の医局。
ヒル魔が手のひらで弄んでいたのは、林檎。
朝日を弾く深い紅色。
そこに不意に声がかかる。
「紅玉ですか?」
「秋映」
「あきばえ? へえ・・・初めて聞きました」
ヒル魔が視線を向けた先には、笑みを浮かべた白衣のまもりの姿。
「一日一個の林檎は医者いらずって言いますよね」
それにヒル魔は応えるように口角を上げ、弄んでいた林檎に歯を立てる。
鋭利な牙が刺さり、果汁が滴る。
唇の端から溢れるその透明な雫を舐め取る仕草に、まもりは僅かに頬を染めた。淫靡な想像をしてしまったのだ。
はしたない、と自らを恥じた彼女が踵を返す前に。
「もっと違うモンだろ」
彼の鋭い視線がまもりを射貫く。
まっすぐに。力を持って。
「・・・違う、って」
「知恵の実」
そう言うと、彼の手から林檎が放られる。
「!」
緩やかな軌跡を描いたそれは、寸分のズレもなく彼女の手の中に収まった。
「姉崎」
彼は果汁でべたつく指先を舐める。
視線は己の囓った林檎を持ったまもりから離さぬまま。
赤い舌が粘つく唾液を纏わせて蠢く様に、まもりは急激に喉が干上がる心地を味わう。
ゆっくりと彼が歩き、さほど広くない医局を突っ切る。
根が生えたように動けないまもりの前に、覆い被さるようにやってくる黒。
その体は白衣を纏っているはずなのに、彼の印象は金と黒の二色に大別される。
「・・・何、ですか」
「知恵の実を食べた人間はどうなる?」
笑みを含んだ深い声。
別に拘束されたわけでもなく動けないまもりに彼の指先が触れるかどうかのところで。
「セクハラ発言は控えてください、ヒル魔先生」
す、とまもりを庇うように長い腕が二人の間に割って入った。
ヒル魔が舌打ちして視線を上げる。
彼と手決して背が低いわけではないが、目の前の男は平均以上の体躯を持っているのだ。
この医局で同じく小児科医として働く筧医師である。
「糞パピーが一丁前に糞番犬気取りか?」
「相変わらず失敬だな。人の名前も覚えられないのか?」
「興味のねぇコト覚える暇なんざねぇな」
一を言えば百くらい帰ってきそうなヒル魔に、筧はそれでも視線をそらさない。
男二人の睨み合いに、まもりはどうしようかと逡巡する。
けれど彼女が口を開く前に。
「姉崎。テメェは日勤だろ、さっさと用意しやがれ」
ヒル魔の声が彼女に飛んでくる。
筧もそれには異論がないようで、ちらりと視線で彼女に退室を促した。
「は、はい」
まもりは後ろ髪を引かれながらも自らの準備のためにその場を立ち去った。
医局を離れ、手渡された林檎を手に廊下の片隅で足を止める。
歯形のついたそれは、甘く香しくまもりを誘う。
『知恵の実』
確かにそうかもしれない。
これは知恵の実であり、言い換えれば悪魔の誘惑だろう。
彼とは過去に何度か食事に行ったことがあるだけの関係だ。
恋人同士と呼ぶにははっきりとした線引きはなく、他の看護師よりは仲がいい程度。
けれど、あの多忙な彼が意味もなくこれを寄越さないだろう。
わざわざ『知恵の実』とまで呼んだ、これを。
まもりは恐る恐るその果実に噛みつく。
口内に広がる甘酸っぱさ、思った以上にさくりとした歯触り、滴る果汁。
途端にそれらを同様に口に含み、蠢いた舌先を思い出す。
「・・・っ」
その感触を想像してしまって、まもりは赤面して頭を振り、ナースステーションへと駆け込む。
他の看護師が何事かと目を丸くするのを尻目に、彼女は一気にその林檎を食べ尽くし、顔を洗いに慌ただしく手洗いへと向かった。
冷たい水で顔を洗い、顔を上げる。
鏡の中の自らと目があった。
仕事はこれから。
今日は、これからだ。
<続>
ヒル魔が手のひらで弄んでいたのは、林檎。
朝日を弾く深い紅色。
そこに不意に声がかかる。
「紅玉ですか?」
「秋映」
「あきばえ? へえ・・・初めて聞きました」
ヒル魔が視線を向けた先には、笑みを浮かべた白衣のまもりの姿。
「一日一個の林檎は医者いらずって言いますよね」
それにヒル魔は応えるように口角を上げ、弄んでいた林檎に歯を立てる。
鋭利な牙が刺さり、果汁が滴る。
唇の端から溢れるその透明な雫を舐め取る仕草に、まもりは僅かに頬を染めた。淫靡な想像をしてしまったのだ。
はしたない、と自らを恥じた彼女が踵を返す前に。
「もっと違うモンだろ」
彼の鋭い視線がまもりを射貫く。
まっすぐに。力を持って。
「・・・違う、って」
「知恵の実」
そう言うと、彼の手から林檎が放られる。
「!」
緩やかな軌跡を描いたそれは、寸分のズレもなく彼女の手の中に収まった。
「姉崎」
彼は果汁でべたつく指先を舐める。
視線は己の囓った林檎を持ったまもりから離さぬまま。
赤い舌が粘つく唾液を纏わせて蠢く様に、まもりは急激に喉が干上がる心地を味わう。
ゆっくりと彼が歩き、さほど広くない医局を突っ切る。
根が生えたように動けないまもりの前に、覆い被さるようにやってくる黒。
その体は白衣を纏っているはずなのに、彼の印象は金と黒の二色に大別される。
「・・・何、ですか」
「知恵の実を食べた人間はどうなる?」
笑みを含んだ深い声。
別に拘束されたわけでもなく動けないまもりに彼の指先が触れるかどうかのところで。
「セクハラ発言は控えてください、ヒル魔先生」
す、とまもりを庇うように長い腕が二人の間に割って入った。
ヒル魔が舌打ちして視線を上げる。
彼と手決して背が低いわけではないが、目の前の男は平均以上の体躯を持っているのだ。
この医局で同じく小児科医として働く筧医師である。
「糞パピーが一丁前に糞番犬気取りか?」
「相変わらず失敬だな。人の名前も覚えられないのか?」
「興味のねぇコト覚える暇なんざねぇな」
一を言えば百くらい帰ってきそうなヒル魔に、筧はそれでも視線をそらさない。
男二人の睨み合いに、まもりはどうしようかと逡巡する。
けれど彼女が口を開く前に。
「姉崎。テメェは日勤だろ、さっさと用意しやがれ」
ヒル魔の声が彼女に飛んでくる。
筧もそれには異論がないようで、ちらりと視線で彼女に退室を促した。
「は、はい」
まもりは後ろ髪を引かれながらも自らの準備のためにその場を立ち去った。
医局を離れ、手渡された林檎を手に廊下の片隅で足を止める。
歯形のついたそれは、甘く香しくまもりを誘う。
『知恵の実』
確かにそうかもしれない。
これは知恵の実であり、言い換えれば悪魔の誘惑だろう。
彼とは過去に何度か食事に行ったことがあるだけの関係だ。
恋人同士と呼ぶにははっきりとした線引きはなく、他の看護師よりは仲がいい程度。
けれど、あの多忙な彼が意味もなくこれを寄越さないだろう。
わざわざ『知恵の実』とまで呼んだ、これを。
まもりは恐る恐るその果実に噛みつく。
口内に広がる甘酸っぱさ、思った以上にさくりとした歯触り、滴る果汁。
途端にそれらを同様に口に含み、蠢いた舌先を思い出す。
「・・・っ」
その感触を想像してしまって、まもりは赤面して頭を振り、ナースステーションへと駆け込む。
他の看護師が何事かと目を丸くするのを尻目に、彼女は一気にその林檎を食べ尽くし、顔を洗いに慌ただしく手洗いへと向かった。
冷たい水で顔を洗い、顔を上げる。
鏡の中の自らと目があった。
仕事はこれから。
今日は、これからだ。
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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