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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Two-trees(2)


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平穏無事に終わる一日というのは、奇跡なのだと病院に勤めてから知った。
今日もどこかで誰かが病気になり、誰かが怪我をし、誰かが退院し、誰かが死ぬ。
その『誰か』と己の境目が何かは分からない。
ただ、自らの仕事をして問題なく日々を過ごせることがどれだけありがたいことなのか、とつくづく思うのだ。

響くコール音。
ナースコールではなく、外来からの呼び出しだ。
まもりは飛びつくようにして受話器を取る。
「はい、小児科です!」
『救急車で搬送されてきました! 生後一ヶ月、男の子、高熱に下痢嘔吐を繰り返しています!』
「生後一ヶ月?! それなら産婦人科に・・・」
『産婦人科の先生が出払ってしまってるんです!』
その言葉に傍らでコーヒーを飲んでいたヒル魔が立ち上がり、慌ただしく降りていく。
まもりもその後を追った。
ヒル魔は救急車の中の患者を見るなり、すぐ医療用PHSを取った。
短いやりとりの後、縋るような目をした救急隊員と母親に告げる。
「ここにはNICU(乳児用集中治療室)がねぇ。今、隣町の集英総合病院に受け入れ要請した」
それに救急隊員は一気に青ざめた。
「先ほどそちらに要請した時にはもう満床だと・・・」
たらい回しになるのか。
そうなるともうこの子は助からないかも知れない。
母親はすさまじい勢いでヒル魔に食ってかかった。
「どうしてですか?! どうして、うちの子をここで受け入れられないんですか!? もう、先ほどからどこもかしこも受け入れ拒否で、もう、この子は、この子は・・・!!」
半狂乱の母親の声にヒル魔はまもりをちらりと見た。頷き、まもりが母親の方へ近寄る。
泣きわめく彼女を抱きかかえて宥めるのを視界の端で見ながら、ヒル魔は道具を持ち出した。
「あっちで受け入れ体勢を整えさせてる。こちらでは応急でそこまで持たせるよう処置する」
救急隊員は先ほど拒否したあの病院にあの短時間で受け入れるよう説得したのかと訝るが、その疑問を逐一口にする暇があるなら彼の手伝いをするべきだと頭を切り換える。
手際よくヒル魔は子供に隣町まで持ちこたえられるだけの処置を行った。
それと平行してどこかへと電話を掛ける。
「そうだ。子供の命がかかってる。・・・ああ」
ヒル魔が処置を終え、救急車を降りる頃。
けたたましいサイレン音を上げて、パトカーが二台飛び込んできた。
「パトカー!?」
「なんで?!」
驚く面々の中から、ヒル魔の怒号が響く。
「おら糞警官ども! きっちり送り届けてきやがれ!」
窓を開けて、警察官が頷く。
「はい!」
「先導します! 早く乗ってください!」
救急隊員は狐に摘まれたような顔で、それでもヒル魔に一礼して救急車に飛び乗る。
母親も救急車に引き込まれ、すさまじい勢いでパトカーと救急車が飛び出していく。
後に残されたスタッフは呆然と立ち尽くした。
そんな中、ヒル魔がまもりの腕を引いて持ち場へと戻る。
「・・・あのパトカー、まさかヒル魔先生が呼んだんですか?」
「おー」
あれなら確実に道が開ける、と続けて再び電話を掛ける。
病状を口早に説明している。どうやら受け入れ先の集英総合病院の医師のようだ。
その様子は真剣そのもので、朝の一件の彼とは結びつかない。
一体どれが彼の本質なのだろうか、と首を捻りながらまもりは彼の背中を見つめていた。

数時間後。
まもりの勤務終了間際に医局のヒル魔に招かれる。
「おい姉崎」
「なんですか?」
「集英総合病院から連絡があった」
あの子供は一命を取り留めた、と聞いてまもりは心底安堵する。
「よかった!」
笑う彼女に椅子に座っていたヒル魔は何かを見せる。
手のひらで弄ぶのは、朝に見たのと同じ。
「林檎・・・」
「違ェ」
ニィ、と口角が上がる。子供たちが親しみを込めて『悪魔先生』と呼ぶその顔だ。
「知恵の実だ」
彼の手から林檎が放たれる。朝と同じく、それを受け取って。
「・・・え」
軽い。林檎のあのずっしりとした密度の濃い重さがない。
「あの」
「テメェは明日休暇だな」
「え・・・はい、そうです」
唐突な話題変換に首を傾げるまもりを余所に、彼はカルテを手に立ち上がり、意味深な笑みを見せて医局を出て行く。
「何、かしら」
一人呟き、まもりはその林檎を検分する。よく見れば中に何かを入れられる小物入れのような作り物の林檎。
あちこちを触っているうちに、ぱくりと林檎が割れる。
「あ!」
その中に収まっていたのは、二枚のカードとメモだった。
『メシ作って待ってろ。カード使って来い』
たった一言だけだ。どこで、とも何時まで、とも何一つ他に情報はない。
カードは一枚がクレジットカードで、見たことのないデザインのものだった。
もう一枚はマンション名が書かれたシンプルなもの。おそらくカードキーだろう。
この意図を尋ねようにも、ヒル魔は準夜勤の回診に向かってしまっていて捕まえられない。
「どうしたの?」
準夜勤の当番でやって来た乙姫になんでもないと首を振って見せて、まもりは更衣室へ向かう。
着替え終わる頃には、心は決まっていた。


<続>
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